Correspondents' Eye on Tokyo:
国際都市東京の未来におけるサッカーの役割

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 過去30年間における日本サッカーの台頭には目を見張るものがある。代表チームは男女とも世界の舞台で存在感を示し、多くの日本人選手がイギリスやヨーロッパのトップチームで活躍している。ショーン・キャロル氏は、サッカージャーナリストとして、15年以上にわたり日本で取材をしてきた。日本のサッカーとサッカー文化の変遷、また国際都市東京の未来における世界的人気スポーツの役割について、自身の考えを語った。
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イギリス出身のショーン・キャロル氏は、日本でサッカージャーナリストとしてリーグや日本代表チームを取材している

イングランドのサッカーファンから日本のサッカージャーナリストへ

 イングランド南部の海辺の町ブライトンで育ったキャロル氏は、幼い頃からサッカーに惹かれ、選手としてもサポーターとしてもサッカーを楽しんでいた。1990年代当時、地元のブライトン&ホーヴ・アルビオンは、三笘薫のようなスター選手を擁する現在のプレミアリーグでの成功にはまだほど遠いチームだった。代わりにキャロル氏が魅了されたのは、アレックス・ファーガソン監督が率いる圧倒的な覇者、マンチェスター・ユナイテッドだった。

 サッカー漬けの毎日を送っていたキャロル氏だが、2007年にたまたま日本に来るまで、日本のサッカーはおろか日本について考えたことはなかった。「大学時代のガールフレンドがスイス系の日本人でした」と、彼は説明する。「その夏、休暇の計画を立てていた時、彼女が東京への旅行を提案しました。私は日本に行くなんて考えたこともなかったのですが、まあいいかと思いました。それで、期待も予備知識も全くない白紙の状態で日本に行ったのです」

 キャロル氏は、日本と日本文化に初めて出会った際、大好きなサッカーの日本での現状を知りたいと思い、Jリーグの試合をいくつか観戦した。特に、浦和レッズとガンバ大阪の試合は今でも鮮明に記憶に残っている。「イングランドを出る前に、チェルシー対マンチェスター・ユナイテッドの試合を見ていたので、目は肥えていました」と彼は話す。「でも、日本のプレーは私の想像よりもはるかに高いレベルでした。スタジアムの雰囲気も素晴らしかった。また同時にイングランドとはまるっきり違っていました」

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キャロル氏は日本のスタジアム独特の雰囲気を評価している Photo: PIXTA

 そういったこと全てに興味をそそられ、キャロル氏は大学卒業後、日本のサッカーを研究し、本を書くために2年ほど日本に滞在しようと決めた。そして、2009年に来日して日本語を学び始めたが、すぐに1~2年の滞在では足りないとわかった。日本でサッカージャーナリストになることは、彼が想像していたようなものではなかった。

 「日本のサッカーにすっかりはまってしまいました」と、キャロル氏は笑う。「そんな中で、FIFAやアジアサッカー連盟の発展に貢献したスチュアート・ラーマン氏に偶然出会いました。彼は、私が最初に書いた日本サッカーに関する記事の一つを読んでくれていて、日本のサッカー業界で働いている同僚を何人か紹介してくれました。そして、私はいつの間にか、試合を観戦したり、選手や監督にインタビューしたりして記事を書くようになり、ゆっくりと、しかし着実に、この国でサッカージャーナリストとしてのキャリアを築いていきました」

 年月が経ち、何度もサッカーシーズンを過ごすうち、キャロル氏は十分な知識と見識を身につけ、彼が東京に来るきっかけとなった日本サッカーの本をいよいよ書くことになった。『ニッポンとサッカー 英国人記者の取材録』は、2022年に日本語で出版された後、翌年、英語版が出版された。キャロル氏は本の巻頭で「選手もファンも、ワールドカップに出場するだけではもはや満足しなくなった」と、日本代表チームへの期待の高まりについて述べている。その後に続くのは、日本のサッカーがどれほど進化したかに対する賞賛と、さらなる成長を妨げている要因についての公正な批判である。

