未来への投資:日本初・女性活躍を支援するスタートアップファンド

 日本に新設されたファンドが、女性起業家やビジネスにおける女性活躍を推進するスタートアップを支援し、東京をイノベーションと成長の中心地にしようとしている。
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東京が、ビジネスにおける女性活躍を推進するスタートアップの中心地になりつつあると強調するキャシー松井氏

女性リーダーのスタートアップが重要な理由

 日本初の女性に特化したベンチャーファンド、WPower Fund Iは、とある顕著なジェンダー格差に向き合っている。日本では新たに起業する人の約10%が女性であるのに対し、スタートアップ投資のうち女性創業者に届くのはわずか2%ほどにとどまる。MPower Partnersの共同創業者でゼネラル・パートナーのキャシー松井氏は、これを「未開拓の人材とアイデアの泉」と呼ぶ。「女性リーダーによるスタートアップの多くは、素晴らしいコンセプトを持ちながらも、資金不足で拡大できずにいます。WPower Fund Iは、この状況を変えるためのものです」と語る。

 このファンドは、女性が創業した初期段階のスタートアップや、女性支援につながる製品・サービスを提供する企業に重点を置き、財務的なリターンと測定可能な社会的インパクトの両方を生み出すことを目指している。

 日本では長年の構造的な障壁により、女性による資金調達やリーダーとしての役割に制約があったため、これは特に重要な意味を持つ。WPower Fund Iは、ターゲットを絞った支援を通じて、才能ある創業者の成長を加速させ、資源不足によってイノベーションが行き詰まることを防ぐ。

東京:イノベーションが躍進する場所

 東京は日本の首都であるだけでなく、世界的なビジネス、金融、テクノロジーの中心地でもある。WPower Fund Iは、東京に拠点を置くスタートアップに投資することで、ネットワーク、インフラ、国際的な影響力を活用し、女性創業者が地域発のベンチャーをグローバル企業へと拡大できるよう支援する。

 松井氏は、資金だけでは不十分だと強調する。「東京は足掛かりとしては完璧です。メンター、仲間、ネットワークが身近にあることは、資金と同じくらい重要です」。東京には企業の本社、研究所、アクセラレータープログラムが集中しており、女性リーダーのスタートアップが成功するために必要なノウハウやエコシステムにアクセスしやすい。

 ファンドの創設にあたっては東京都、三菱UFJ銀行、三菱地所、塩野義製薬、MPower Partnersなどが連携し、最大80億円のファンド規模を目標としている。主要な大口の機関投資家は、女性リーダーのベンチャー支援を単なる財務戦略にとどまらないものと位置づける。三菱UFJ銀行は、WPower Fund Iがダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(多様性、公平性、包摂性)への幅広い取組と合致しており、女性リーダーシップの育成は日本経済の活性化につながる可能性があるとの見方を示している。

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ファンドスキーム図   Image: courtesy of 東京都

格差を埋める

 ベンチャーキャピタルの意思決定における女性の割合は依然として低く、約7%にとどまっている。松井氏は、WPower Fund Iが波及効果を生み出せると信じている。「女性創業者を支援することは、単に企業に出資するということではありません。エコシステムそのものの多様化を支援しているのです」

 WPower Fund Iは、メンターシップ、知識の共有、戦略的ガイダンスも提供し、女性創業者が構造的障壁を乗り越え、成長に必要な人材や資源とつながることを支援する。資金とエコシステムの不足に同時に取り組むことで、日本のイノベーションのパイプライン強化を図る。

 女性活躍を推進するスタートアップは、女性だけに利益をもたらすものではなく、経済全体に効果をもたらす。松井氏は「女性リーダーのビジネスに投資すると、業界の変革につながるような新しいアイデアや視点が生まれます」と指摘する。国際的な研究によるエビデンスもこれを裏付けている。多様性のあるチームほど、競争市場で革新し、順応し、成功する可能性が高い。

 WPower Fund Iは、社会的インパクトと経済的インパクトを融合させ、ジェンダースマートな投資(性別に関係なく人材の能力を活かす投資)が倫理にかなうだけではなく、堅実なビジネス戦略となることを示している。女性活躍を推進するスタートアップに明確に重点を置くことにより、測定可能な収益性と社会的効果の両方を最大化することを目指す。

変化の推進を支えるエコシステム

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女性起業家を支えることの重要性とインクルーシブな成長を促進するベンチャーキャピタルの役割について語る松井氏

 WPower Fund Iは、資金を拠出するだけでなく、女性起業家がネットワークでつながり、ノウハウを共有し、メンターや仲間から学べる環境づくりに力を入れている。松井氏は「私たちは、女性創業者が世界的に活躍するために必要なインフラや支援を提供することを目指しています」と語る。

 このようなエコシステム面のアプローチによって、女性リーダーのスタートアップが存続するだけでなく世界規模での拡大と成功につながり、東京は女性起業家の中心地として位置づけられるようになる。それは、日本のビジネス界におけるインクルーシブなリーダーシップと公平な機会の実現という、より大きな文化的変化にも結びつく。

 このファンドは、女性創業者の資金調達機会の不足と、リーダーシップにおける女性比率の低さという2つの根深い課題に取り組もうとしている。WPower Fund Iは、女性活躍を推進するスタートアップへの投資を通じ、社会的インパクトを生み出しつつ経済的ダイナミズムも高めていく。

 投資家とパートナーは、このアプローチが今後数年間の日本のスタートアップエコシステムに影響を与えると確信している。松井氏は「女性創業者を支援することは、広くビジネス界の変革を促すことにつながります。私たちは、長年見過ごされてきたイノベーションの可能性を解き放とうとしているのです」と語る。

キャシー松井

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社会的課題に取り組むスタートアップの支援を専門とする日本初のESG重視型ベンチャーキャピタル、MPower Partnersの共同創業者兼ゼネラル・パートナー。女性の職場での活躍やリーダーシップが経済に与える影響に着目した枠組み、ウーマノミクスを提唱したことで広く知られる。研究や支援活動を通じて、ビジネスにおける女性活躍の推進は単なる平等性の問題ではなく、経済とビジネスの成長とイノベーションの原動力になることを示している。松井氏と共にWPowerを立ち上げたチームは、女性がリーダーの、または女性のビジネス参画を推進する将来性あるスタートアップを見いだし、地域や世界における拡大を支援する。
取材・文/リサ・ワリン
写真/穐吉洋子
翻訳/伊豆原弓