江東区発、地域をつなぐ新しい福祉のかたち

東京で唯一、福祉施設が三つも共存
深川えんみちがあるのは、江東区深川の富岡八幡宮の近く。路地に小さな店舗が立ち並ぶ、下町情緒が漂う地域だ。2階建ての建物の1階で「深川愛の園デイサービスセンター」、2階で「ライト学童保育クラブ」と子育てひろば「ころころ」が活動している。1階の中央には「えんみち」が通り、利用者は建物内を自由に行き来できるオープンな造りとなっている。
「人が密集した地域では福祉施設の建設に反対意見が出るケースも聞きますが、深川は大きな祭りもあって地域とのつながりが濃いためか、皆さんとても寛容です」
斎場を改修してサービスを開始したのは2024年。「学童保育とデイサービスを同じ施設内で運営するのは、東京で唯一、そして全国でも珍しいケースです。最近は日本だけではなく、海外からも視察に訪れる方が増えました。福祉大国のデンマークから来た学生は、自分たちの国にはこのような多世代共生型の施設はないと言っていました」と押切氏。

自由な交流で大人も子どもも元気に
「ただいま!」
授業が終わりランドセルを背負って集まってくる小学生に、デイサービスの高齢者は「おかえり!」と声をかける。深川えんみちの日常の光景だ。施設内は自由に行き来できるから、小学生が1階で高齢者に宿題を見てもらうこともあれば、高齢者が運動のために階段を上って2階に遊びにくることもある。
「節分の豆まきなどの交流イベントもありますが、日常的に交流しているので、高齢者も子どもたちもいつの間にかお互いを名前で呼び合うようになっています」
最近顔を見ない高齢者が実は入院していた、ということもある。
「子どもたちにとってはショッキングな出来事ですが、それも貴重な体験です。ごくまれに高齢者の方たちが言い争いになることもあります。子どもたちは大人のそういう姿に驚くのですが、大人だって自分たちと変わらない部分があることを知る良い機会になっています」
祖父母と交流するのは長期休暇のときだけという子どもも多く、日常を共にするからこそできる体験は貴重だ。
「高齢者の方も、退屈することなく過ごせているようです。子どもたちの帰りを楽しみに待っているからかもしれませんね」
私設図書館は地域住民のサードプレイスに
えんみち沿いに設けられた私設図書館「エンミチ文庫」もユニークな試みだ。規定の料金を払って本棚一箱分のオーナーになれば、自身がおすすめする本を並べることができる制度で、地域住民がオーナーとして、あるいは利用者としてここに集う。まさにサードプレイスだ。
「仕事の都合で大阪から引越し、単身で数年住んでいるある方は、オーナーになって初めて、学童を利用する子どもに街中で気さくに声をかけられたとおっしゃっていました。エンミチ文庫があるのは福祉施設です。自分に福祉は関係ないと思っている方も多いですが、エンミチ文庫はそういった方がここに足を運ぶきっかけとなり、新たな交流が生まれています」

屋外の「かまどひろば」には、かまどと土をベースにしたアースオーブンを設置した。ここではピザや豚汁、カレーをみんなで作って一緒に食べる。かつて材木問屋が多く存在した深川とあって、燃料用の薪は今も材木業を営む近所の方が届けてくれる。

街で暮らす人たちをつなげる設計が評価され、2024年グッドデザイン金賞を受賞した。
「今年から新たに中学生、高校生を対象にした英語教室も始まり、異なる世代が足を運ぶようになりました。深川も近年は、地域住民の交流の機会は減っています。地域に支えられている場であると同時に、地域の人たちが気軽に立ち寄れる場であるように、これからも活動を続けていきたいですね」
押切道子
深川えんみち
https://fukagawa-enmichi.jp/写真/藤島亮