地元チームへの誇りを高めることが成功のカギとなる

 東京には三つのJリーグクラブがある。FC東京、東京ヴェルディ、町田ゼルビアで、いずれも現在、日本プロサッカー1部リーグであるJ1でプレーしている。どのチームにも、ホームゲームでスタンドを埋め尽くす熱心なファンたちや、アウェイゲームに足を運ぶ大応援団がいるが、これまでに東京のチームがリーグ優勝したことはない。FC東京は2019年、あと一歩のところで神奈川県のライバルチーム、横浜F・マリノスに敗れ、2位に終わった。

 「とても興味深いことです」とキャロル氏は言う。「東京は大都市なので、チームが街全体にアピールするのは難しく、その地元地域に密着した活動をするべきでしょう。例えばロンドンには、ロンドンFCというチームはありません。チェルシー、ウェストハム、アーセナル、トッテナム、その他多くのチームが混在しています。ですから、東京のサッカーが進むべき道は、それぞれのチームが特定の地域に焦点を当て、ファンの地元への誇りに訴えかけ、身近なチームを応援してもらうようにすることだと思います」

 キャロル氏は、町田ゼルビアを地元サッカーの誇りを示す輝かしい例として挙げている。町田市を本拠地とするゼルビアは、都道府県リーグや地域リーグで戦う草の根チームとしてスタートし、アマチュアサッカーの最高レベルである日本フットボールリーグ(JFL)にまで昇格した。信じられないことに、ゼルビアは2024年、プロリーグの最高峰であるJ1にまで上り詰め、さらに、そのシーズンの優勝争いに食い込む活躍を見せた。

 「東京の他のチームがゼルビアのように高みを目指すのを見たいですね」と、現在町田に住むキャロル氏は言う。「大学卒業後に友人同士で立ち上げ、今やJFLでプレーするクリアソン新宿のような素晴らしいチームもあります。また大森フットボールクラブは、今年2025年、元Jリーグコーチ小島直人氏の下でJリーグ参入を目指すと発表しました」

 キャロル氏はまた、日本女子サッカーの熱心な支援者でもあり、著書の中で、2011年FIFA女子ワールドカップで優勝した実績を極めて正当に評価している。多くのファンにとっては、なでしこジャパンの活躍がなじみ深いだろうが、東京には他にも、日テレ・東京ヴェルディベレーザやスフィーダ世田谷FCなど、トップレベルの女子チームがある。

東京は情熱を追求できる街

 サッカーは、東京に住むキャロル氏に多くの機会を与えてきた。サッカーのおかげで、普段は行かないような都心や関東地方を探索することができ、東京に住むあらゆる国の人々とサッカーへの情熱を共有し、長く続く友情を築くこともできた。

 「正直言うと、私は特に外交的でもなく、家で過ごすのが好きな人間です」とキャロル氏は言う。「いつもはコーヒーを飲みながら、本を読んだり映画を観たりしてリラックスしています。ですから、外に出て面白い場所に行ったりいろいろな人と出会ったりできるのは、サッカーが好きでやっているこの仕事のおかげなのです」

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オーストラリアで開催された2015年AFCアジアカップでのキャロル氏 Photo: courtesy of Sean Carroll

 キャロル氏は、サッカーだけでなく、東京の多様性も最大の強みの一つだと考えている。日本人にとっても外国人にとっても、同じ興味を持つ仲間を見つけられる機会が多いからだ。「東京の人たちは、夢中になれるものには、とことん真剣に向き合います。趣味であれ職業であれ、またどこの国の人であれ、その情熱を尊重します」と言う。

 キャロル氏は、日本、そして日本のサッカー界が今後どうなっていくのか見たいと思っている。「日本の変化はたいてい東京から始まります」と彼は指摘する。「東京は今後、ますます国際化が求められ、独自の形で国際化が進むでしょう。そして、サッカーもその一部になると思います。サッカーほど国際的なスポーツは他にありませんからね」

ショーン・キャロル

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イングランドのブライトンで生まれ育ち、2009年から日本に移住。以来、『週刊サッカーマガジン』『フットボールチャンネル』『ジャパンタイムズ』、NHK、BBC、ガーディアン紙など、国内外の様々なメディアで日本サッカーに関する記事を寄稿している。また、2022年に著書『ニッポンとサッカー 英国人記者の取材録』を出版した。
取材・文/トレバー・キュー
写真/穐吉洋子
翻訳/浦田貴美枝