東京の公衆Wi-FiをOpenRoamingでシームレス化

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 東京都は、「スマート東京」実現の取組の一環として、OpenRoaming(オープンローミング)に対応した公衆Wi-Fiを急速に拡大させ、一度利用登録をすれば都度パスワードの入力をしなくても、安心・安全なWi-Fiに自動で接続できる都市を築こうとしている。
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WBAインダストリー・アワード2025で登壇したティアゴ・ロドリゲス氏

日常生活にもっとシームレスな体験を

 学校、病院などの都有施設や区市町村施設、さらに公衆電話ボックスまで、東京の公衆Wi-Fiは静かに大きな変貌を遂げている。これまでは、いくつものWi-Fiが混在し、いちいちログインする必要があったが、バックグラウンドでデバイスを認証できる国際規格であるOpenRoamingによる統一的な自動接続の仕組みへと着実に置き換わりつつある。この技術が「つながる東京」展開方針をどのように支えるのかを探るため、Wireless Broadband Alliance(WBA)会長兼CEOのティアゴ・ロドリゲス氏と東京都の担当者に話を聞いた。

 ナビ、決済、翻訳をはじめ、日常のあらゆるサービスをスマートフォンで利用する都市において、信頼できる接続環境はもはやぜいたく品ではなく、生活に欠かせない必需品である。一度利用登録をすれば自動で接続できる国際規格であるOpenRoamingは、Wi-Fi接続するために頻繁にパスワードを求められ、何度もログインする煩わしさから利用者を解放するものだ。

 ロドリゲス氏は、OpenRoamingの影響力を簡潔な言葉で表現する。「ネットワークを手動で選択したり、パスワードの入力を求めたりするべきではありません。デジタルが前提となった現代において、デバイスが安全に自動接続できることは当然の期待です。OpenRoamingは、公衆Wi-Fiの利用者に、ついにその当たり前をもたらします」

 このユーザーファーストのアプローチは、「つながる東京」を目指す東京都の長期ビジョンの柱である。東京都の担当者は、「『スマート東京』を実現するには、通信を必要不可欠な都市インフラとして扱うべきです。私たちが目指すのは、利用者の利便性が高く、安心・安全にデジタルサービスにアクセスできる都市です」と説明する。

東京都がOpenRoamingの導入を先導し、グローバルリーダーになるまでの経緯

 東京は現在、いち早くOpenRoamingを導入した都市として世界的に認められている。ロドリゲス氏は「日本は世界に先駆けてOpenRoamingを導入しており、東京は他の国際都市の基準となっています。東京都は、区市町村等への支援や方針の提示を通じて、都内での導入を加速させています」と話す。

 ここ東京におけるOpenRoamingの拡大は、「つながる東京」という広範な通信政策に基づいている。この政策の実現に向け、5G、Wi-Fi、衛星通信などの多様な通信技術を、適材適所で活用可能にするための環境整備を加速させている。

 都はアプローチの一環として、都市全域での接続を可能にするために、都有施設や公衆電話ボックス等への整備を進めている。東京都は日本の地方自治体として初めてOpenRoaming対応の公衆Wi-Fiプラットフォームを運用開始し、これを採用する区市町村などの負担を軽減している。

 OpenRoamingは、すでに都庁舎や都立の学校、病院など主な公共施設で使われている。いずれホテル、小売店、イベントホール、大学などの公共・民間施設の参加が増え、OpenRoamingの普及につながると期待されている。

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東京都の公衆Wi-Fiを提供する施設には緑色のステッカーが掲示される Photo: courtesy of 東京都

誰もがつながる世界へ

 OpenRoamingは、住民や観光客も含め、多様なユーザーを支える。都はこの取組を進めるにあたり、包摂性を重視している。都の担当者は「一度利用登録をすれば、街中を移動していてもWi-Fiを意識することなく利用できます。信頼できる接続手段は、住民の利便性を高め、観光客のアクセスを向上させ、公共施設等での体験を一層充実させます」と述べる。

 デジタル技術に詳しくない人でも、安心・安全なWi-Fiに自動接続できればデジタル社会に参画する障壁が低くなる。ロドリゲス氏は「OpenRoamingは、Wi-Fiへの接続を維持するための手段やデバイス、スキルの有無にかかわらず、インターネットへのアクセス機会を広げます。誰もが利用できる環境を通じて、あらゆる人に新たな機会を提供します」と話す。

