Next Generation Talent:
モンゴルから東京へ 日本留学で得るグローバルな視点

幼い頃から日本に関心を持つ
デンベレルさんは、モンゴルの首都ウランバートルの中流家庭で育った。エンジニアの父親、専業主婦の母親の下で、兄と一緒に地元の学校に通い、都会で幸せな子ども時代を過ごした。だが幼い頃から、世界を旅することを夢見ていたという。
英語は母国の学校で習ったが、流暢に話せるようになったのは、ポップスのおかげだった。「ブラック・アイド・ピーズの曲にのめり込みました」と言いデンベレルさんは笑う。「それからザ・ウィークエンドも。教科書やテストなどを通して言語を勉強することはもちろん役に立つし必要ですが、その言語の背後にある文化に興味を持つことも重要だと思います。単語を暗記するだけでは、言語は習得できません」
日本に目を向けるようになったのも、こうした異文化への興味がきっかけだった。「モンゴルでは、日本のアニメ『進撃の巨人』がとても人気でした。ただ、モンゴル語の字幕付きで放送されるまでには1~2日の時間差があったんです。自分はすぐに見たかったのと、まだ日本語がわからなかったので、英語字幕で見ていました」
日本に興味を持つきっかけはアニメだったが、最終的にデンベレルさんを魅了したのは、東京という街だった。初めて東京を訪れたのは、2015年の家族旅行でのこと。当時はまだ幼かったため、一番記憶に残ったのは東京ディズニーランドだったが、この旅行でデンベレルさんの心にはある考えが芽生えた。
「東京で本当に印象的だったのは、ユニークな文化の融合です。東京は、安全かつダイナミックな環境の中で、西洋と東洋の両方の影響を真に体験できる数少ない場所の一つです。自分もいつか、東京のような場所に住めるかもしれないと思い始めました。でも、それが本当に実現しそうだと思えるようになったのは、かなり後のことです。留学のような大きな決断について考えるとき、できないと思ってしまいがちです。でも実際には、できるのです」

キャリア目標と自己開発への道
東京で暮らすという夢は、高校の最終学年になってついに現実味を帯び始めた。東京の大学に進学すれば、自分の学業とキャリアの目標に沿った学位を取得しながら、日本での生活を体験できると考えるようになったのだ。
大学進学に先立ち、2023年4月に東京に引っ越し、語学学校で1年間にわたり日本語を集中的に学んだ。本人は自身の日本語能力については控えめに語るものの、日本語能力試験(JLPT)で2番目に高いレベルであるN2認定をわずか1年で取得できた。
2024年9月に、中央大学国際経営学部に入学。同学部は、積極的な社会貢献に必要な知性と自発性を兼ね備えた未来のリーダー育成を目指しており、学生は人々の相互の結びつきがますます強まる世界で活躍するために必要なスキルと知識を習得できる。
4年間のカリキュラムでは、専門演習(ゼミナール)などの授業を通じ、自分の意見を理論的かつわかりやすく説明する力や、多様な視点を理解する力を身に付けていく。語学力と国際感覚は、卒業後に世界を舞台に活躍するための重要な資質だ。学生は国際経営学または経済学を専攻し、卒業論文を作成する。3年次には、国内あるいは海外でインターンシップを行い、貴重な実務経験を積む。
同学部は、東京というダイナミックな街の中で、勉学と実践を組み合わせることで、世界を舞台に活躍できる人材を養成している。経営学を専攻するデンベレルさんは、東京が国際市場と文化交流への理解を深めるのに最適な場所だと考えている。「東京は伝統やポップカルチャーだけではなく、国際ビジネス、イノベーション、娯楽の中心地でもあります」
卒論を書き始めるのはまだ先のことだが、すでにテーマの候補はあるという。「鉱業はモンゴルの主要産業であり、鉱業世界大手のリオ・ティントなども進出しています」とデンベレルさんは説明する。モンゴルには豊富な天然資源があり、鉱業は同国経済の主な原動力だ。クリティカルミネラル(重要鉱物)の需要が高まる中、鉱業が経済成長、環境の持続可能性、国際貿易に与える影響は増している。「まだ構想段階ですが、鉱業は私の国や世界全般で非常に重要であるため、もっと詳しく研究したいトピックです」
ある教授に出会い、世界の見方が一変
デンベレルさんは、中央大学で自分ら留学生が温かく歓迎されたことに感激したという。「正直、日本の学生生活については誤解していました。モンゴルでは、日本の大学生はとても勤勉かつ真面目で、勉強ばかりしていると思われています。でも実際には、私生活と勉学のバランスがとれているのが嬉しい驚きでした」
少人数制クラスのおかげで、大学生活になじむのも楽だった。クラスメイトの留学生20人は、ベトナム、韓国、カナダ、米国、中国、ウクライナなど、さまざまな国の出身だ。中央大学で国際色豊かな友人の輪ができたおかげで、視野も広がった。「例えば、正直に言うと、モンゴルは隣の中国と長く複雑な過去があるので、モンゴル人は中国人についてある種の偏見を持っています。でも今年、中国人のクラスメイトができたおかげで、彼女の出身地や文化をよりよく理解できました」

