奥多摩の森林・渓流と酒蔵体験で涼しさを味わう

3世紀以上続く老舗の酒蔵
東京都の西北部に位置する奥多摩地域。都心から40~60キロ圏内で、電車なら東京駅から約2時間。JR青梅線の沢井駅で降り立つと、周囲360度、見渡す限りの美しい森林の景色が広がり、涼しげで風も心地よい。
ホームを降りて目の前の坂を下ること数分。巨大なタンクや土塀に沿って歩くと、そこに小澤酒造の酒蔵がある。日本酒の中でも人気の銘酒「澤乃井」の蔵元だ。蔵のすぐ下には多摩川のゆるやかな流れがあり、耳をすませばせせらぎも楽しめる。小澤酒造はそんな自然美あふれる渓谷のほとりにたたずんでいるのだ。

創業は江戸時代の1702年と伝えられており、3世紀以上も続く老舗の酒蔵である。予約制ではあるが、こちらでは蔵の内部を見学することができる。今回はプランニング&デザイン室の吉﨑真之介氏に案内してもらった。
「創業時に建てられたと伝わる蔵は、土蔵造りで天井がかなり高いため、熱気が天井に抜けて外から光も入らないのでひんやりとしていて、酒造りに最適です。現在は仕込みを終えた酒の貯蔵庫として使っています」
これを元禄蔵と名付け、その奥に明治時代に建て増しした明治蔵、さらに平成時代の平成蔵と続く。この平成蔵で原料となる米の精米、蒸し、黄麹菌を加えた麹造り、酵母の培養、発酵といった仕込み、そして搾りなどが行われており、見学客は工程の一部をガラス越しに見ることができる。蔵全体に冷房が効いているかのように涼しく、真夏とは思えないほどだ。
「日本酒はもともと神社に奉納するものとして造られてきました。昔は日本各地に4,000以上の酒蔵があったそうですが、徐々にその数も減り今では半数以下の1,400ほど。小澤酒造がこの地で酒造りを続けてこられたのは、何よりおいしい水が枯れることなく湧き出ていたからでしょう」
蔵のすぐ横には秩父古生層(秩父帯)と言われる古代1億年以上もの岩盤があり、創業時、その強固な岩盤を140メートルも掘り抜いた洞窟から湧き出る石清水を仕込水として使っている。鉄分やマンガンなどの不純物が極めて少ないため、酒造りに最適な清水なのだという。洞窟には十数メートル奥まで入れるが、内部は蔵内以上にひんやりとし、心地よい。
美しい渓谷では川遊びも
酒蔵のすぐ下の多摩川沿いには、清流ガーデン澤乃井園という酒や軽食を楽しむことができる庭園が広がっている。中でも、夏季限定のメニューであるいちごのかき氷や甘酒かき氷は絶品。ちなみに、甘酒は夏バテの予防や対策に効果が期待でき、「飲む点滴」としても注目されている。
また、園内にあるきき酒処では10種類ほどの澤乃井のお酒が常時味わえる。豊かな自然に囲まれ、せせらぎに耳を傾ければ、身も心もすがすがしさに包まれるだろう。
庭園では外国人の姿も多く見られた。川のほとりには日差しを避けられる休憩所も用意されており、水遊びを楽しむ子どもたちもいる。
目の前の川をまたぐ楓橋を渡りきると、生い茂る木々の間にひっそりとたたずむ寒山寺がある。中国・蘇州の古刹(こさつ)から伝来した釈迦如来像を本尊とするお堂には、中国からも参拝客が訪れるという。
この楓橋から上流を眺めると、沢井駅の隣の御嶽(みたけ)駅から下る御岳渓谷の景色が広がっている。この御嶽駅付近から澤乃井園、さらにその下流までのおよそ4キロにわたって両岸に遊歩道が整備されており、日本名水百選にも指定されているほどの美しい清流に沿って自然を満喫できる散策が楽しめるのだ。澤乃井の吉﨑氏も誇らしげにこう語る。
「御嶽駅前でレンタサイクルを借り、遊歩道でゆっくりと清流沿いのサイクリングを楽しみ、澤乃井園近くで乗り捨てできるサービスもあります。うちへの見学はもともと外国人の方も多かったのですが、最近は特に増えてきた印象がありますね。やはり都心からそう遠くないところでこれだけ素晴らしい自然を体感できるのが奥多摩の魅力なのだと思います」
御岳渓谷では1人乗り用のゴム製カヤックや数人乗りのゴムボートでラフティングを楽しめる施設もある。インストラクターやバイリンガルのガイドも常駐しているというから、初心者でも外国人でも安心して利用できる。厳しい暑さが続くこの季節に是非体験を。

小澤酒造株式会社
https://www.sawanoi-sake.com/写真/藤島亮