大都会の東京で感じる絆 サッカーが育むコミュニティ

東京が誇れるサッカーチームに
国内サッカーリーグでは首都や大都市のチームが優位に立つのが当然だと思う人もいるかもしれないが、各国の状況を見てみると、必ずしもそうではないことがわかる。イングランドのプレミアリーグでは、リバプール、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティといった北部都市のチームが強く、優勝回数はロンドンの全チームを合わせた数の2倍以上に上る。イタリア・セリエAでは、ユベントスの優勝回数が36回なのに対し、ASローマはわずか3回だ。ドイツのブンデスリーガでは1931年以降、ベルリンのチームが頂点に立ったことはない。
これは日本でも同じだ。日本初の本格的なプロサッカーリーグとして1993年に設立されたJリーグは、J1、J2、J3の3ディビジョンで構成されている。創設以来、横浜、広島、名古屋、埼玉、鹿島、柏、川崎、大阪、磐田、神戸のチームが優勝してきたが、東京のチームは今のところ優勝経験がない。
にわかには信じがたいが、東京初のJリーグチーム結成は1999年と遅く、それまでアマチュアチームだった東京ガスフットボールクラブがFC東京に改称してプロクラブ化した際のことだった。FC東京は当時、同チームでアマ・プロ含め292試合165得点を記録したブラジル出身の名FWアマラオに率いられ、J2でデビューしたその年に準優勝を果たして、J1リーグに昇格。以来、26シーズン中25シーズンにわたり、日本サッカー界のトップレベルでプレーしてきた。
サポーターがチームの歴史と実績を誇りに思ってくれるよう願うのは、どのクラブも同じだ。新宿駅から直通電車でアクセスできる飛田給駅に到着すると、駅周辺にはアマラオやディエゴ・オリヴェイラといった同クラブのレジェンドや、長友佑都や俵積田晃太といった現役スター選手の大判写真が飾られている。

