イノベーションへの支援は、未来の東京への投資だ
参加しやすいスタートアップ・エコシステムを育む
アルムナイ・ベンチャーズは現在、有望なスタートアップへの投資で知られているが、ベンチャーキャピタルの分野で新機軸を打ち出したのも同社だった。機関投資家や超富裕層に重心を置くという業界の従来型の発想を避け、より幅広い投資家がベンチャーキャピタル投資に参加できるようにすることを目指して、2014年に設立された。社名であるAlumni(卒業生)が示す通り、当初はダートマス大学やノースウェスタン大学、ペンシルベニア大学といった米国の名門大学の卒業生から集めた資金を基に投資を始めた。
ダートマス大学とペンシルベニア大学の卒業生でもあるフィリップス氏は、この新しいアプローチに強い印象を受けたという。「当初は同じ大学の卒業生による投資を基盤にしていたため、互いをよく知る人が自然と多く関わることになりました。こうした背景が、当時のベンチャーキャピタルでは珍しいほどの信頼感と目的意識を生み出す一因になったと思います」
初期にアルムナイ・ベンチャーズが投資先として選んだスタートアップの多くは、投資家と同じ大学の卒業生が立ち上げた企業だった。フィリップス氏は「それによって投資は、資金面の判断にとどまらず、より個人的な意味合いも帯びるようになったと思います」と説明する。さらに「投資家は、母校の出身者、ときにはよく知る相手の取組を支えているのだと実感できました。同時に、将来の卒業生も、大胆に挑戦し、革新的であろうとする姿勢を促すことにもつながったのです」と語る。
フィリップス氏は2020年にアルムナイ・ベンチャーズに参画し、最高コンプライアンス責任者(CCO)、最高執行責任者(COO)、最高法務責任者(CLO)など、複数の要職を担ってきた。米国中心ではなくグローバルな投資戦略に重点を置くようになる中で、アジア太平洋地域の開拓を主導する立場にもなった。
「東京でスタートアップやベンチャーキャピタルをめぐり、どのような動きが起きているのかは、以前からかなり耳にしていました」と語る。「決め手になったのは、2025年のSusHi Tech Tokyoに参加したことです。東京都の担当者や大企業の関係者から、世界を変え得るアイデアを持つ個人のイノベーターまで、多様な人々の野心と熱意に強く心を動かされました。健全で活力あるスタートアップ・エコシステムを育むには、幅広い関係者の本気の取組が欠かせません。会場で、その取組が確かに進んでいると感じられたことは、大きな励みになりました」
東京へ長期的にコミットする
成長の可能性と継続的な発展に期待を寄せ、アルムナイ・ベンチャーズの経営陣は、同社にとってアジアで初となる拠点の所在地に東京を選び、2026年1月に開設した。フィリップス氏は最高法務責任者兼、最高執行責任者としての役割を継続しつつ、アジア太平洋地域統括責任者として新たな東京拠点を率いることになった。
この仕事は、米国にいながらノートパソコン1台でできるものではないと、着任当初から感じていたという。「時差のようなわかりやすい問題に加え、Zoomでの会議は対面の代わりにはならないことが明白になってきました。ベンチャーキャピタルは本質的に、人を中心に据えるビジネスです。複雑な課題の解決策を見つけるには、関係者が顔を合わせ、時間をかけて議論する必要があります」
日本で意義ある、長期にわたる存在感を築くには、日本を深く理解する人材が欠かせないとフィリップス氏は認識しているという。「このビジネスではネットワーキングが極めて重要です」と語る。「テーマ別の交流会や研修プログラムに加え、『Tokyo Happy Hours』と呼ばれるカジュアルなイベントもすでに開催されており、かなり好評です」
日本と米国の双方で学び、働いた経験を持つ人材は、東京での成功にとって特に重要になる。「両言語を流暢に話せることが、最も明確な利点です」とフィリップス氏は言う。「それ以上に、二つの社会や文化を理解することも大切です。違いを理解しながら、関心や課題が重なる領域を見いだしていくためです」
個人的にも、東京で暮らし働ける機会に胸が躍るという。「ここにいられることが本当に刺激的です。東京は活気に満ちた街で、特に、ここの文化に初めて触れた人にとっては、体験したいこと、発見したいことが尽きません。そしてもちろん、食も魅力です」
よりよい未来へ、いま再投資する
ベンチャーキャピタルを「人を中心に据えるビジネス」と表現すると意外に思う人もいるだろうと、フィリップス氏は認める。「私たちの仕事を説明するのは難しいことがあります」と、フィリップス氏は微笑む。「ベンチャーキャピタリストとしての役割は、いま世の中にあるアイデアの中から、明日の世界を変えるものを見つけ出すことです」
そこでは繊細な対話が欠かせない。「才能と情熱を持つ人たちが、人生で最も大切にしている夢について語っているのだということを、対話の最中に常に意識しながら向き合う必要があります。解決しようとしている課題と、最後までやり遂げるという覚悟を見極めます。その上で、夢を現実にするための必要なステップに一緒に取り組み始めるのです」
道のりは長くなることも多い。同社が探し求める投資先の中には、研究開発の初期段階にあるイノベーション、いわゆるディープテックと呼ばれる領域も少なくない。「どの技術が有益で、あるいは収益につながるかを予測しようとはしません。可能性を見ます」とフィリップス氏は説明する。「有望なスタートアップが見つかれば、資金調達の枠組みづくりを支援し、ときには、投資家候補にとってより魅力的に映るようアイデアを磨く助言も行います」
アルムナイ・ベンチャーズは、幅広い分野で事業を展開する1,400社を超える企業から成る多様なポートフォリオを有している。詳細は非公開だが、AI、ロボティクス、レジリエンス、エンターテインメントといった分野の企業が含まれる。これら4分野は、2026年4月27日から29日に東京ビッグサイトで開催されるSusHi Tech Tokyo 2026がフォーカスする主要テーマでもある。
フィリップス氏は、日本のスタートアップが、国内最大級の課題に向き合うための重要な新技術を生み出すと確信している。「例えば高齢化が進む日本では、住まい、移動、そして高齢者が可能な限り質の高い生活をするために必要なあらゆる面で、新たなイノベーションが求められます」と語る。「スタートアップが開発する技術は、同様の課題に直面する世界各国でも役立つことになると確信しています」
何より心を動かされるのは、イノベーターや起業家としてのキャリアを目指す若者が増えていることだ。「大学を卒業する頃、選択肢はかなり限られているように感じました。しかし米国でシリコンバレーが成長するにつれ、若者は、自分の手で何かを生み出しながら、成功と充実を得られる新たな道筋を思い描くようになったのです。これから先、アルムナイ・ベンチャーズとして東京で取り組むことが、若者が夢や志を追いかける扉を開く力になればと願っています」
マイケル・フィリップス
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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo
写真/藤島亮
翻訳/田崎桃子




