東京の格闘ゲーム・クラブで生まれる戦いと絆
ファイト・クラブのルールその1、ファイト・クラブのことを決して口外してはならない。
しかし、ここでは別の種類の地下ファイティング・グループについてリポートしたい。それはTatakai Tuesdayという名前で、ブラッド・ピット主演の映画と違って、参加者が実際に殴り合いを始めることはない。東京都中野区のRed Bull Gaming Sphereでは毎週、格闘ゲーム・コミュニティのメンバーがデジタル上で拳を構え、「鉄拳8」、「Street Fighter 6」、「GUILTY GEAR -STRIVE-」などのビデオゲームで対戦している。

イベント主催者のジョナサン・メトイヤー氏は、「このイベントが始まったのは、約6年半前の2018年初頭です」と話す。「私たちは以前から、日本の格闘ゲーム・イベントのローカルライブ配信と英語によるミラーリング配信を行っていました。仕事とイベントを通じてレッドブルのチームとつながりができ、彼らがこの施設を作ったときに、Red Bull Gaming Sphereで定期イベントを開催できたらすごいと思ったのです」
メトイヤー氏(「Majin Obama」の通称でバトルのライブ配信と実況を行っている)とアンドリュー・「Jiyuna」・フィデリス氏がTatakai Tuesdayの共同主催者だが、他に5~6人の流動的なチームが機材のセットアップを手伝ったり、必要があれば新しいプレーヤーの対戦相手になったり、公式トーナメントの運営に協力したりする。全員ボランティアで、格闘ゲームがコミュニティ体験となる海外で育ったことが動機になっていた。
「私たちは、皆で集まり、ゲームをして、おしゃべりして(けなし合って)、後で飲むという環境にいました」とメトイヤー氏は言う。「格闘ゲームの大きな大会もあり、通常はオフラインで開催されていました。Tatakai Tuesdayでも午後8時からミニ・トーナメントをやっていますが、これは大会で感じるであろうプレッシャーの感覚を再現するためです」
Tatakai Tuesdayの活動は、日本のゲームセンターが経営難に陥り、新型コロナの感染拡大がこれに拍車をかけたことにも関係している。メトイヤー氏によると、多くのゲームメーカーが、アーケード版の開発という従来の手順を踏まずに、最新タイトルを直接ゲーム機用に開発するようになったという。しかし、Tatakai Tuesdayはそのアーケード体験を取り戻そうとしている。モニター、コンピューター、コントローラーを含む機材はすべてレッドブル・チームの所有物で、取り扱いに注意し、責任を持って片付けることを条件として、誰でも使用できる。
週に一度のセッションは、毎週火曜日の午後6時に始まり、無料で参加できる。登録も必要ない。来場してプレーするだけでいい。

Tatakai Tuesdayはいつもどのような夜になるのだろうか。私が参加した10月上旬の雨の夜、集まった人は全員とは言わないがほとんどが男性で、幅広い年齢層に見えた。常連メンバーによると、普段は日本人の女性グループが楽しんだり、年配のサラリーマンが子どもの頃に遊んだゲームを思い出して郷愁に浸ったり、ゲーマーの旅行者が東京に立ち寄りがてら地元の人との交流を求めてやって来たりするという。
メトイヤー氏によると、プロゲーマーの卵が腕を磨くために参加することもあるという。よく誤解されるが、格闘ゲームは対戦相手より速くボタンを叩けばよいというものではない。むしろ、限られたシステムの中で自分の持つツールを把握し、その最適な使い方を理解するものだと同氏は説明する。当然のことながら、ルールや使える機能はゲームによって異なる。例えば、鉄拳シリーズは3D格闘ゲームで、プレーヤーは奥から手前に移動できるため、より複雑な動きが可能である。
さらに、伝統的なスポーツと同じように、選手の素質によってスキル向上のスピードが決まる面もある。
「他のジャンルのeスポーツと格闘ゲームのような(1対1の)競技の大きな違いの一つは、トレーニングが個人的な成長の追求へと変わることです」とメトイヤー氏は話す。「全員が同じ目標を追い求めることが、ゲームをおもしろくします。自分の目標を達成するには、周りの人も上達する必要があります。自分を上達させてもらうために、他の人にも上達してほしいと思うのです」
メトイヤー氏の話を聞くと、ムエタイやキックボクシングのスパーリングなど、自分が武道をやっている時のことを思い出す。トレーニングパートナーと共に成長しないと、自分より経験のある人と戦うときに苦しむことになる。
同様に、スポーツが本質的に仲間意識の上に成り立つものであれば、それこそコミュニティが本当に輝く瞬間である。メトイヤー氏は、Tatakai Tuesdayの特に誇らしい思い出を話してくれた。それは当時8歳のプロゲーマー、つよし氏が「ドラゴンボール ファイターズ」を究めるための支援を提供したことだ。コミュニティによるクラウドファンディングのおかげで、この神童は父親と共にラスベガスに渡航し、EVO 2019ゲームトーナメントに参戦することができた。
メトイヤー氏は、格闘ゲームを通じてコミュニティの精神を高め続ける方法が他にもあると考えている。その一つが、日本人プレーヤーが海外の格闘ゲームトーナメントで戦うときに必要な会話と語彙に特化した英会話教室である。
「人に話しかけたり、対戦を申し込んだりする際の基本的な会話を、国内(日本)のプレーヤーに教えるプログラムです。海外トーナメントに参加するときに、きっと役に立つはずです」
Tatakai Tuesdayなどのイベントとメトイヤー氏、フィデリス氏らのチームの努力は、コミュニティの精神がサブカルチャーの空間を育て、プロの格闘ゲーマーの道を歩む者に変化をもたらす力になりうることを象徴している。
「ここへ来てゲームをする。必要なのはそれだけです。とにかく通って参加してください。自分より下手な人とも上手な人ともプレーしてください。失敗して、失敗する自分を観察して、失敗した理由を理解するのです。参加して、成功して、成功した理由を理解するのです」
翻訳/伊豆原弓