味の素スタジアムに向かう多数のサポーターたちの前方には、青と赤のFC東京の旗が道路に並び、風になびく。道路からスタジアムの入り口に続く階段には、チームのロゴが飾られている。「You'll Never Walk Alone」という言葉もあるが、これはFC東京のみならず、リバプール、セルティック、ボルシア・ドルトムントといった海外チームでも使われる有名なサポーターソングのタイトルだ。
FC東京は近年、ピッチ上でもファンの期待に応え始めている。これまでにJリーグカップを3度制しているほか、2011年には初の天皇杯優勝も達成。AFCチャンピオンズリーグエリートには3度出場し、2019年にはJ1リーグ初優勝まであと一歩にまで迫った。
FC東京の試合は毎回、今度こそはといった期待で空気が張り詰める。東京に初のJリーグ優勝がもたらされるのも、時間の問題だ。
世界中からのサッカーファンを歓迎
人口の5%を外国人が占め、インバウンド需要がかつてない規模に拡大する東京では、多様化が進んでいる。FC東京は、日本のサッカー界に国際的な注目が集まっていることを念頭に、世界中のファンを歓迎するクラブになるべく努力している。
「FC東京が外国人の観光客や住民にとってより身近な存在になるように、あらゆる施策を講じています」。FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社広報プロモーション部長の倉林佑弥氏は、6月14日に行われたセレッソ大阪とのホームゲームでこう説明した。「ウェブサイトでは、英語のチケット購入ページや選手のプロフィール、試合レポートなどを充実させています。グッズショップなどの施設には、英語を含む多言語でファンをサポートするスタッフがいます」
さらに、文化の多様性促進にも積極的に取り組んでいる。今回のセレッソ戦では、味の素スタジアム前で「ブラジルフェスタ」を開催し、同国の伝統武術であるカポエイラの実演や、ブラジル料理の販売、バンドと華やかなダンサーたちによるサンバショーなどを行った。
FC東京では長年にわたり、現役選手や過去のレジェンドを含むブラジル人選手たちが重要な役割を果たしてきた。在日外国人におけるブラジル人の割合は高く、今回のイベントはそんな両国の強いつながりを浮き彫りにしている。
スタジアム内では、サポーターが飲食物を買うために列を作りながら、試合直前の雰囲気に浸っていた。中にはフランス、スペイン、アルゼンチン、南アフリカから来た人もいた。
取材に応じたオーストラリア・アデレード在住の男女は、日本での試合観戦は初めてではなく、ずいぶん前からJリーグのファンだという。「日本はオーストラリアにとってアジア最大のライバルであり、素晴らしい選手をたくさん輩出しています」と男性は語った。「Jリーグにはオーストラリア人選手もたくさんいますし、2019年に横浜F・マリノスをJリーグ優勝に導いたアンジェ・ポステコグルーのようなオーストラリア人監督もいます。私は母国でもJリーグの試合をたくさんテレビ観戦していますが、日本での生観戦は格別です」
一方の女性も「日本での試合は、ピッチの上でも外でも本当に楽しいです。同じスポーツが、独自のサッカー文化を持つ別の場所でプレーされているのを見るのは、とても面白いです。FC東京の試合は初めてなので、(セレッソ)大阪との対戦を見るのが楽しみです」と語った。
ずっとFC東京を応援してきたという地元ファンの男性は、大学で知り合ったスウェーデン人と米国人の友人に日本のサッカーを紹介するため、2人を連れて観戦に訪れた。「僕は忠実なサポーターです」と男性は語り笑った。「これまでの浮き沈みを見てきたので、2人を連れてきて、自分にとって大切なものを見せたかった。それに、2人が他のチームのファンにならないようにしたかったんです!」
スウェーデン人の友人は、試合当日の警備が日本と欧州では違うことに驚いたという。「スウェーデンなどの多くの国では、違うチームのファンが一緒にスタジアムに歩いて行くことは、トラブルになる恐れがあるからできません。でも今日は、電車や街中で大阪のピンクのシャツを着ている人がたくさんいて、それでも全く問題ありませんでした」
一方、アメリカンフットボールを見て育った米国人の友人は、スタジアムとその雰囲気に感銘を受けたという。「年配の人、若い人、小さな子どもを連れた家族がたくさんいることが素晴らしいです。ビールを飲みながらリラックスできる環境であると同時に、チームやサッカーに対する真の情熱もあります」
日本最大の都市で地域の誇りを育む
東京は、世界中から人々が集まる国際都市であると同時に、日本各地から人々が集まる街でもある。大都会では、人々を一つのスポーツチームの下で団結させることは難しい。東京ほど広く多様な都市では、特にそうだ。
FC東京という名前を選んだことで、チームは日本の首都の主要なサッカークラブになるという野心的な目標を掲げた。だが同時に、東京は小さな地域社会の集まりで構成される都市であり、そうした小さなコミュニティの一つひとつに注目して直接関わっていくべきだという理解もある。2023年3月27日、FC東京は東京都と包括連携協定「ワイドコラボ協定」を締結した初のスポーツチームとなった。小池百合子都知事はその際、東京の子どもや高齢者、障がい者の生活向上に対するチームの貢献を称賛した。
「FC東京は、地域の社会的ニーズに大きく貢献できると考えています」と東京フットボールクラブ株式会社エリアプロモーション部長の田中翔一朗氏は説明する。「その一環として、子ども向けのサッカースクールや高齢者向けの体操教室を開いたり、健康的な食事やアクティブなライフスタイルを広める活動を行ったりしています。一方で、味の素スタジアムでは試合前に各地域がそれぞれの個性を発揮できるイベントを開催しています」
FC東京はセレッソ大阪戦に先立ち、近隣の三鷹市をPRする「三鷹の日」を開催。同市産の野菜の販売や、三鷹をテーマにした楽しいクイズラリーのほか、8月に開催される「第58回三鷹阿波おどり」のプレビューとして、三鷹阿波踊り振興会によるパフォーマンスも行われた。
地元ボランティアがスタッフを務めるフードバンクのテントには、防災備蓄用の非常食などの寄付が多数集まっていた。

FC東京は、将来を見据えた活動も行っている。若手育成のためのサッカースクールとアカデミーでは、スキルやチームワーク、そしてサッカー愛を育むことに焦点を当て、ライセンスを持つ経験豊富なコーチ陣を採用。これまでに、最近初の日本代表入りを果たしたMF俵積田晃太や、FC東京のレジェンドGKだった土肥洋一氏の息子であるDF土肥幹太ら、多くの選手を輩出してきた。
また、未来のファンをつくる努力も惜しまない。「多くのJリーグチームと同様に、若いファンに対しては年間チケットや1試合ごとのチケットを大幅に割引しています」と倉林氏。「特にスポーツでは、子どもの頃の思い出はとても大切です。子どもの頃にFC東京のファンになれば、きっと生涯ファンになります」
この日の試合も、息をのむ展開だった。81分にFC東京のFWマルセロ・ヒアンが見事なゴールを決めて劇的な追い上げをみせると、試合は2-2の引き分けで終了。観戦を満喫したファンたちは、自分のチームと街を誇りに思いつつ、次の観戦を楽しみにしながら、スタジアムを後にしていった。
Movie: 東京都
FC東京
写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生