椿の伝統を咲かせ続ける伊豆大島の高校生

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 東京は巨大都市という文脈で語られがちだが、都内には島しょ部も含まれており、そこには教育・文化・地場産業が密接に結びついた営みがある。伊豆大島では高校生たちが国際的にも評価の高い椿園の維持に携わり、地域の植物を世界との接点に変えている。
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校内の椿園で作業する東京都立大島高等学校農林科2年の生徒たち

火山と椿が形作る島

 東京都心から南へ約120キロメートル、伊豆諸島の中で最も本土に近い場所にあるのが大島だ。同島には、竹芝客船ターミナルから貨客船や高速ジェット船で、あるいは伊豆諸島便を主に運航する都営の調布飛行場から空路でアクセスできる。火山が生み出す地形、強い海風、自然環境と結びついた暮らしを特徴とする大島には、島ならではの時間の流れがある。

 島の中央に三原山がそびえ、その周辺に広がる「裏砂漠」、通称「黒い砂漠」には噴火の痕跡がありありと残る。こうした地質条件は島の植生にも影響しており、その代表例が椿だ。常緑樹の一種である椿は、大島の湿潤気候と酸性土壌の環境でよく育ち、潮風に強いことから防風林という実用目的で重宝されてきた。同じく重要なこととして、人々は古くから椿を育てて椿油を作り、髪や肌の手入れ、調理、道具の保守、木材の保護などに利用してきた。椿は島の暮らしに深く根付いているのである。

 このような環境の中で、東京都立大島高等学校は特筆すべき存在だ。同校の椿園は約380品種、1,000本以上の椿を管理しており、「国際優秀つばき園」に認定されている。これは品種の多様性、持続的な管理、一般公開などの基準を満たした椿園に与えられる称号だ。教育機関が管理する椿園の認定は初めてとされ、手入れする生徒たちは誇りと責任をもって取り組んでいる。

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教室から椿園へ、体験を通した学び

 生徒たちが大島高校の農林科を選ぶ理由は、動植物への関心、体験型の学びへの情熱などさまざまだ。入学後、彼らを待つのは理論と実習を組み合わせたカリキュラムである。

 生徒たちは土壌の特性、気候、植物の品種について学び、作物や花の育て方だけでなく、なぜ環境に応じてアプローチを変える必要があるのかという点まで理解を深める。そして栽培方法の研究、各季節の植栽設計、精密機器を用いて慎重に植物を繁殖させる植物バイオテクノロジーといった専門分野にも学びを広げていく。

 ある生徒は「単に植物を育てているだけではありません。植物の特性や気候についても学んでいるので、自分たちで管理して栽培できるのです」と説明した。

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授業の一環で、お気に入りの椿を紹介する農林科の生徒

 学びの場を椿園へと移し、生徒たちは理論を実践する。例えば剪定(せんてい)で注意しなければならないのは時期である。剪定が早すぎると花芽を切り落としてしまい、花が咲かないからだ。また、高齢者を含めて来園者が楽しみやすい高さに花が咲くように、樹形の管理にも気を配る。散った花びらも計画的に扱って、土壌の養分にするためにあえて残したり、満開時には花びらのじゅうたんのような演出をしたりする。

 こうした判断が授業で学習したことを目に見える成果に変え、単なる観賞用ではなく機能的な学びの場としての椿園の役割を、いっそう確かなものにする。

椿園が世界に開かれる季節

 椿園がとりわけ活気づくのは、毎年2月から3月半ばにかけて開催される「伊豆大島椿まつり」の時期である。期間中は生徒たちが案内役を務め、来園者にお気に入りの品種を紹介し、椿園に関する質問にも答える。

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大島高校の椿園は「国際優秀つばき園」に認定されている

 多くの生徒にとって、海外からの来園者とまとまった会話をするのは初めての経験だ。生徒たちは英語での説明を練習し、想定にない質問への対応方法も身に付ける。

 ある生徒は「とても難しかったです。でもコミュニケーションについて、多くのことを学びました」と話した。

 別の生徒は、コミュニケーションは完璧でなくても良いと振り返り、「英語を話すのは緊張しましたが、学習の一部になりました。友達もできたので、またやってみたいです」と語った。

 生徒たちは案内役を通じて、知識、自信、ホスピタリティも技能と同じくらい大切だと学ぶ。

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2026年1月、満開を迎えた品種「笑顔紅(えがおくれない)」

椿を超えて

 椿が伊豆大島に訪問者を引きつける一方で、火山地形もまた、島の特徴を強力に形作る。三原山から、道路沿いの通称「バウムクーヘン」、すなわち度重なる噴火によって堆積した火山灰やスコリア(火山岩の一種)の層が、バウムクーヘンの輪のように見える地層断面に至るまで、島の風景には地質学的な歴史がわかりやすく表れている。付近に広がる黒い「裏砂漠」は、人々の暮らしが今もなお火山活動と密接に結びついていることを印象付ける。

 このような地形から、大島、特に西岸のサンセットパームラインは、サイクリストの人気も集めている。赤銅色に舗装された海沿いの道は眺望が良く、晴れた日には遠くに夕暮れの富士山が見える。内陸ルートほど厳しくはないものの、風の影響やなだらかな起伏があるため、刻々と変わるコンディションへの警戒が欠かせない。こうした体験は島のリズムに同調している感覚を強める。この感覚は、大島の住人や生徒たちの日々の暮らし方とも重なり合うものがある。

 土地との結びつきを語るなら、食や温泉も外せない。郷土料理には海と気候の影響が表れており、香りが良く穏やかな辛味の島唐辛子を効かせた料理はその一例である。長距離のサイクリングや散策の後は、地熱が生み出す温泉が優しく体を癒やしてくれる。これらの体験を通して、大島は活動、学び、日々の暮らしが自然環境と分かちがたく結びついた場所なのだと認識できる。このような考え方は、地域や自然に対する生徒たちの姿勢とも直接的に結びつく。

育てることは学ぶこと

 島内の活動を通して身に付けた地形やリズムに対する配慮は、椿園での作業にも生かされている。生徒たちは椿園について誇りを持って語るが、国際的な評価に責任が伴うことも理解している。

 ある生徒は「誰かに紹介する以上、答えを知っていなければならないと感じます。だからこそ、もっと学びたいと思います」と述べた。

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農林科の伝統の一つである真っ赤な作業着

 別の生徒は、椿園のステータスは自分たちの学年だけのものではないとし、「私たちが守り、次に引き継がなければなりません」と話した。

 大島高校において、学びは土地と切り離せない。生徒たちは生きたコレクションである椿園を責任を持って管理し、知見や解説を期待しながら来園する人々を出迎える。こうした彼らの活動は、地域の自然を教育に生かし、教育を文化交流につなげることにより、都心のイメージとは異なる東京の一面と、地域に根ざした学びの形を浮かび上がらせている。

東京都立大島高等学校(農林科)

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伊豆諸島の大島にある東京都立大島高等学校は、島の自然環境と密接に結びついた体験型の教育を提供する。同校が管理する椿園は、教育機関が運営する庭園としては数少ない「国際優秀つばき園」に認定されている。生徒たちは栽培、保全、来園者の案内に携わり、地域社会や島外からの訪問者との交流を通して実践的な経験を積んでいる。
取材・文/リサ・ワリン
写真/藤島亮
翻訳/友納仁子