メンテナンス業務のスマート化で、持続可能な都市を目指す

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 5月8日から10日までSusHi Tech Tokyo 2025が東京ビッグサイトで開催され、世界各地から集まった期待のスタートアップ企業等が、現代の重要課題に取り組むための革新的なアイデアやソリューションを披露した。その中の1社、中でもスケールアップ企業であるWeMaintainは、グローバルに展開する急拡大中のフランス企業で、テクノロジーを活用し、従来のメンテナンス業務をシームレスかつデータ主導のオペレーションへと変革している。
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SusHi Tech Tokyo 2025でWeMaintainのテクノロジーを紹介する創業者のブノワ・デュポン氏

不動産業界でデジタル革命を起こす

 SusHi Tech Tokyoは、持続可能な未来の都市づくりに貢献するハイテクスタートアップ企業のイノベーション促進を目指している。WeMaintainのテクノロジーは、都市を構成する重要な要素、すなわち建築物に着目し、まさにその役割を果たすものだ。 

 WeMaintainの創業者の一人でSusHi Tech Tokyo 2025に参加したブノワ・デュポン氏は次のように話す。「不動産は370兆ドルを超える世界最大規模のアセットクラス(資産の種類・分類)ですが、建設業は、農水業に次いで、世界で2番目にデジタル化が遅れている業界です。さらにもう一つ問題なのは、世界の温室効果ガス排出量の40%は不動産に由来しているということです。最大のアセットクラスと、世界の二酸化炭素等排出量の最大要因という、この大きな問題にどう取り組めばよいのでしょうか」

 デュポン氏らWeMaintainの人たちが考える一つの答えはデジタル革命である。「今の状況を変えるにはテクノロジーが必要です」と彼は言う。WeMaintainは、特定のデバイスやプラットフォームに依存しないIoT(モノのインターネット:さまざまなデバイスが接続されたネットワーク)を開発し、そこから得たデータを機械学習を用いたAIに取り込んで処理している。「機械学習の利点は、事前の設定が必要ないことです。IoT機器を設置してデータを取り込んだら、あとはすぐに機械学習を実行するだけです」

 エレベーターやエスカレーターなど建物の設備にあらゆるセンサーを設置すれば、その設備の稼働状況を監視することができ、メンテナンスが必要な時期の予測や、運用効率の向上を図ることができるようになるほか、適切な省エネ対策を検討するためのデータを得ることも可能になる。不動産の所有者にとって、こうしたテクノロジーは非常に貴重である。「不動産業界は、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)を達成しようとするのであれば、テクノロジーの活用以外に手はないということに気づき始めています」 

フランスのイノベーションと日本の既存技術との融合

 WeMaintainは2017年にフランスで創業した。デュポン氏、ジャッド・フランシーヌ氏、トリステン・フーレール氏の3人で立ち上げた会社は、現在では300人を超える従業員を擁するまでに大きく成長した。従業員だけでなく顧客基盤も拡大しており、同社はアジアで確固たる地位を築くとともに、急速な発展を続けている。 

 「当社のビジネスの70%はすでにフランス国外で展開しており、アジアは当社にとって最も成長著しい市場です。だからこそ、この市場開発を確実なものとするために、創業者である私自身が4か月前にこの地域に移り住むことにしました」。WeMaintainが獲得した香港の地下鉄との900万ドルの契約をサポートするために香港に拠点を移したデュポン氏は、今度は日本市場への参入を目指している。

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特定のデバイスやプラットフォームに依存しないWeMaintainのIoTは予知保全を可能にし、不具合が発生する前にその兆候を発見することができる Photo: courtesy of WeMaintain

 「日本は、工業の時代から今のデジタル時代に至るまで、もともと非常に高い技術力を誇る市場です。東京のような大都市には、私たちにとって多くの可能性があります。問題は、テクノロジーの利用によって、すでに完璧に近いシステムの効率性をどれだけ引き上げられるかということです。それが最大の課題です」 

 そのことを踏まえた上で、デュポン氏は、東京そして日本全国に自社のテクノロジーを展開するチャンスがあると見ている。「日本人は予防保全、つまり故障を未然に防ぐのが得意です。一方で、WeMaintainが力を入れているのは予知保全、すなわち不具合の兆候をユーザーにお知らせすることです。この二つを組み合わせることができれば、故障は一切発生しなくなるかもしれません」

