渋谷発、サッカーチームを支える食の力

 渋谷をホームタウンとしてJリーグ参入を目指すサッカーチーム、SHIBUYA CITY FCを、食で支えている女性がいる。カラダ・サポートCAFE「ハチドリ」の店主でアスリートフードマイスター1級を保有する大給瑞江(おぎゅうみずえ)氏だ。アスリートのパフォーマンスに食事はどのような関係があるのか、話を聞いた。
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2021年にカラダ・サポートCAFE「ハチドリ」をオープンした大給瑞江氏

アスリートに不可欠な食の知識

 渋谷区スポーツセンター内にあるハチドリは、健康に配慮した安全で安心な食事が楽しめるカフェ。店主の大給氏は、アスリートの食と体について勉強し、アスリートフードマイスター1級を保有する。

 「アスリートの食事に興味を持ったきっかけは、息子です。幼い頃から長距離走のアスリートを目指してトレーニングを積んでいたのですが、食べるものや食べるタイミングによってパフォーマンスが変化することを目の当たりにしました。そこで食事や栄養について本格的に学ぼうと、アスリートフードマイスターを目指しました。1級を取得したのが8年くらい前のことです」

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スポーツを楽しむ人を応援するメニューを提供

 アスリートは、ハードなトレーニングが続くと、疲れて十分な食事を取れないことがある。しかし、それでは疲労の回復を滞らせてしまう。そうした状況が続くと、次第にパフォーマンスが落ちてくる。体を鍛えているアスリートだからといって常に体力、気力が充実しているとは限らない。むしろ、体を鍛えているからこそ、適切な食事が必要なのだ。

 「試合の前には、消化に時間のかかる脂質を控えめにする、試合の後には、たんぱく質やミネラルを十分に取るなど、栄養のことを理解した上で食事をすると、パフォーマンスが安定します」

看板メニュー「MVPうどん」とは?

 大給氏がハチドリをオープンしたのは2021年。カフェでは、大給氏の知識と経験を活かしたメニューを用意している。看板メニュー「MVPうどん」は、うどんに、ミネラル(Mineral)とビタミン(Vitamin)、たんぱく質(Protein)を含む食材を組み合わせた料理。麺には、たんぱく質が豊富な枝豆が練り込んである。

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「MVPうどん」豆乳と白だしを使ったゴマだれで食べる Photo: courtesy of カラダ・サポートCAFE ハチドリ

 SHIBUYA CITY FCをサポートするようになったのは、トレーニングで渋谷区スポーツセンターを訪れた選手たちに大給氏が声をかけたことからだ。すぐに球団社長の小泉翔氏に話がつながり、トレーニング後の食事を任されるようになった。

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店内には、SHIBUYA CITY FCのポスターを掲示

 「社長からは本気でJリーグへの参入を目指している、という話を聞いて感銘を受けました。私もできる限りのサポートをしようと決めました」

リーグ昇格を支えた勝負飯「親子丼」

 大給氏が、試合前日の食事として提案したのは、親子丼だ。

 「鶏肉と卵を組み合わせた料理なのでたんぱく質が豊富で、ご飯もたっぷり食べることができます。脂質が控えめなので、消化もスムーズです」

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SHIBUYA CITY FCの勝負飯「親子丼」 Photo: courtesy of カラダ・サポートCAFE ハチドリ

 チームは関東サッカーリーグ2部昇格を目指していたが、2023年はギリギリのところで逃した。しかし2024年には、関東社会人サッカー大会で見事優勝を果たし昇格が決定。このときの試合前日に選手たちが食べたのは、もちろん親子丼だ。2025年は関東サッカーリーグ2部でプレーしている。

 「昇格が決まったときは本当にうれしかったです。遠方の試合にはサポートに行けないこともありますが、親子丼は外食でも見つけやすいメニューなので、選手の方から『親子丼、食べました』と聞くこともあります」

 親子丼は、すっかりチームの勝負飯として定着。ハチドリでも定番メニューではないものの準備ができるときに不定期で提供する。

スポーツと地域の連携地点になるカフェ

 ハチドリでは、スポーツと地域への連携も深めている。渋谷区スポーツセンターで開催される「わんぱく相撲渋谷区大会」の日には、参加する子どもたちに向けた、焼きおにぎりと具だくさんのちゃんこをセットにしたメニューを提供し、子どもたちから好評だった。

 「スポーツ施設にあるカフェなので、スポーツの前後に訪れる方が多いのですが、アスリートに限らず、健康を意識している方に喜んでいただけるメニューを用意しています。今後は地域住民の方たちとも関係を深めていきたいです」

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店内では食とスポーツに関連したイベントを随時開催 Photo: courtesy of カラダ・サポートCAFE ハチドリ

 渋谷で運営するカフェが、アスリートの挑戦を支え、地域の人々の健康を育む場所になっている。健康を支える食事は、心と体に強く刻み込まれる。だからトップアスリートだけでなく地域の高齢者から子どもたちまでが集まる。東京という大都市の魅力の一つは、こうした人と人とのつながりが生まれる場所があることだ。ハチドリは、スポーツと食、そして地域の未来をつなぐハブとして、これからも多くの人に力を与えていく。大給氏は、10年後に「子どもの頃、ここでよく食事しました」とお客様から言ってもらえるようなカフェを目指している。

大給瑞江

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カラダ・サポートCAFEハチドリ店主。SHIBUYA CITY FCと契約し、練習後や試合前の食事サポートを行う。アスリートフードマイスター1級、ジュニア・アスリートサポーター。

カラダ・サポートCAFE ハチドリ

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取材・文/今泉愛子
写真/穐吉洋子