乳児ケアを変えるスマートベビーベッド、SusHi Tech Tokyo 2025で注目

乳児ケアの基本に立ち返るハイテク製品
日本を含む多くの国では、現代社会の発展に伴い、人々はさまざまな自由を享受できるようになった。例えば、性別に関係なく住む場所や働き方を選べるというのも、そうした自由の一つだ。これにより、コミュニティや労働力の多様化が進む一方で、伝統的な育児支援の在り方も変化した。それに伴う課題にスマート技術を用いた育児ソリューションで挑んでいるのが、Happiest Baby社だ。
「私たちの目標は、子どもを健康で幸せに育てようとしている親をサポートすることです」と、Happiest BabyのCEO・共同創業者・最高医療責任者のハーヴェイ・カープ氏は言う。「人々が小さな村に住んでいたり、家族と同じ町に住んでいたりした時代のような支援体制がなくなってしまった現代では、それが少し難しいのです」
子どもの誕生後に職場復帰しなければいけない経済的・社会的プレッシャーがある中、祖父母などの育児支援者がいないと、親は子育てのストレスに押しつぶされ、疲労困憊(こんぱい)してしまう。Happiest Baby社の主力製品であるスマートベビーベッド「SNOO」は、そうした現代社会で失われてしまったサポートを提供する製品だ。対象年齢は生後0~6カ月で、子宮の中の動きと音を真似、アルゴリズムに基づいて優しい揺れを起こすことで、赤ちゃんを落ち着かせて眠りへと誘う。使用により1日の睡眠時間が1~2時間増え、危険な姿勢を防ぐこともできるという。赤ちゃんが泣きだしたときの自動対応や、アプリでの睡眠レポート閲覧といったハイテク機能も備えている。
カープ氏によると、SNOOの乳児ケアは科学に基づいており、新生児の睡眠に関する誤解を正すものだ。「赤ちゃんは母親のおなかの中で、常に抱かれた状態で揺らされています。母親が呼吸するたびに、子宮の上にある横隔膜が揺れを起こします。子宮の中は、掃除機のように大きな音がします。だから、暗くて静かな部屋に一人で仰向けに寝かせることは、実は赤ちゃんにとって非常に奇妙なことであり、全く快適ではないのです」

SusHi Tech Tokyoのコンセプトとも合致
カープ氏はSusHi Tech Tokyo 2025で、都市とスタートアップの連携による社会課題解決やイノベーション創出をテーマとしたセッションに参加。パネルディスカッションでは、「サステナブルな都市をハイテクノロジーで実現する」というカンファレンスのテーマにからめ、再利用できるというSNOOの特徴についても触れたという。「SNOOはハイテクであるだけでなく、サステナブルな製品です。オーガニックコットンを使用し、農業従事者がさらされる農薬の量を減らしています。さらに、ベビーベッドは再利用します。一つのベッドを30~40回は使用できるため、コストが激減します」
カープ氏は、カンファレンスで出会った日本人の起業家精神にも感銘を受けたという。「イノベーションを支援するには勇気がいります。古いものを捨てて、新しいものに飛び込む覚悟が必要です。伝統的な文化では、物事のやり方を変えることは簡単ではありません」
カープ氏は、東京都が働く親への支援と人口減少対策として、2025年9月から第1子の保育料を無償化することや、都職員が柔軟な働き方を選択できる制度を導入したことを称賛した。
日本は人口減少の問題に直面していることで国際的に知られているが、それは同時に、同じ道をたどる欧州などの国々が日本に解決策を見出そうとしていることも意味していると、カープ氏は指摘。「こうした国々は、自分たちが10年後には今の東京と全く同じ状況になることに気づいており、差し迫る問題に対処するために、東京から何を学べるかを模索しています」と語る。
SNOOは今のところ日本では利用できないが、カープ氏は将来的に、雇用主や自治体などを通じてレンタルできるようにしたいと考えている。一度使用されたSNOOは、再生施設で整備されたのち、何度も再利用できる。こうした再生施設は、新たな雇用創出にもつながる。
働く女性と病院を支援
SNOOは、世界中の企業、政府、保険会社、病院で導入が進んでおり、社会に良いインパクトを与えるポテンシャルが高まっている。
カープ氏は特に、社会全体を支える働く女性たちに対し、この製品が救いの手を差し伸べられると考えている。「現代社会での子育ては難しい。人口が減少する中、企業も社会も、働く女性を必要としているのです。私たちは、女性を15年も専業主婦にさせておく余裕はありません」
さらにHappiest Baby社は、「産後うつ」を減らすことも目指しているという。同社の調べによると、SNOOによりストレスが減ったと報告した親は70%に上る。「SNOOによって赤ちゃんがよく眠り、泣くことも減れば、母親のストレスは軽減されます」
カープ氏は、病院へのSNOO導入も拡大したい考えだ。「世界中で看護師が不足しています。私たちはこれまでに発表した研究論文で、SNOOが乳児ケアを支援することにより、看護師の労働時間を1日4~5時間削減できることを示しています」
日本では赤ちゃんに関する話題が常に注目されるため、SusHi Tech Tokyo 2025の参加者の多くが、カープ氏の語るHappiest Baby社の革新的なアプローチに刺激を受けたに違いない。「誰もがこの問題に大きな関心を寄せています。赤ちゃんに対する関心は非常に高く、多くの人が私のところにきて『自分もこれが欲しかった』と言ってくれました」

ハーヴェイ・カープ
Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo
画像提供/Happiest Baby
翻訳/遠藤宗生