金融とテクノロジーで切り拓く、東京スタートアップエコシステムの未来

日本発のチャレンジャー・バンクを目指して
株式会社Fivotは、2019年に設立されたFinTechのスタートアップ企業。スタートアップのためのデットファイナンス(借入金融)「Flex Capital」、個人向けの資産積み立てサービス「IDARE(イデア)」を主軸に、社会全体の経済循環を円滑にする金融サービスを展開している。
起業前は大手証券会社の投資銀行部門で、M&A助言や引受業務に従事していた安部氏。「お金が社会でどのように動き、企業成長につながっているのか。その循環が面白いと感じていました。同時に、業界ならではの規制の厳しさやテクノロジーの遅れもあり、銀行業務がもっと柔軟に変化できれば、社会をより良くできるのではと考えていました」
安部氏にとって転機となったのは、2016年頃から海外で現れ始めた「チャレンジャー・バンク」の存在だ。スタートアップが銀行免許を取得し、従来の金融機関では実現できない革新的なサービスを提供する動きを見て、「まさに私の課題感にフィットするビジネスモデル」と安部氏は確信した。「チャレンジャー・バンクの領域で、日本の金融業界を変えていこう」との思いから、Fivotの設立に至った。
事業成長を迅速にサポートする「Flex Capital」
Fivotの主力サービスのひとつ、Flex Capitalは、スタートアップ向けのデットファイナンスだ。従来の決算書ベースの形式的な審査基準とは大きく異なり、独自のテクノロジーを駆使した多角的なデータ分析を実施。現時点で赤字の状態でも、データ分析の結果から黒字を描ける将来が予測できれば、融資の対象となる。
「創業間もないスタートアップ企業は赤字のケースも多く、決算書の情報だけでは『融資できない』という判断になってしまいます。私たちは、銀行の出入金データ、会計の仕訳帳、SNS上の情報など、あらゆるデータを収集・分析して、その会社の成長の予兆や事業性、価値を判断しています」

Flex Capital最大のメリットは、手間なく素早く融資が受けられること。早ければ申し込みから約2週間で、最大3億円の融資を受けられるのだ。
「手続きはすべてオンラインで完結します。API連携などを活用することで、最短10分程度で申し込みが完了し、原則10営業日以内に審査の結果が通知されます」と、安倍氏はそのスピーディーなフローについて説明する。
2025年6月、Flex Capitalによるファイナンス支援は累計100億円を突破し、支援した企業は270社を超える。他の融資サービスにはない柔軟性とスピード感は、迅速な成長を目指すスタートアップにとって、大きなサポートとなるだろう。
個人向けサービス、貯まるキャッシュレス「IDARE(イデア)」

社会全体のお金の流れを変えるために、Fivotは個人向けサービスにも取り組んでいる。IDAREは、貯めることにフォーカスしたプリペイドシステムで、ユーザーが目的に応じて「ボックス」と呼ばれる枠を設定し、計画的に積み立てができるサービスである。
一般的なキャッシュレス決済サービスとの違いについては、「クレジットカードを含め多くのキャッシュレス決済サービスは、使ったときにポイントが貯まります。IDAREはチャージした残高に応じて年率2%相当のポイント還元があるので、貯めるのが楽しくなる仕組みになっています」と安部氏は説明する。
2025年4月、IDAREはサービス開始から4年を迎え、ユーザーが作成した総ボックス数は18万個以上、平均貯蓄額は約16万円となっている。アプリだけで申し込みが完了し、すぐに始められるのもIDAREの魅力だ。Flex Capital同様、導入のハードルを下げることで、多くのユーザーにサービスを届けられるようになっている。
東京金融賞2024・ 金融イノベーション部門にて第1位を受賞
Fivotが展開するサービス「Flex Capital Invoice」は、東京金融賞2024の金融イノベーション部門で第1位を受賞した。2018年からスタートした東京金融賞は、金融の活性化と都民の利便性向上を目指し、金融分野におけるイノベーション創出や持続可能な社会の実現に貢献するサービスを表彰する取組であり、金融イノベーション部門とサスティナビリティ部門から成る。金融イノベーション部門では、都民や都内事業者から募集した金融サービスに関する課題をもとに、金融企業から解決策を募集し、金融業界における課題と解決のマッチングを図っている。
Flex Capital Invoiceは、企業の請求書を立て替えて、分割後払いを可能にする。その独自性と新規性について、安部氏は次のように説明する。
「従来のファクタリングやビジネスローンは入金を早める手法ですが、Invoiceは支払いを遅らせることができます。スタートアップに限らず、中小企業をはじめ幅広い企業の資金繰りをサポートできるところも評価していただけたと思います」

