「ゲームで学ぶ情報リテラシー」 大学発EdTechの挑戦

 SNSなどを通じて大量の情報が飛び交う現代社会では、情報の真偽を見抜く力が求められている。その力を養う教育プログラム「レイのブログ」を、現役大学生たちが創業した株式会社Classroom Adventureが開発した。謎解きゲーム形式で楽しみながら情報を疑う力、真偽を見抜く力が身に付くという。CEOの今井善太郎氏に、プログラム開発の背景や、東京から世界へ発信する教育の可能性について聞いた。
_74A2104.jpg
株式会社Classroom Adventureの共同創業者でCEOも務める今井善太郎氏

情報の真偽を見分ける力を身に付ける

 誤情報と偽情報に関する懸念が世界的に広がっている。2025年1月に、グローバルな課題解決を目指す世界経済フォーラムが、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)開催前に公表した報告書で、今後2年間における最大のリスクは、誤情報と偽情報と指摘。異常気象や国家間武力紛争を上回るものと位置づけられた。

 子どもたちを取り巻く状況にも大きな懸念がある。総務省の2020年の調査報告書によれば、新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報を正しいと思ったり信じたりした人の割合を年代別で見ると、15歳から19歳が最も高いという。

 こうした背景から、教育現場を中心に世界的に注目が集まっているのが、「レイのブログ」だ。

Ray's-Blog-15.png
「レイのブログ」では、謎解き感覚でメディアリテラシーを鍛えることができる Photo: courtesy of Classroom Adventure

 「このプログラムは、ゲームパートとレッスンパートで構成しています。ゲームパートでは、アニメの物語形式で、レイという謎の人物から挑戦状を受け取るところから始まります。プレーヤーはレイが残したブログの記述をインターネットで調べ、自身で真偽を判断しながら少しずつレイの正体に近づいていきます」

 疑う、調べる、判断するという三つのステップを通して知識やスキルを身に付けた後、講師が誤情報や偽情報の拡散事例を示し、実際の場面で求められる判断を解説。情報に対応する力を身に付ける。これまで12カ国で50,000名以上が学んだプログラムだ。

メディアリテラシーは生きる力そのもの

 開発したのは、今井氏ら慶應義塾大学に通う学生たち。どのようにしてこのゲームが生まれたのか。

 「Googleが主催するファクトチェックの世界大会(Youth Verification Challenge)に3人で応募したのが始まりです。日本大会で優勝して、世界で4位になりました。その時にファクトチェックの面白さに気付いて興味を持ちました。誰かがファクトチェックした、正しいとされる情報を受け取るよりも、自分自身でファクトチェックができるスキルを身に付ける方が、対策として有効です」

 必要なのはメディアリテラシー、つまりメディアからの情報を鵜呑みにすることなく批判的に捉え、主体的に読み解いてそれを活用し、メディアを通じてコミュニケーションを創造する能力なのだ。

20251121110645-a6c74cfce533c4d1119c8cf3fab2776280bb3d2d.jpg
TOKYO STARTUP GATEWAY 2024で最優秀賞を受賞するなど、今井氏はコンテストでも結果を残している Photo: courtesy of 東京都

 「現代社会でメディアリテラシーは、生きる力そのものです。AIの進化によって、ますます巧妙な偽情報が拡散されるようになっています」

EdTechで学びを楽しく

 開発にあたって今井氏たちが大切にしたのは、学びを楽しくしたいという思いだ。

 「これまで学校で行われてきたメディアリテラシーの授業では、これはダメ、あれは間違っている、という一方的なものもあったので、誰もが楽しんで学べる内容にしたいと思っていました」

 小学校、中学校と通っていた東京学芸大学附属世田谷校で探究的な教育が行われていたことから、教育に興味があったという今井氏。

 「海外の教育を体験したくてカナダの高校に進学し、現地の小学校でインターンを経験しました。教育の中で新しい取組を始めたいという思いを持っていました」

P1022260.jpg
スタッフが学校に赴き、授業や進行を行うプランもある Photo: courtesy of Classroom Adventure

 アジア最大級のイノベーションカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2025では、参加する世界中のスタートアップ企業の中から、今井氏が注目企業6社をピックアップしYouTubeで紹介。

 「水の課題解決に向けた取組を行う企業や、AI技術を活用して質の高い広告展開を行う企業など、どれもワクワクするような未来を感じさせる企業でした」

 期間中のパブリックデイにはトークセッション「若手起業家と探る、わたしたちの未来」に登壇。

 「パブリックデイには、一般の人がたくさん来場していました。エンターテインメント的な誰もが楽しめる要素を持つビジネスも多く紹介されていて、ビジネスとしてだけではなく東京の文化を育てていくイベントだと感じました」

 中でも今井氏の印象に残っているのが、VRでバンジージャンプを体験できる「どこでもバンジーV R」だ。

 「体験を希望する子どもたちが行列を作っていました。子どもだけでなく大人もワクワクさせる技術です」

東京には応援してくれる人がたくさんいる

 今井氏は、東京都のアントレプレナーシップ育成プログラム(TIB Students)のサポーターとしても活躍中だ。

 「これまで何度か、中学校や高校で開催されたイベントに登壇しました。ゲーム開発を行っている生徒たちと話をして僕自身も刺激を受けました。東京には、応援してくれる人がたくさんいます。起業家を支援する仕組みも整っていて、僕たちもこれまで多くのサポートを受けました。迷わずぜひ一歩を踏み出してほしいです」

 Classroom Adventureでは「レイのブログ」に続き、闇バイト対策に対応した「レイの失踪」をリリース。これからも国内外でますます注目を集めるはずだ。

 「アニメ形式という点でも海外からの関心が高く、日本の文化を社会課題解決に結びつけている点でも意義を感じています」

 東京発のスタートアップとして、同社は世界に大きく羽ばたいていきそうだ。

Movie:Classroom Adventure

今井善太郎

_74A2116.jpg
株式会社Classroom Adventure共同創業者兼CEO。慶應義塾大学総合政策学部在学中。中学卒業後カナダへ渡り、現地小学校でのインターンを経験。2024年に株式会社Classroom Adventureを仲間とともに創業、現職に就く。東京から世界を変える起業家を輩出するビジネスプランコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY 2024で最優秀賞を受賞。

株式会社Classroom Adventure

https://classroom-adventure.com/ja

20251127190204-0d6d7d79b7a90057bf438baaf73a9b829ed0f893.png

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/今泉愛子
写真/藤島亮