Tokyo Embassy Talk:
120年の友好を越えて──パナマと日本の新たなパートナーシップ

 2024年、パナマと日本は外交関係樹立120周年という節目を迎えた。その記念すべき年に駐日パナマ大使として着任したワルテル・コーエン・ウリベ大使に、東京の印象や文化・経済面での交流、そして将来のビジョンについて話を聞いた。
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ワルテル・コーエン・ウリベ大使。駐日パナマ大使館にて

東京の印象と、パナマから見た日本の姿

 2024年10月に東京へ着任したコーエン大使は、かつて民間企業で日本人とともに働いた経験を持つ。そのため、赴任前から日本文化への親しみと尊敬の念を抱いていたという。

 「日本に到着して最初に感じたのは、人々の礼儀正しさと温かさでした。時間を大切にし、互いを尊重し合う文化が、日々の暮らしに自然と根付いています」

 東京の清潔さや都市インフラ、安心して過ごせる環境も高く評価。食文化では特に刺身を好み、「日本食には以前から親しんでいたため、生活への順応はとてもスムーズでした」と話す。

 さらに大使は、東京の人々が持つ「誇りを持って仕事をする姿勢」や、「日本製品に対する愛着と完璧を追求する文化」にも深い感銘を受けたという。日々の暮らしを通じて、日本社会の秩序、勤勉さ、そして調和の精神を実感しているようだ。

 取材を通じて感じたのは、東京が単なる首都というだけでなく、多様な文化・価値観を受け入れる懐の深さを持つ都市であるということだ。外国人にとっても暮らしやすく、礼節と配慮が自然に行き交う空間は、コーエン大使にとっても"新たな日常"としてすぐに馴染める理由となったに違いない。

 パナマでも日本は「勤勉で礼節を重んじる国」として深く尊敬されているという。長い歴史と革新性を併せ持つ国として、常に模範とされてきた。近年は観光先としての関心も高まり、ビザ免除措置により人の往来も活発化している。

国交樹立120周年と広がる人的交流

 2024年は、パナマと日本の外交関係樹立120周年という節目の年だった。記念事業の一環として短期滞在ビザの相互免除が実現し、パナマでは日本旅行への関心が高まり、多くの観光客が来日している。中には高級ホテルやレストランを利用する富裕層の姿も見られ、日本でのパナマの存在感も増している。

 一方、パナマには、中南米を拠点にする日本企業が多国籍企業本部制度(SEM)を利用して進出しており、現地には日本人コミュニティも形成されている。こうした人的往来を一過性で終わらせず、奨学金や語学学習を通じた若者世代の文化交流へとつなげていくことが今後の課題だ。

物流と漁業から広がる、パナマと日本の実務的連携

 日本とパナマの経済関係を象徴するのが、国際物流の要であるパナマ運河だ。現在、日本は同運河の第3位の利用国であり、パナマ船籍を持つ船舶の約3割が日本関係者によって運航されている。

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物流の要として機能するパナマ運河。日本は現在、同運河の第3位の利用国となっているPhoto: courtesy of  @visitpanama

 「近年は気候変動による水不足が深刻化しており、日本と協力して水資源の効率的な利用に関する研究を進めるとともに、運河沿岸の植生強化によって水の損失を抑える方策も検討されました」

 こうした協力は、環境への配慮と持続可能な国際輸送の両立を目指すものとして注目されている。 首都パナマ市にあるマリスコ市場も、両国の連携の成果の一つだ。老朽化していた市場は一度取り壊され、日本の支援により新たに建設された。衛生的かつ機能的な施設となり、漁業関係者はより良い環境で水産物を提供できるようになった。

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首都パナマ市にあるマリスコ市場。日本の支援により新設され、観光と漁業の新たな拠点となっているPhoto: courtesy of  @visitpanama

 「日本の水産業に関するノウハウは非常に優れており、今回の市場建設にもその知見が活かされました」

 飲食施設も併設され、周辺は散策を楽しめるエリアとして整備されており、観光資源としての価値も高まっている。「この市場ができてからは私自身も、日本に赴任する以前はほぼ月に一度は足を運ぶようになりました」と大使は話す。

 さらにパナマ政府が現在注目しているのが、「リオ・インディオ川ダム建設プロジェクト」と呼ばれる新たな水資源確保策であり、同国では将来的なインフラ・環境対策の柱の一つになると見られている。

 「運河の持続可能な運用に向け、重要な河川から水を供給する計画が進められています。現在、日本の企業とも話し合いを進めており、今後の技術連携に大きな期待を寄せています」

 この取組はインフラ整備にとどまらず、環境保全や地域開発の観点からも意義のある協力になると見られている。

若者をつなぐ文化と教育の交流

 未来を見据え、次世代を担う若者たちの教育・文化交流の推進にも力を入れている。現在、語学学習や専門人材育成を軸とした交流が進行中だ。

 「パナマでは日本語を学ぶ学生が増えており、日本でもスペイン語教育への関心が高まっています。語学を通じて互いの文化を知ることが、将来的な連携の基盤になります」

 特に船員資格を対象とした海事分野では、資格制度の互換に向けた取組が進んでおり、パナマの学生が日本で専門教育を受ける機会も生まれている。「こうした専門的な学びの場を文化交流と結びつけることで、言語と技術の両方を備えたグローバル人材の育成が可能になります」

 東京は、海事教育や研究機関が集積する都市であり、パナマの学生にとって重要な学びの場となっている。将来的には交換留学、教育機関同士の連携、共同研究など、多層的な協力への発展が期待されている。

120年の信頼を礎に、次なる協力のステージへ

 120年にわたる信頼と交流の歴史を振り返りながら、コーエン大使は未来に向けたビジョンを語る。

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コーエン大使は、外交関係120周年を節目に、さらなる経済・文化交流の拡大を目指す

 「私たちの使命は、人と人とのつながりをさらに深め、文化と価値観を次の世代につなげていくことです」

 その一例が、現在検討が進められているパナマ〜日本間の直行便構想だ。中南米のハブであるパナマと、アジアの中心である東京が直結することで、交流の質と量は大きく高まるとされている。

 「すでに関係機関との協議は進行中で、課題はあるものの、実現の可能性は高いと考えています」

 また、大使は経済分野でのさらなる関係強化にも意欲を見せる。「より多くの日本企業や金融機関にパナマへ進出してほしいです。既存の交流を基盤に、新しいビジネス協力の形を築いていきたいと考えています」

 観光、経済、教育、物流----多様な分野で結びつく両国。120年の歩みを礎に、パナマと日本はこれからの時代にふさわしい新たなパートナーシップを築きつつある。

ワルテル・コーエン・ウリベ

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2024年10月、駐日パナマ大使として着任。民間企業における経済・ビジネス分野での豊富な経験を持ち、着任後は文化交流や人的往来の促進、両国の経済連携強化に注力。特にパナマ運河をはじめとする戦略的分野での協力拡大や、次世代を担う若者への教育交流の推進に取り組んでいる。
取材・文/ウォルト・デルガド
写真/藤島亮