食品ロスゼロを目指すキャンペーン、都内の飲食店が多数参加

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 「もったいない」——東京都が進めるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けた取組の根幹には、日本では日常的に使われるこのシンプルな言葉がある。そうした取組のうちの一つが「江戸のこころで 食品ロスゼロ!キャンペーン」だ。都内の食品ロス全体の3分の1以上を占める外食産業におけるロス削減を目的に2025年12月末まで実施され、人気居酒屋チェーンの「一休」を含む1,000余りの店舗が参加した。
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外食産業の食品ロス削減を推進する「江戸のこころで 食品ロスゼロ!キャンペーン」が、東京都内の飲食店と連携して実施された

飲食店が食品ロスを削減する経済的インセンティブ

 株式会社一休の大平秀樹第二営業部長は「実は本キャンペーンのことは、ビールの仕入れ業者から初めて聞きました」と語る。「東京のような大都市では意外に思われるかもしれませんが、単純な口コミだったんです。でも、特に飲食業界では今も、良いアイデアはそうやって広まることが多いんですよ」

 このキャンペーンは、東京と埼玉に20店舗を展開する同社にとって大きな魅力があった。「食品ロスの削減が倫理的に正しいことは、弊社は理解しています」と大平氏は語る。「まだ食べられる食品を捨てたい人なんていません。でも企業としては、実質的な経済的メリットがあるかどうかも知る必要があります」

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大平氏によると、このキャンペーンは一休の居酒屋事業に合致していたという

 最も直接的な効果は、ごみ回収費用に表れた。「飲食店は廃棄物回収費用を支払わなければならず、かなり高額になることもあります。ごみが多ければ、回収費用も高くなります」と大平氏。「ですから、食品ロスを減らす第一の動機は、こうしたコストの削減でした。しかし始めてみるとすぐに、スタッフの効率も上がることに気付きました。ごみの処理に費やす作業時間が減ったからです」

 キャンペーンを担当する東京都環境局の上村太一氏も、キャンペーンへの参加店舗を増やすためには、インセンティブが重要だったと語る。「多くの飲食店オーナーが食品ロス削減に真摯に取り組んでいることは承知しています。でも、オーナーの方々は、あくまで事業を経営しているのです。飲食店にとって、本キャンペーンにどのようなメリットがあるかを説明しなければなりません」

キャンペーンをより効果的にするための方策

 キャンペーンをより効果的なものにするには、飲食店が導入・実施しやすい方策を提示する必要があった。「ポスターなどの食べ残しゼロを呼びかけるグッズに加えて、やむを得ず出てしまった食べ残しを持ち帰るための容器を活用することが、効果的な方法だと考えています」と上村氏は説明する。「これにより、お客様は、想像より多くの量が出たりして食べきれなかった場合でも、持ち帰って後で食べる選択肢が得られます」

 大平氏いわく、店側としては、客自身が「選べる」ことが重要だという。「最優先すべきなのは常にお客様です。お客様には、いかなるプレッシャーも感じさせたくありません。持ち帰り容器は、単に選択肢として提供しています。店の入口付近に置いて、ご希望であれば食べ残しを持ち帰れることを、さりげなくお伝えしています」

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テイクアウト用の容器とキャンペーンのポスターは、一休池袋店の入口付近の目立つ場所に掲示されている

 外食時の食べ残しの持ち帰りは、多くの国ではだいぶ前から習慣化しているが、日本のレストランでは昔からあまり一般的ではなかった。その背景として、文化的な側面が論じられることもあるが、最も大きな理由は衛生面での懸念だ。店側は、食べ残しの持ち帰りを許可することで責任を問われる可能性を心配してきた。

 こうした懸念を払拭するため、消費者庁・厚生労働省は2024年、「食べ残し持ち帰りガイドライン~SDGs目標達成に向けて~」を策定。上村氏によると、このガイドラインに掲載されている、持ち帰る際の注意点ついては、本キャンペーンのチラシや持ち帰り容器にも記載されている。来店客に対しては、自己責任が前提であること、生ものや傷みやすい食品は持ち帰らないこと、気温が高い日には持ち帰りを避けることなどの注意喚起もなされた。持ち帰った食品は、食べる前に十分に再加熱する必要がある。飲食店のスタッフも、どの料理が持ち帰り可能で、どの料理が不可かを客に説明することとしている。

 日本では新型コロナウイルスの流行をきっかけに、デリバリーやテイクアウトに対する人々の意識が変化したと大平氏は言う。「最近は、食べ物の持ち帰りがかなり広く受け入れられるようになったと感じます。弊社店舗では今のところ、非常に好評をいただいています」

持続可能な循環型経済に向けて

 本キャンペーンは、飲食店に対して、利用客に食べ残しゼロを呼びかけるポスターや持ち帰り容器を提供するといった施策を通じて、東京全体の経済・環境施策に変化をもたらすべく実施された。これは、東京都が推進するサーキュラーエコノミーの理念を反映したものであり、リサイクル不可能な廃棄物をできる限り排除することが目的だ。

 この考え方と密接に関わっているのが、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)だ。SDGsについては、国内では若者を中心に認知度が高まっている。「SDGsは今や誰もが知っているようです」と大平氏。「弊社の事業でも、特に食品生産者との協働においてSDGsは非常に役立っています」

 日本のスーパーマーケットでは、見た目が均一で美しい果物が好まれる傾向にあり、形が変わっていたり若干の傷があったりする果物は、農家によって廃棄されることが多い。この無駄をなくすべく、一休は東京都多摩地域の農家と提携し、廃棄されるはずだった果物を使ったドリンクやデザートを開発した。メニューには、多摩産の梨を使った美味しそうなシャーベットやドリンクが並ぶ。地元産の果物を使うことで、コストの削減と輸送関連の環境負荷低減も実現した。

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SDGs推進の取組がわかりやすく表示された一休のメニュー

 大平氏によると、一休のサステナビリティ施策は、多くの利用客から評価されているようだという。「飲食店を選ぶ際、大多数の人にとっては味と価格が最も重要であることは明らかです。しかし、環境や地域社会を大切にする人が作ったことがわかる料理を食べるのは、気分の良いものだと思います。だからこそ、メニューにサステナビリティやSDGsへの取組についての情報を載せているのです」

 食に関しては、人々に行動の変化を忍耐強く促していくアプローチが重要だと、大平氏は語る。「食品ロスゼロは野心的な目標です。でも、一食ずつ、着実に努力することで、きっと実現できます」

上村太一(左)、大平秀樹(右)

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大平秀樹
東京と埼玉に居酒屋20店舗を展開する株式会社一休の営業部第二営業部長。

上村太一
東京都環境局資源循環推進部計画課課長代理(計画担当)

取材・文/トレバー・キュー
写真/井上勝也
翻訳/遠藤宗生