Chef's Thoughts on Tokyo:
神楽坂で出会える東京初のジョージア料理レストランの深い味わい

 外国人観光客にも人気のスポットである新宿区神楽坂に2025年9月、本格的なジョージア料理専門レストラン「AJIKA(アジカ)」がオープンした。なぜこの地を選んだのか、そしてジョージア料理の魅力について、共同創設者兼CEOの真下博志氏と、ジョージア出身の共同創設者ギオルギ・アブラゼ氏に聞いた。
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レストランで味わえるジョージア料理とワイン

ジョージア文化への入り口になる店

 黒海とカスピ海に挟まれ、古代からヨーロッパとアジアの多民族が行き交う東西交易の要衝として知られる南コーカサス地方に位置するジョージア。ワイン愛好家の間では8000年以上もの歴史を持つワイン発祥の地としても有名だ。

 真下氏とジョージアとの縁は比較的新しい。発端は、2023年に設立された日本ジョージア商工会議所の立ち上げだった。

 「もともと半導体関連のビジネスを世界各国で展開しており、その関係で知り合った駐日ジョージア大使から、日本とジョージアの企業をつなぐ商工会議所をつくってほしいと依頼されたのがきっかけでした」

 活動の流れで多くのジョージア人と知り合い、東京で本格的なジョージア料理を味わえる店や、自国の文化を発信する場がない、という声を聞くようになり、ならば一緒にジョージア料理の専門店をつくろうという話に発展した。意気投合した1人、アブラゼ氏がこう語る。

 「ジョージアには非常に深い食とワインの文化がありますが、単なるレストランではなく、ジョージア文化への入り口となるようなお店をつくりたかったのです」

 神楽坂には少なからず縁があった。もう1人のジョージア出身の共同創設者が、最初の来日時に神楽坂に住んでおり、この街の雰囲気をいたく気に入ったのだという。真下氏が振り返る。

 「歴史を感じさせる街並み、風情が今も残り、ジョージアに通ずる雰囲気を感じさせてくれたそうです。昔から外国人も暮らしていて今も外国人観光客が多く、さまざまな文化が交差する街でもある。まさに悠久の歴史を持つジョージアの食文化を発信する地としてふさわしいと思ったのです」

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広々とした店内。神楽坂らしいおしゃれな空間にジョージアの雰囲気も感じられるような内装を心掛けたという

ジョージア料理の神髄

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 店名のアジカとは、調味料の名前。唐辛子をベースに複数のスパイスを調合した深く豊かな味わいで、ジョージアを代表する万能調味料だ。アジ=味という連想から「味を架け橋に」という思いも込めた。

 ジョージア料理には欠かせないチーズにも強いこだわりがある。アブラゼ氏が自信たっぷりにこう言う。

 「ジョージア料理に欠かせないチーズは、家庭ごとに手作りされつつも伝統的な味がある。ただ、新鮮さが大切なので現地からの空輸が難しく、日本では再現が課題でした。そこで国内メーカー3社に協力をお願いし、本場の味を再現しつつ日本人の舌にも合うように工夫しています。最大の課題は食感と塩分のバランスで、完成までに日本と現地で何度もキャッチボールを繰り返し、半年くらいかけてこれぞという味に仕上げました」

 ジョージア料理の特徴についてもこう続ける。

 「分かち合いと寛大さ、そして大胆な味わいが魅力です。新鮮なハーブ、スパイス、クルミなどを使ってじっくりと時間をかけて調理します。多くの料理は食卓で皆で分け合うことを想定して作られており、これはジョージアの文化そのものを反映しているのです」

 とりわけお勧めなのは、ジョージア中西部イメレティ地方発祥の伝統的なパン料理ハチャプリ、香り豊かなスパイスと肉汁たっぷりの具を包んだジョージア伝統のゆで餃子ヒンカリ、そしてねぎ、ニンジン、ほうれん草の3種類それぞれに、クルミ、スパイスを混ぜた冷菜のプハリなど。

 「これらはジョージア料理の神髄であり、初めての方にも非常に親しみやすく満足していただける料理だと自負しています」

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見た目も色鮮やかで楽しめる代表的なジョージア料理の数々 Photo: courtesy of 8000Vintages Co.,LTD.

伝統を受け継ぐ独特なワイン製法

 料理とともにジョージアの代名詞とも言えるのがワインだ。何よりの特徴は、その製法にある。クヴェヴリと呼ばれる大きな卵形の素焼きのつぼにブドウを皮も種も丸ごと入れ、それを土中に埋めて数カ月から数年かけて発酵させ、醸造・熟成させる。通常の白ワインは皮と種を取り除くため透明になるが、クヴェヴリだとタンニンが豊富で芳醇(ほうじゅん)な味わいの琥珀(アンバー)色に仕上がるのだ。この伝統製法はユネスコ無形文化遺産にも登録され、現代にも引き継がれており、ジョージアではこれをアンバーワインと呼ぶが、近年は日本でもオレンジワインとして人気が高まっている。その魅力を真下氏はこう表現する。

 「ジョージアにはブドウの品種が500以上もあって、世界最多と言われています。それらを何種類もブレンドするため、深くて複雑なうま味が味わえる。何より、8000年以上も受け継がれてきた伝統に裏打ちされた物語が詰まっているのです」

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約150年前に使用されていたクヴェヴリ。現地で発掘されたものを運んできた。大きさはまちまちで、さらに大きなものもあるという

 オープンして半年近くの経験で、アブラゼ氏は神楽坂、そして東京という街にさらに特別な魅力を感じている。

 「単に食事を楽しむだけではなく、料理に込められた物語を学び、体験しようという意識が強く、食文化に対して敬意を払い、好奇心が旺盛。そんな方たちがたくさん集まる街だけに、私たちにとってもすごく刺激的です」

 今後は料理やワインだけでなく、ダンスや伝統芸能などジョージア文化全般について発信し、交流できる場にしていきたいと願っている。

Movie: 東京都

ギオルギ・アブラゼ

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ジョージアと日本で活動する。東京初のジョージア料理店「ジョージアンビストロ&ワインバー アジカ」の共同創業者であり、再生可能エネルギー、テクノロジー、ホスピタリティ分野にも注力している。

真下博志

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半導体関連や電子機器、医療機器、ICTなど世界10カ国で14社を経営し、日本ジョージア商工会議所専務理事も務める。他に西アフリカのベナンとも日本ベナン友好会を設立し、事務局長を務める。2026年2月には清澄白河でウクライナ料理の専門店「DOMIVKA Ukrainian Soul Tokyo」をオープンさせた。
取材・文/吉田修平
写真/藤島亮