Women in Actionで若者へ語る、人生とキャリアにおける選択の力
開く扉を見つけるまでたたき続ける
このイベントの基調講演を行ったのは、ニューヨークにあるコロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガー氏で、選択とイノベーションの関係性を研究する世界有数の専門家である。
この日のイベントでアイエンガー氏は、若い女性を中心とした参加者にメッセージを伝えた。その主な内容は、たとえ困難に直面しても、キャリアを築くためには粘り強く努力を続けるべきだというアドバイスである。
女性には職場で収入や人脈づくりなどに関して障壁があると認めた上で、道を開くための鍵として、メンターを見つけること、そして見つかるまで粘り強く探し続けることをアイエンガー氏は強調した。
「例えば10回扉をたたいたら、9回は断られるでしょう。そのときやるべきことは、扉をたたき続けることです」
また、アイエンガー氏は、より平等な職場環境を実現するための具体的な方法として、従業員が匿名でアイデアを投稿できる意見箱を社内に設置することを提案した。この方法であれば、アイデアはそれ自体の価値のみによって判断され、性別を含むさまざまなバイアスを防ぐことができるという。
「イノベーションはすべての企業にとってプラスであり、女性はこれに関して重要な新しい視点をもたらします」と彼女は強調する。
さらに、「同じような人たちの中で唯一の存在という場合は難しさもありますが、それを弱みではなく強みにするのです。気詰まりに感じるのではなく、むしろ誇らしいことだと思ってください」と述べた。
アイエンガー氏自身も、違いを乗り越えてきた経験がある。カナダでインドからの移民の娘として生まれ、アメリカのシーク教徒コミュニティで育った彼女は、10代で病気のため光を失い、全盲となった。「私が育った時代は、目の見えない人は自分の靴ひもも結べないと思われていました」と彼女は振り返る。
アイエンガー氏は、2冊の受賞作の著者であり、2023年のThinkers50による「経営思想家トップ10」や2022年のアジア系アメリカ人ビジネス開発センターによる「ビジネス界における傑出したアジア系アメリカ人50人」に選ばれるなど、数々の称賛を受けている。まさに彼女自身が、課題や困難が立ちはだかっても諦めずに挑戦し続けて力を付けてきた存在なのである。
選択の力
アイエンガー氏の大学の起業プログラムでは、大小の問題解決を支援する生成AIアプリで、彼女のThink Biggerメソッドを組み込んだChoice Mapperなどを使用している。このプログラムの参加者40名のうち10名が現在起業家になろうとしており、そのうち少なくとも5名は女性だという。
「私は学生たちに、もっと大きく考えるよう教えています」
アイエンガー氏の研究は、「運命」、「偶然」、「選択」という、私たち人間の一生を説明するための三つの特徴的な視点またはストーリーに焦点を当てている。「そして三つのストーリーはすべて真実ですが、私たちに変化を起こす力を与えてくれるのは、最後の『選択』だけです」と強調する。
「望むものを手に入れるには、望まないものを押しのける必要があるかもしれません。選択を恐れるわけにはいかないのです」
「ここ日本では、よく『仕方がない』と言いますが、私はこの言葉が大嫌いです」。イベントの事前インタビューで、彼女は笑顔でそう話した。
「もちろん、不可能なこともあるかもしれませんが、それを基準にするべきではありません。何を生み出せるか、と考えるべきです」
アイエンガー氏の選択に関する研究は、1995年に日本に住んでいたときの経験を含め、いくつかの要因によって綿密に形成されている。彼女はこの経験について、非常に人気の高いTEDトークの一つ、「選択の科学」で触れている。京都でお茶に砂糖を入れてと注文したら、日本の伝統に反するため断られたエピソードを楽しげに話した。アメリカではこのような場合、個人の選択が優先されるため、アメリカ人の彼女にとっては初めての経験だった。
女性プロフェッショナルを中心的存在に
この日のイベントでは、Women in Action: Choosing Your Careerのメインテーマに関するパネルディスカッションも行われた。カレイディストのCEOの塚原月子氏がモデレーターを務め、アイエンガー氏のほかに東京都の小池百合子知事とアサヒグループホールディングス会長の小路明善氏がパネルに加わった。
このディスカッションで小池都知事は、性別に関する無意識の差別が存在し、そこから解放される必要があると述べた。1986年に日本に男女雇用機会均等法が施行されたのを第一歩とし、ジェンダー平等を達成する過程において、課題をどのように機会へと変えられるかについての考えを話した。そして自らの都政で達成した成功例として、育児休業という言葉から「休」の字を除いて「育業」と呼ぶことにした事例について説明した。この変更によって東京都における男性の育児休業取得率が10倍に上昇し、女性の職場復帰を後押しする結果になったという。
アイエンガー氏もこの成功に共感を示し、小池都知事に向かって「10年前は都政を女性が率いることになるとは誰も考えていませんでした。これはまだニューヨークでも成し遂げられていないことです」と述べた。
さらに、東京都は小池都知事のリーダーシップのもと、2025年度から都庁においてフレックスタイム制を活用して週休3日制を導入するなど、育児に関する雇用就業施策の分野で見事に成功していると評価した。同様の取組は日本企業のモデルにもなり、それによって企業もさらにジェンダー平等を推進できるとアイエンガー氏は言う。
日本で同様の成功は起こりうるかとの質問に対し、アイエンガー氏は楽観的だ。
「日本の人々は、ルールや規範を作ってそれを忠実に守ることには驚くほど長けていて、それは素晴らしいことです。ですから東京都は、若者向けの新しい起業プログラムやメンターシッププログラムを創設するとよいでしょう。若者は、新しい未来を実現できる人々です」
シーナ・アイエンガー
写真/穐吉洋子
翻訳/伊豆原弓





