グローバル化するビジネスやコミュニティを支えるアプリ通訳サービス
 
Oyraaのはじまり
無料でダウンロードできるアプリを用いた通訳サービスのOyraaでは、AIでなく人間の通訳者が150を超える言語に対応する。従来の通訳サービスは、半日以上などの最低利用時間を設け、高額な料金を請求することが多いが、Oyraaの場合、1分単位でサービスを利用することができる。料金は通訳者ごとに異なる。
Oyraaには多くの通訳者が登録されており、合計で70を超える分野の専門知識に対応。サービスは24時間365日利用可能だ。
株式会社Oyraaの代表取締役社長で創業者のコチュ・オヤ氏が同社を設立したのは2017年のことである。トルコ出身のコチュ氏は、東京在住で日本国籍を取得している。
コチュ氏がOyraaのアイデアを思いついたのは、日本に暮らす海外出身の友人が、病院や不動産会社など日本語でのやりとりが必要な場面に出くわすたびに、彼女に助けを求めてきたことがきっかけだったという。当時、東京の戦略・マネジメントコンサルティング会社に勤めていたコチュ氏は、友人が利用できそうな通訳サービスを探したが、通訳会社のほとんどはビジネス向けのサービスのみを展開していた。
これを機に、コチュ氏は通訳者への聞き取りを始め、頭の中に芽生えたビジネスのアイデアを練り上げていった。彼女はOyraaを立ち上げるために、仕事を辞めることにした。「挑戦すれば、いろいろな経験や学びがある。うまくいけば素晴らしいが、うまくいかなくても学ぶことはあるし、なんとかなる」と、自身に言い聞かせた。
当初、Oyraaは個人向けの通訳サービスとして構想されていたが、アプリを利用する仕組みと1分単位の料金体系は、日本の企業にも積極的に受け入れられた。現在では、企業向けのソリューションが同社の収益の大半を占めている。
「東京、あるいは日本で暮らす外国人の数は急速に増えています。さらに、インバウンド旅行者も大勢います」とコチュ氏は話す。「いつ誰がサービスを求めて店舗や代理店にやって来るのか、その人が何語を話すのか予測することはできませんから、いつでも利用できるこのオンデマンドサービスは、多くの企業にとって心強いツールです」
 
通訳サービスとテクノロジー
コチュ氏がOyraaを創業した当時、機械翻訳は現在よりもはるかに未熟で、AIツールも今ほど高度化していなかった。近年、翻訳ツールは飛躍的に進化したが、少なくとも現時点では、人間による通訳の需要は依然として伸びていると彼女は話す。
「あらゆる背景やコンテクストを理解し、異なる言語間のコミュニケーションの橋渡しをしてくれる人がいると、心地よさや安心感が増します」
無料のデジタル翻訳ツールで問題ないと感じる人が世界的に増えているが、コチュ氏の経験によれば、「日本人は良質なサービスには喜んでお金を出す」という。Oyraaの有料ユーザーの大半は日本人だ。
150以上の言語に対応した通訳サービスを提供するため、Oyraaには3,000人以上のフリーランス通訳者のグローバルネットワークがある。通訳者の拠点が世界のさまざまな地域に分散していることで、24時間365日間対応のオンデマンドサービスを提供することが可能だ。通訳者のほか、世界各地のメンバーからなる、アプリ開発やカスタマーサポートの専門チームもある。
今年中には、AI通訳も導入する予定だ。AIは今後の通訳業界でますます大きな役割を果たすようになり、いずれは大規模なイベントやフォーラムなど、現時点では人間による同時通訳が必要とされている場面でも利用されるようになるとコチュ氏は考えている。
 
東京で起業する
コチュ氏にとって、東京はビジネスを運営するのに最適な場所である。
「東京が大好きです。だからここで暮らしているのです」と話す彼女は、東京のインフラや安全性、伝統と革新が融合する様を絶賛する。「これにはとても力づけられています。起業家にとって、自分が生活する場所や環境に心地よさや満足を感じられることは、大きな支えになります。暮らしも仕事も、すべてが楽になります」
日本はこれまで、経済や政治におけるジェンダー平等が進んでいる国とは言えなかったが、世界経済フォーラムは日本について、女性の労働参加率が上昇し、上級管理職に占める女性の割合も増えつつあると述べている。
コチュ氏にとって、女性の起業家であることは全く特別なことではない。「女性起業家としての経験そのものは、東京においても、ニューヨークやイスタンブールなど他の大都市においてもさほど変わりません。女性起業家ということだけで、良くも悪くも注目されたいとは思っていません。ビジネスにジェンダーは関係ありません」
起業したい女性に対し、コチュ氏は次のように語る。「自分に自信を持ってください。周りの人の考え方、女性ならではのタブー、女性はこうあるべきだという思い込みにとらわれすぎないようにしてください。自分の人生でやりたいこと、達成したいことに集中しましょう。集中すれば、雑音は耳に入らなくなりますよ」
コチュ氏は起業家たちに、東京で事業アイデアの実現を目指すことを勧めている。彼女は日本の文化、革新性、安定性に触れ、「日本は暮らしやすく、ビジネスでもプライベートでも何かに挑戦するにはうってつけの場所です」と話す。「東京には素晴らしい環境と条件が整っています」
東京都もこうした可能性を強く意識しており、企業でのインターンシップの機会を提供するなど、世界の人材を積極的に受け入れる環境づくりに取り組んでいるほか、開業手続きの簡素化や起業を目指す人への英語対応を推進している。
コチュ氏自身は、テクノロジーや社会のニーズの変化に合わせ、今後もOyraaが進化を続けることを目指している。そして同社が日本で暮らす外国人のために、コミュニティの形成を支援し、ニュースや時事問題をめぐる情報格差の解消に貢献することを願っている。
コチュ氏とOyraaは、国際的なビジネスの拠点として、また世界の人々が共に暮らす場所としての東京の発展を支える存在であり続けるに違いない。
コチュ・オヤ
株式会社Oyraa
https://www.oyraa.com/写真/藤島亮
翻訳/喜多知子
 
           
               
            