長年の関係を強化

 日本とフランスの間には、とりわけファッション、アート、食の分野において、1世紀以上にわたる強い結びつきがある。今後はそれがテクノロジー分野にも広がっていくことをデュポン氏は期待している。「フランスのテクノロジー業界のエコシステムは大変活気に満ちており、日本での事業展開は、互いに学びあうよい機会になると思います。すでに両国の間には信頼関係がありますからね。これは、何事を始めるにも非常に重要なことです」 

 デュポン氏は、テクノロジーやAIの分野におけるフランスの強みとともに、フランス人の創造性と「パナッシュ」(華やかさやかっこよさ)も日本市場に持ち込みたいと考えている。「私たちは日本人とは異なる視点を持っていますから、日本ではまだ誰も思いついていないようなアイデアをもたらすことができます」。しかし、「パナッシュ」には本物の、確かな製品が伴っていなければならないことも、デュポン氏は知っている。 

 「日本はすでに高度に発展していますから、日本に参入するのであれば、世界で実績のあるしっかりとした製品をもって臨まなければなりません。当社の価値は、独自のテクノロジーとAIモデルにあります。メンテナンス面に特化したテクノロジーの導入は、東京に多くのメリットをもたらすと私は見ています」 

 デュポン氏にとって、日本市場に参入することはローカルな視点からその市場を理解することでもある。「ある市場に参入する際には、営業担当者もチームメンバーもすべて現地の人にしなければなりません」とデュポン氏は言う。「私たちはこれまですべての地域でそうしてきました。イギリスでは、フランス人を派遣するのではなく、現地でイギリス人を採用してチームを作りました。シンガポールでも香港でもそうでしたし、今度は日本でもそうするつもりです。大勢の人材がそこにいるのですから、今後も現地の人を採用し続けていきます」 

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エスカレーターの運転状況を監視するIoT機器を検査するWeMaintainのエンジニア Photo: courtesy of WeMaintain

SusHi Tech Tokyoが地域エコシステムへのスタートアップ企業の参入を促す

 世界中の多くのスタートアップ企業にとって、他の国のエコシステムに進出することは、最大のハードルの一つである。SusHi Tech Tokyoの利点は、スタートアップ企業同士を引き合わせるだけでなく、こうした企業と、自国の市場を知り尽くした大企業とをつなぐことができる点だ。「SusHi Tech Tokyoは、関係者が一同に会する非常に効率的な機会です」とデュポン氏は話す。「初日に名刺を配り切ってしまったので、急いで新しいものを印刷しなければならないほどでした。多くの方が当社のソリューションに大変関心を持ってくださり、このテクノロジーの仕組みを理解しようと、詳細な質問が寄せられました。当社のソリューションについて、これほど技術的に深い理解を示してもらえることは、他のイベントではめったにありません」 

 昨年の成功を受けてスケールアップしたSusHi Tech Tokyo 2025には、テクノロジーやサステナビリティの分野から600社以上の出展があり、57,000人を超える参加者が集まった。

 パリで開催されるヨーロッパ最大のスタートアップとテクノロジーのイベント、VIVA TECHNOLOGYなどの世界的なテックイベントの規模には及ばないが、SusHi Tech Tokyoには独自の強みがある。「全国から集まった学生が国際的なイベントに参加し、スタートアップについて学ぶことができるインターンプログラムは素晴らしいです」とデュポン氏は言う。「VIVA TECHNOLOGYの主催者も同様の取組を検討すべきだと思います。また、Sushi Tech Tokyo 2025では、前回のVIVA TECHNOLOGYに参加した時よりも多くの潜在顧客を獲得することができました。出展を決めた時には予想もしなかったことです。これは非常に励みになります。今後もさらに日本のお客様との関係を深め、日本市場をより深く理解し、長期的な信頼関係を築いていきたいと思います」

Movie: Tokyo Metropolitan Government

ブノワ・デュポン

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WeMaintainの共同創業者でCEOを務める。ドイツで生まれアフリカ各地で育ち、ヨーロッパ、中国、インドで働いた経験を持つ。10年以上にわたるオーチス・エレベータ勤務を経て、2017年にWeMaintainを創業。好奇心を持ち、人の話をよく聞き、人に力を与えることをリーダーとしての信条としている。
Photo: courtesy of WeMaintain

WeMaintain

https://www.wemaintain.com/en-gb
※英語サイトへのリンク

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。

SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/ローラ・ポラコ
写真/及川誠
翻訳/喜多知子