人生100年時代、地域をつなぐ「みんなの居場所」がここにある

行政・社協・町会、地域連携で居場所の立ち上げ
こまじいのうちは2013年10月、地域の居場所を作ろうという住民の声から誕生した。立ち上げには、文京区の地域活動センター、社会福祉協議会、そして駒込地区12町会の町会長らが関わり、同年4月に実行委員会を設置してからわずか6か月という短期間で開設に至った。自然に人が集まり気軽に言葉を交わす、昔ながらの温かな人間関係の基盤となる居場所を求め、当時神明西部町会副会長を務めていた秋元康雄氏が、持ち家だった空き家を居場所として提供した。
立ち上げから12年、現在はコアスタッフ5名、ボランティアスタッフ約20名が日々の運営を担っている。月1回の運営会議には、社会福祉協議会の地域福祉コーディネーターも参加し、活動の振り返りや新しい企画について話し合う。

適度な「ゆるさ」が生む心地よさ
活動の中心となるのは「カフェこま」というカフェスペースの提供である。火曜日から金曜日の10時から15時まで毎日開かれ、誰でも自由に立ち寄ってお茶を飲みながらおしゃべりを楽しむことができる。
利用者の多くは徒歩圏内に住む地域の人々で、0歳から90歳まで幅広い年代の利用者が集まる。利用料は一人100円だが、きっちりと管理はしない「ゆるさ」も大切にしている。運営スタッフもあえて名札をつけず、利用者との垣根をなくすことで、話しやすい雰囲気づくりを心がけている。
「政治活動、宗教活動、営業活動の三つだけはお断りしています。それ以外は基本的に何でも自由。お酒を飲んでも食事をしても構わない」と、理事長の船崎俊子氏は笑顔で語る。

こまじいのうちではカフェこまと併せて「みんなで体操」「囲碁教室」「脳トレ健康麻雀」など、利用者が楽しく参加できるさまざまなプログラムが実施されている。傾聴ボランティアによる「おしゃべりカフェ」、2025年5月からは保健師を迎えて「まちの保健室」も月2回開催。土曜日の学習支援「てらまっち」には、地域の子どもたちが勉強をしに集まる。また、隣接する子育て広場「こまぴよのおうち」には3歳未満の未就園児が通い、共同プログラムなどでお互いを行き来することで、自然な多世代交流が生まれている。
2023年からシニア食堂もスタート
2023年10月からは、東京都の「TOKYO長寿ふれあい食堂推進事業」の補助を受け、一人暮らしの高齢者を対象とするシニア食堂もスタートした。同事業では、地域の高齢者が気軽に立ち寄り、飲食をしながら交流できるシニア食堂を支援している。
シニア食堂は月1回開催され、毎回10名前後の利用者が集まる。はじめに軽い体操をしてから、スタッフを含む全員で昼食を囲む。食事はすべてスタッフの手作りで、肉料理、魚料理、副菜2品、味噌汁、ごはんといった栄養バランスを考えた和食が中心。心がこもった手作りの家庭料理は、一人暮らしの高齢者に大変喜ばれるという。

「特に煮魚などのお魚料理は喜ばれます。一人だと魚を買って調理する機会もなかなかないですからね」と、自身も一人暮らしだという女性スタッフが話す。シニア食堂の利用者の多くは、食事の後もカフェこまでゆっくりとおしゃべりを楽しんでいく人も多いようだ。
さらなる高齢化社会を見据えた東京都の施策
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、一人暮らしの65歳以上の高齢者は、東京都では2020年の89万人から2050年には148万人まで増加する見通しだ。2050年における東京の65歳以上の一人暮らし世帯の割合は、全体の18.7%にも上ると言われており、約5軒に1軒が一人暮らしの高齢者の家になる。
今後もますます高齢化が進む社会を見据え、東京都では複数の施策を展開している。
「TOKYO長寿ふれあい食堂推進事業」に加え、「介護予防と地域生活を支える取組の推進」として、「人生100年時代社会参加マッチング事業」を展開。シニア・プレシニアの継続的な社会参加を促進するため、希望に応じた仕事や学び、趣味、地域活動の情報を一元化して提供している。
東京都が目指す未来は、誰もが長い人生をいきいきと健康的に過ごせるChōju社会(長寿社会)である。ポイント付与やデジタルツールなどを活用し、高齢者が積極的に体を動かしたり、自ら健康状態を把握できるようにしたりと、アクティブに活動できるための取組を支援している。
高齢者の暮らしを支える施策が広がる一方で、地域活動を支えるスタッフの高齢化や人手不足などの課題もあり、より現場を継続的にサポートする体制が求められる。
「居場所づくり」のモデルとして国内外から視察も
こまじいのうちは行政・民間団体の社会福祉協議会・町会がバランスよく連携し運営されており、居場所づくりの成功事例として多方面から注目を集めている。
「北は北海道から南は沖縄まで、視察にいらっしゃることもあれば、私たちが説明に出向くこともあります」と、事務局長の三縄毅(みなわたけし)氏は語る。
さらに、高齢化社会は日本だけの問題ではない。韓国、タイ、欧州、米国など海外からの視察も多く、高齢化社会への対応やコミュニティづくりに高い関心が寄せられている。
地域の拠り所をこれからも守り続ける
「実家に帰ってきたみたいでほっとする」「ここに来ておしゃべりするのが楽しみ」と、こまじいのうちは世代を問わず、利用者にとって大切な居場所になっている。それはスタッフにとっても同様で、コアスタッフの多くは10年以上ボランティアとして通い続けており、なじみのメンバーたちが長年この場所を見守り続けている。

「行く場所があって、やることがあるというのは、毎日の活力になります」と語るのは、2014年1月からスタッフを務める山上良一氏。仕事を続けながら10年以上ボランティアを続けている女性スタッフも「家の事情で1年間お休みしていた時期もありましたが、変わらず温かく迎えてくれて。自分の居場所としていつも心の中にある存在」と話した。
「人生100年時代」と呼ばれる今、高齢者が心身ともに健やかで幸せに暮らすためには、孤立しないような居場所があることが、最も大切なのかもしれない。
地域密着ならではの継続的なつながりを育む場として、こまじいのうちは今日も扉を開き続けている。
NPO法人 居場所コム「こまじいのうち」
写真/井上勝也