デンベレルさんはまた、留学生の意見にしっかり耳を傾けてくれる中央大学の国際センターを高く評価している。
「留学生の中には、自分たちが少し孤立してしまっていると心配する人もいました。日本人の学生ともっと交流したかったのです。(国際センターの)国松麻季所長も賛同して、日本人学生と留学生が交流するピザパーティーを開いてくれました。とても楽しかったです! 日本人学生は、私たちと知り合いになれたり、英語を話す機会を得たり、私たちの出身地について聞けたりすることを、とても喜んでいました。私たちも同じです。その後も交流が続きました。私は日本人学生にアンケートのお願いをしましたが、とても協力的で、熱心に対応してくれました」
こうした取組の背景には、中央大学の国際化計画「Chuo Global-X」がある。これは、留学生の受け入れ拡大などを通じて「グローバル・キャンパスの実現」を目指すものだ。同大は、留学生が大学に溶け込めるようにし、キャンパス環境全体を改善するなどして、国際化を推し進めている。
教授陣も国際色豊かだ。デンベレルさんは1年次で既に、日本人の教授だけでなく、台湾人、韓国人、アメリカ人、カナダ人が教える授業を受けた。「みんなとても素晴らしい先生です。でも一人だけ挙げさせてもらうと、経営学のダニエル・ヘラー教授の授業を受けて、世界に対する見方が変わりました。人生のスタートラインの位置は人それぞれだと教わり、公平性や、成功へのさまざまな道のりについて、本当に考えさせられました」
日本とモンゴル
デンベレルさんは、モンゴルが舞台の人気ドラマ「VIVANT」などの影響で、母国が日本で旅行先としての人気を集め始めていることをうれしく思っている。モンゴルについては世界で多くの誤解があるのだという。「皆が持っているイメージは、チンギス・カンが家来たちと一緒に馬で駆け回っているような光景です。でも、ウランバートルには、馬はいないです! 走っているのはトヨタ車ばかり」と言って笑った。
将来の目標は、自分の東京での経験を、モンゴルの発展、繁栄、幸福に役立てることだ。「モンゴルには、留学で得た専門知識を持ち帰った優秀な人材がたくさんいます。そのすべてを集約するのに必要なのが、経営です。中枢神経系のようなものですね。ここで学んだことを、それに役立てたいです」
デンベレルさんは学業の傍ら、子どもたちに英語を教えている。この経験から、別の目標も生まれた。「いつかモンゴルの大学で教えたい。次の世代のモンゴルの子どもたちには、不可能なものなんてないと信じてほしいです」
デンベレル・ツェルメグ
写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生