最先端を見つめ続けたファッションディレクターが語る、東京の引力

 1990年代半ばからモード誌のエディターとして最先端のトレンドを見極め、コンテンツの企画や制作に打ち込んできた龍淵絵美氏。2児の母になってからはフリーランスとして独立し、著書を出版するなど、さらに活躍の場を広げている。
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ファッション業界で30年近いキャリアを持つ龍淵絵美氏

東京でファッション通が注目するショップとは?

 これまで約30年にわたり東京で、ファッションページの企画、スタイリング、モデルやスタッフのキャスティングに携わり、近年はブランドのファッションディレクションにも関わってきた龍淵氏は、この街の魅力について次のように語った。

 「ファッションディレクターとして感じるのは、東京は多様なファッションが楽しめる都市だということです。ハイブランドのブティックが銀座や表参道、六本木など複数の場所に展開するほか、コムデギャルソンやサカイ、オーラリー、ヴィズヴィムなど魅力的な東京発のブランドもあります。そして原宿などは独自のストリートカルチャーを発信しています」

 それだけではない。海外のファッション関係者が密かに注目しているのが、ヴィンテージショップだ。

 「特に90年代のハイブランド製品のストックが豊富で、しかも状態が良いものが多いと評判です。それを目当てに東京を訪れる人もいるほど。90年代は日本でハイブランドの売り上げが伸びていた時期だったこと、日本人は服をきちんと手入れする習慣があることも関係していると思います。SNSなどで情報が出回っていないショップも存在します」

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東京のファッションシーンの多様な魅力を語る龍淵氏

古さと新しさの対比が際立つ都市

 東京で、龍淵氏が海外からの旅行客を案内する際に心掛けていることがある。

 「モダンな高層ビルと古い寺院、現代アートと職人たちの手仕事から生まれる工芸品、街を照らすネオンサインと高尾山で見る月の光など、東京は対照的なものが共存する街なので、必ずその両方を案内するようにしています。これが東京のコントラスティングビューティーだと説明すると、とても満足してくれます。東京はこれからも発展し続けると思いますが、古くて美しいものは残してほしい。あとから作ることはできませんから」

 海外出張の機会も多かった龍淵氏にとって、東京とはどんな街だろうか。

 「安全で清潔、便利な街なので安心して暮らせます。長期滞在にも向いていると思います。私の好きな光景が二つあります。一つは羽田空港からの帰りにレインボーブリッジから見る景色。正面に東京タワーが見えると帰ってきたとホッとします。もう一つは新宿のパークハイアット東京最上階にあるニューヨークグリルからの夜景。東京という巨大都市を照らす無数の明かりを見ていると、小さなことにくよくよしなくていいと思えます」

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海外から帰国した際、レインボーブリッジから見える東京の景色に落ち着くという龍淵氏 Photo: PIXTA

性別にとらわれず活躍できる仕事

 龍淵氏は、2025年3月にこれまでのキャリアを振り返った著書『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』を出版した。日記のように綴った文章をSNSで発信したことから話題を呼び、書籍化につながった。

 「私がこの仕事に就いたのは、雑誌とファッションが大好きということはもちろんですが、性別に関係なく働ける環境だと考えたからです。本書には私の体験に加え、仕事を通じて出会った多くの女性たちの姿も書きました。社会でジェンダー平等を推進するためには、女性自身の意識改革も必要です。多くの女性たちが悩みながらも、やがて自分らしさを確立して働く現場の雰囲気を伝えることで、そうした意識改革のきっかけになることを期待しています」

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2025年のパリ・ファッション・ウィークで、フランスの俳優マリオン・コティヤール氏(左)にインタビューする龍淵氏 Photo: courtesy of 龍淵絵美

 多様で刺激的な魅力を放つ東京のファッションシーンを見つめてきた龍淵氏は、今後トレンドを広く発信するだけでなく、エッセイストとして深く掘り下げていきたいと考えている。

 「世界的にファストファッションが普及し、都市の個性が失われつつあるように感じます。東京にはこれからも多様なファッションを楽しめる都市であってほしいと願っています」

龍淵絵美

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ファッションディレクター/エッセイスト。モード誌のエディターとして出版社勤務を経てフリーランスに。現在はブランドディレクションやエッセイの執筆なども手掛ける。2025年3月、著書『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』(集英社インターナショナル)を出版。
Instagram: @amy_tatsubuchi
取材・文/今泉愛子
写真/藤島亮