さまざまな災害を疑似体験 外国人も防災を学べる都内の施設

 災害や緊急事態への備えは、レジリエント(強靭)なコミュニティをつくる上で重要だ。特に東京のような、1,400万人以上が暮らす大都市にとって、防災は不可欠な要素となる。東京消防庁池袋都民防災教育センター(池袋防災館)では、火災や地震などの緊急時の対応方法を、実際の体験を通じて学ぶことができる。同館はまた、在日外国人のために「やさしい日本語」で行う防災体験ツアーも開催している。
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日本語で「火事だ!」と叫び、火災を知らせる方法を教えるインストラクター

やさしい日本語防災体験ツアー

 東京消防庁が1986年に設立した池袋防災館は、都民や観光客に防災の重要な技術や知識を学んでもらう体験施設だ。豊島区の池袋駅そばという便利な立地で、入場と体験ツアーはいずれも無料。ツアーでは、専門知識が豊富な元消防庁職員がインストラクターを務める。

 同館では、すべての都民に防災の知識が行き渡るよう、日本語がまだ不自由な住民に向けた「やさしい日本語」ツアーも開催している。インストラクターはゆっくり、はっきり話すと同時に、「地震」を「地面が動く」、「避難」を「安全な場所に行く」とするなど、わかりにくい用語を簡単な言葉で言い換えている。また、さまざまなビデオや図を用い、ツアー内容が分かりやすいようにしている。

 同館の阿部良雄館長代理は「日本には多くの外国人が住んでおり、日本で育った人と同じ防災教育を受けられることが重要です」と説明する。「このような体験講座を受けることで、実際の緊急時の被害を軽減できます」

 「やさしい日本語防災体験ツアー」には年間平均約230人が参加。その約70%が都内に在住または勤務している。ツアーの所要時間は1時間40分で、参加には予約が必要だ。

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ぼやを消し、大火災から避難

 体験ツアーではまず、消火器の使い方と、炎上する建物からの避難方法を学ぶ。いずれも、日本だけでなく世界で通用するスキルだ。

 参加者はインストラクターから、日本語で「火事だ!」と叫ぶ方法と、消防車や救急車を呼ぶための119番通報の方法を教わった。

 次は、消火器の練習だ。使い方は簡単で、「ピン」「ホース」「レバー」(いずれの部品も呼び名は英語でも同じ)の順番で操作する。ツアーで使用する消火器からは実際の消火剤ではなく水が出るようになっており、参加者はこれを使って、壁に投影された台所のぼやなどを消す。

 だが消火体験が終わるとインストラクターは、自分で消火ができない大火災の場合は迅速な避難が重要だと説明した。煙には有毒な一酸化炭素が含まれており、大量に吸い込むと意識を失ってしまう。高さ100メートル以上の建物が600棟以上ある東京では、安全な避難方法を知っておくことが特に重要になる。

 ツアーでは、煙が充満した迷路を使い、燃えている建物からの避難を疑似体験できる。参加者は、タオルなどの布で鼻と口を覆い、煙の下にかがみこむよう指示された。参加者は迷路に入ると、ドアや壁を触って熱いかどうかを確認しながら、暗闇の中を手探りで出口に向かった。迷路の中をしゃがみ歩きするのは疲れたが、少しでも体を起こすと煙の臭いが強くなった。こうなると、煙を吸い込む量が危険なレベルに達してしまうのだという。

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消火器を使う練習をするツアー参加者

大地震を疑似体験

 次に学んだのは、地震への備えだ。プレートの沈み込み帯の上に位置している日本では地震が頻発するため、震災への備えは全国の学校などで教えられている。

 地震のほとんどは人が気づかないほど小さい揺れだが、2011年の東日本大震災のような大地震は深刻な被害をもたらす可能性があると、インストラクターは説明した。地震が発生したら、棚などから落ちてくる物から身を守るために素早く行動する必要がある。

 地震コーナーではまず、プレートの動きが地震や津波を引き起こす仕組みを解説するビデオが流された。その後、インストラクターから、地震発生時の行動に関するクイズが出された。例えば、地震が起きたらテーブルの下に身を隠すべきか、それとも外に出るべきか。そして、テーブルの下に潜る前に、ガスコンロを消すべきなのか。後者の問いには迷う参加者もいたが、インストラクターによると、まずは自分の身を守ることが何よりも大事なのだという。

 最後に行われた地震のシミュレーション体験では、参加者は揺れるステージの上に置かれた大きなテーブルの下に隠れるよう指示された。1回目のシミュレーションは、揺れが始まる前に日本の緊急地震速報が発令されたという想定。2回目のシミュレーションでは事前の警報がなく、揺れもより激しくなった。これは2011年の東日本大震災を再現したもので、スクリーンには当時の映像が映し出された。揺れは不規則で、少し収まったかと思うとまた揺れるという状況が続いた。

 地震を理由に日本旅行を控えるべきではないが、備えあれば憂いなしであることは間違いない。阿部氏によると、同館訪問者の中には、日本に長期滞在中で地震対策についてもっと知りたいと思った人も多いという。

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最も強い震度7を再現する体験で、テーブルの下に潜る参加者

日本で応急処置を学ぶ

 ツアーの最後には、応急処置のやり方を学ぶ。具体的には、心肺蘇生法(CPR)と自動体外式除細動器(AED)の使い方だ。

 インストラクターは、誰かが倒れたときに日本語で助けを求める方法として「たすけてください!」や「だれかきてください!」、あるいは単に「ヘルプ!」と叫んでもいいと教えてくれた。AEDの操作方法は日本語で書かれていたことや、いざという時にはなかなか冷静にマニュアルに従うことができないことを考えると、マネキンを使っての実習は貴重な体験だった。

 インストラクターは最後に参加者に向け、何度でも同館を訪れて技術を磨き、経験を積んでもらいたいと呼びかけた。また、これからの季節は大雨や台風も多いので、安全な避難場所を知っておくこと、災害に備えて非常持ち出し袋を用意しておくことが大切だと教えてくれた。

 誰も取り残されないレジリエントな都市づくりには、防災の取組が欠かせない。東京の住民や外国人訪問者が増える中、池袋防災館は今後も重要な役割を果たしていくだろう。

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救急コーナーで、マネキンにAEDを取り付ける練習をする参加者

東京消防庁池袋都民防災教育センター(池袋防災館)

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1986年設立。防災に関する知識や技術を楽しみながら学べる施設で、消火器を使ってぼやを消したり、炎上する建物内から煙を避けつつ避難したり、地震の際に身を隠したりと、様々な防災活動を体験できる。在日外国人や観光客向けに、やさしい日本語で行う防災体験ツアーも開催している。
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/taiken/ikebukuro/index.html

TOKYO強靭化プロジェクト

https://tokyo-resilience.metro.tokyo.lg.jp/
取材・文/アナリス・ガイズバート
写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生