受賞をきっかけに、銀行などの金融機関からの注目も高まり、企業としての信頼度もアップしたという。「スタートアップは信頼してもらうまで時間がかかります。こうした賞をいただくことで、評価されるサービスやプロダクトを提供している証明になり、信頼や認知の向上につながっています」
FinTech会社としての強みであるテクノロジーと柔軟性、そして銀行が持つ信頼性や資金力を掛け合わせ、今後は協業により新たなサービス展開も目指しているという。すでに一部の自社開発システムを銀行業務のサポートに提供する取組も始まっている。
人材・資金・情報が集まる東京におけるスタートアップの可能性
東京都に本社を置くスタートアップ企業は、2022年末時点で1万395社であり、日本全体の66%以上を占める。さらに、2024年1月時点での東京都の就業者数におけるスタートアップ企業の就業者数は全体の8%を超え、大阪を除く他の都道府県では1%未満であることから、スタートアップ企業が東京に集中していることは明らかだ。実際に、Flex Capitalの利用企業についても、その多くは東京の企業だという。
スタートアップ企業が集まる東京において、安部氏はその役割と可能性を語った。
「私たちがスタートアップの資金面をサポートすることで、その企業がよりスピーディーに成長できたり、雇用が増えたり、それが東京の経済を発展させる起点になればいいと思います」

なぜこれほどまでにスタートアップ企業が東京に集まるのか。安部氏は自身の体験も交えながら、東京の魅力をこう分析する。「東京には優秀な人材、資金、情報が集まり、ベンチャーキャピタルも多いです。起業する際の仲間集めや資金調達がスムーズに進みやすい環境が整っていると言えます」
スタートアップ向けのイベントなども多いため、地方に比べてコネクションづくりの機会が多く、人との出会いを通して事業成長につながりやすい側面もある。
また、公的なスタートアップ支援が充実しているのも東京の魅力。東京都が運営する「東京都創業NET」では、起業相談、事業計画、資金調達など、スタートアップに関するさまざまな情報を提供。2022年11月に「Global Innovation with STARTUPS」と呼ばれるスタートアップ戦略を策定し、5年間で東京発ユニコーン数、起業数、官民協働実践数をそれぞれ10倍に引き上げるという目標を掲げている。さらに、2024年6月から「金融・資産運用特区」に認定されたことで、海外の資産運用業者の誘致や、スタートアップへの投資環境整備を進めている。
チャレンジを後押しし、経済の流れを変える
スタートアップの支援に取り組む一方、安部氏自身も東京のスタートアップ企業の一員として、「やりたいことがあるなら、どんどんチャレンジしてほしい」と話す。
「Fivotがあったから資金が得られた、そのおかげで事業が成長した。そのような会社が1社から10社、100社、1,000社と増えたとき、経済全体に大きな影響を与えることにつながると信じています」
資金調達は手段のひとつであり、チャレンジや成長を後押しするパートナーとして、Fivotは変化の起点に存在し続ける。新しいお金の流れを作り出すことで、スタートアップエコシステム全体を活性化し、ひいては日本経済の未来を切り開く可能性を秘めている。
安部匠悟
株式会社Fivot
https://fivot.co.jp/写真/藤島亮