 認証を簡素化し常時接続を提供することによって、教育機関、医療機関、公共施設での利用もサポートできる。

緊急時に備える

 東京都の通信戦略は、日常の利便性だけでなく災害時の対応も重視している。日本は台風や地震などの自然災害が多く、通信インフラは想定外の事態に耐えるものでなければならない。

 ロドリゲス氏は大きな可能性を見据えている。「緊急時には4G・5Gに障害が起きたり、通信が集中し混雑してつながりにくくなることがあります。特に携帯電話の電波が届かない可能性のある屋内環境で、Wi-Fiは重要な通信手段となりえます」

 都も同じ考えを持っている。「災害時には複数の通信手段を持つことが重要です。Wi-Fiを4G・5Gなどの移動通信システムと併用できれば、避難所や公共施設でより迅速に情報共有ができます」と担当者は話す。

 技術が進化すれば、OpenRoamingで緊急アラートや位置情報に基づく通知を配信することも可能で、WBAは世界各国の政府とこれについて積極的に協議を進めている。

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2025年の訪日の際に副知事の宮坂学氏(左)と面会したティアゴ・ロドリゲス氏

イノベーションのエコシステム拡大

 海外では、OpenRoamingは公共施設だけでなく、民間施設にも導入が進んでいる。ロドリゲス氏は「ホテル、スタジアム、空港、コンベンションセンター、学校などの幅広い分野で、自動接続を実現できます。既存のWi-Fi環境を活用できる場合はコストを抑えながら導入でき、利用者満足度の向上にも大きく寄与します」と説明する。

 一部の国の学校ではすでにOpenRoamingが導入され、生徒、教師、職員を個別のデジタルIDで認証しており、ネットワーク管理の簡素化や安全性の向上に役立っている。東京都でも将来的にエコシステムに加わる組織が増えれば、同様のユースケースが生まれる可能性があるとロドリゲス氏は言う。

 「私たちは、小売店、観光施設、民間企業の間でOpenRoamingの採用が広がることを期待しています。官民の協力は必須であり、東京都はすでに明確な方針を示しています」

Wi-FiとデジタルIDの未来

 ロドリゲス氏は将来に向けて、今以上にWi-Fiが日常生活の中心にある世界を思い描いている。このことは東京のような大都市にとって明確な意味を持つ。「米国では、インターネット・トラフィックの85%が、自宅、職場、公共スペースなどのWi-Fi経由です。しかし、公衆Wi-Fiにはいまだに時代遅れのログイン方式を使っています。OpenRoamingは現時点で最も進んだWi-Fi接続・認証の規格ですが、将来はさらに進化すると予想しています」

 アジア最大級のイノベーションカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2025の期間中、ロドリゲス氏は東京を訪れ、この地域のパートナーと継続的な活動を行う中で、都の職員とも会談した。

 2026年1月、東京都とWBAはTokyo Innovation Base(TIB)で共同イベントを開催し、OpenRoamingの導入状況を紹介するとともに、将来の取組に関する情報を提供した。

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東京の公衆Wi-Fiの取組を視察するロドリゲス氏

もっとつながる東京に向けて

 東京都のOpenRoaming導入は今も拡大を続けているが、都市全域のネットワークの基礎はすでに強固である。都の政策的リーダーシップとWBAの技術的知見によって、東京は、安全で利便性の高い公衆Wi-Fi整備のグローバルモデルとしての地位を確立しつつある。

 ロドリゲス氏は、将来のビジョンを次のようにまとめている。「私たちは人々に、簡単、安全に、誰の力も借りずにつながってほしいと考えています。住民でも、高齢者でも、観光客でも、家族でも。それがWi-Fiの未来であり、東京は先頭に立って進んでいます」

ティアゴ・ロドリゲス

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Wireless Broadband Alliance(WBA)会長兼CEO。
Wireless Broadband Allianceを率いて次世代Wi-Fiを推進するグローバルプログラムを策定している。ポルトガル・テレコム・グループで15年間、公衆Wi-Fi戦略、サービス開発、ビジネスイノベーションに携わった経験を持つ。リスボンと英国の大学で経営学の学位と科学技術経済経営学の理学修士号を取得。

Wireless Broadband Alliance

https://wballiance.com/
*英語サイト

取材・文/リサ・ワリン
写真提供/ティアゴ・ロドリゲス
翻訳/伊豆原弓