東京の玄関口で100年先を見据えるホテル

歴史が織り成すストーリーを届ける
日本の近代建築の父とも呼ばれる、辰野金吾が設計した東京駅丸の内駅舎は創建当時、日本最大級の荘厳な西洋建築として大きな注目を集めた。あまりにも頑丈な造りから「辰野堅固」との愛称で呼ばれることもあったという辰野の設計は、マグニチュード7.9と推定される関東大震災でも被害はほとんどなかったとされる。
しかし第二次世界大戦時の空襲では、ドーム型屋根を消失するなど大きな被害を受けた。復興時には急を要したこともあり、被害が大きかった3階部分を取り除き2階建てに、屋根は八角形のスレート屋根に変わった。
まさに歴史の変遷を経てよみがえったのが、3階建てにドーム型屋根を持つ現在の姿だ。

「創建当時から残る部分を限りなく保存し、失われた部分を忠実に復原するのはとても手間のかかる作業です。例えば、丸の内駅舎のシンボルとも言える赤レンガは形状や材質、そして色合いも創建時のものに近づけるよう時間をかけて準備されました。こうした作業を丁寧に行ったのは、東京駅丸の内駅舎の歴史的価値を受け継ぎ、未来へつなぐという想いがあったからです」と話すのは、東京ステーションホテルの副総支配人 マーケティング&セールスの八木千登世氏だ。
レガシーとしての価値を受け継ぐ
歴史とは過去から受け継ぐものであり、さかのぼって作ることはできない。それだけに歴史を紡ぎ、未来につなげていくことで壮大なストーリーが生まれる。
「これまでの110年を次の100年につなげていくことが私たちの使命です。『使い続ける文化遺産』にあるホテルとして、そのレガシーの価値を広く発信していきたいと考えています」
保存されている文化遺産は数多く存在するが、本来の目的から離れ建造物を見学するための博物館や記念館として公開されるケースも多い。しかしここは駅やホテルとしての機能を最大限に活用している。
「館内は最新のテクノロジーを駆使した設備になっており、防火や耐震など防災面でもできる限りの対策を施しています」
まさに過去を未来につなぐホテルなのだ。
「ホテルそのものが持つストーリーに、このホテルを選んでくださるお客様たちのストーリーが重なることで、より豊かなストーリーになります」

気軽に楽しめるスポットも
宿泊しなくても東京ステーションホテルの魅力を体感することは可能だ。
ドーム屋根の内側にある壮麗なレリーフは、東京駅の南北の丸の内改札からも見え、鷲や干支(えと)の彫刻など細部の美しさを実感できるだろう。南口のレリーフの一部に白ではなくグレーのパーツがあることにも注目だ。これは残存していた創建当初のレリーフ。復原されたものと区別している。2階のレストランエリアをつなぐ回廊からなら一部がより間近に見える。残存するオリジナルを最大限尊重し保存に努めている。

ホテル内で営業する10の飲食店では、さまざまなジャンルの食事やお茶、お酒が楽しめる。特におすすめしたいのは、2階にあるレストラン「ブラン ルージュ」だ。和の食材を生かしたフランス料理のレストランで、窓からは東京駅のホームに入構する列車を間近で眺めることができる。まさにここでしかできない体験だ。

東京で体感するオールド・ミーツ・ニュー
ここ数年は、外国人旅行客の利用も急速に増えている。利便性の良さでは他の追随を許さないが、このホテルが持つストーリーに共感する人たちが増えていることも大きな要因だろう。
「東京の街の魅力の一つが、伝統と革新の融合にあると思います。歴史を持つ建造物や芸術品があり、最先端の文化にも触れられる、まさにオールド・ミーツ・ニューを体感できる街です。私たちもその一端を担っているという自負があります」
ホテルのストーリーを知ることで、より深く楽しめるようになる。そこに自身のストーリーを重ねることで、東京ステーションホテルでの体験は最高の思い出になるだろう。
八木千登世
東京ステーションホテル
https://www.tokyostationhotel.jp/写真/穐吉洋子