古いものが息を吹き返す──ジュエリーサショウ:記憶をつなぐ彫金の技

*本記事は、「Artisan - fashion tech news」(2025年10月9日掲載)からの転載記事です。

 東京・深川にある「ジュエリーサショウ」は、東京都指定の伝統工芸品「東京彫金」の技術を受け継ぐ工房だ。江戸の粋を体現する辰巳芸者の美意識が息づく街で、3代続く工房である。

 全国でも珍しいリメイクジュエリーや修理加工を扱っているジュエリーサショウには、各地から思い出の宝飾品を携えた人々が訪れる。伝統技術と最新技術を組み合わせた、異色の職人佐生真一さんに、その匠の技を聞く——。
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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

新しい技術にも挑戦する型破りな職人

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

─ジュエリーサショウの始まりをお聞かせください。

 ジュエリーサショウは大正元年、1912年創業です。江東区無形文化財の金工を受け継ぐ工房でした。

 江戸時代初期に、武士の刀の鞘などに縁起担ぎの金細工をあしらったことで金工の技術が広まりました。型に溶かした金属を流し込み成形する鋳金(ちゅうきん)、金槌や木槌で金属を叩いて加工する鍛金(たんきん)、鏨(たがね)を用いて成形したり、模様を彫ったりする彫金(ちょうきん)の、3つの技術から成り立っています。その中の彫金が、東京都指定の伝統工芸品に指定されています。

 もともと材木問屋だったのですが、やり手の商人だった曾祖父が大酒飲みで早くに亡くなってしまって。体の弱かった祖父が、材木屋を畳み、手に職をと金工の丁稚に行ったことが工房の始まりです。この界隈は、江戸の粋でいなせな庶民芸術の辰巳芸者の街。祖父も芸術性に優れた人だったので、芸者たちの簪や帯留めなどの装飾品を作っていました。

─3代目の佐生さんが修行先に選んだのは、金工ではなく、ワックスモデリングの技法だったとか。

 ワックスモデリングは、ワックス素材を削って原型を作り、鋳造(ちゅうぞう)で金属へと置き換えるアメリカからきた新しい技術。僕は、ワックスモデリングの動きのダイナミックさに惹かれて、第一人者に師事しました。

 ちょうどその頃、日本では空前のシルバーブーム。ブランドが競ってシルバーアクセサリーを展開していて、ベルボトムにクロムハーツをつけて歩くのが流行っていました。1年ほど修行をしたあと、アクセサリーの原型を作る原型師という仕事や、阿修羅像やMIKIMOTOのアクセサリー制作などで技術を磨き、30歳を過ぎてから家業を継ぐことになりました。

─佐生さんの扱っている技術は、伝統技術だけではないのですね。

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

 スタートのころから伝統工芸だけでなく、さまざまな技術を扱う変わった職人です。東京彫金の重鎮は鏨一本で作品を作りますが、僕は彫金だけではなく、鍛金や鋳金など、金工の技術をフルに使いますし、ワックスモデリングの技法も使っています。やっていることも使う技術も、伝統工芸が100%ではないので、自分の立ち位置の難しさを感じることもあります。

 東京都指定の伝統工芸品である東京彫金の組合に入っていますが、さまざまな技術を扱っていることが理由で、江東区指定の無形文化財「金工」の継承は認められませんでした。ある意味異端児的な扱いかもしれない。しかし、それらの技術が、リメイクジュエリーや修理加工へとつながっています。

お客様の想いを受け止めて作る、唯一無二のリメイクジュエリー

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

─ジュエリーサショウが手がけている、リメイクジュエリーについて教えてください。

 現在、国内でリメイクジュエリーを手がける工房はとても少ないです。高度経済成長期には宝石がよく売れて、市場が大きかったので修理を手がける工房もありましたが、景気が悪くなり高齢化で職人が減り、増えることはありません。修理するより買い直してもらう方が利益が大きいこともあり、なかなか広まらない。

 それでも、新しく買うより直したいお客様が確かにいます。他の工房に断られてしまったけれど「どうしても修理したい、リメイクしたい!」と藁にもすがる想いで全国からお客様がやってきます。コロナ禍で、ジュエリーも買い控える状況が続いたなか、新たに買うには高いけれど、ものを受け継いだ感覚を大事にしたい方が増えてきたように思います。

─どのようなエピソードを持ったお客様が来店されるのでしょうか?

 いろいろなお客様がいらっしゃいます。余命3ヶ月のお父さんが身につけていた銀のネームプレートを溶かして、子どものために銀の札に作り変えたいと来店したお客様も。お話を聞いて、溶かさずに生かしたいと思い、プレートを半分に割り、お子さんのお名前をそこに刻みました。お父さんの面影を残すことに意味があると思ったんです。

 フランスから来たカップルの観光客の方から、女性が代々受け継いだナポレオン金貨と、男性が浅草で買った日本の古銭の銀貨を加工して、指輪を制作する依頼もありました。次の日に男性だけがやってきて、「富士山の上でサプライズでプロポーズしたいので、婚約指輪も欲しい」と言われました。女性の指のサイズが分からないので、指輪の下の部分を切って、調整できるよう工夫しましたね。プロポーズ成功後、指輪を繋ぎ直しました。

─いろいろな想いを持った方がリメイクに訪れるんですね。

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

 加工受付のときにお話を聞くのですが、それぞれのものへの想いを一生懸命伝えてくれる。ものを大切にする人たちと話すことがとても楽しい。手間がかかっても、なんとか修理をしたいと、さまざまな最新技術を身につけてきました。

 たとえば、伝統技術の金工では細くした火で溶接する酸素バーナーを使うのですが、金属が固まってしまったり、全体を溶かさなくてはいけなくなってしまう。電気アークの熱を利用したアーク溶接、レーザーなどの最新技術を使うことで、美しく仕上げることができる。

 これは、歯医者にも似ていると思います。昔ながらの歯医者から最新技術を駆使した歯医者にかかりつけを変えたときに、目の前のモニターで口の中を見ることができて、治療の負担も少なく驚きました。お客様が持ってきたかけがえのないジュエリーを、いかに負担なく美しく直せるか。そのために伝統技法も使うし、最新技術も使う。一番大切にしているのは、お客様の願いに応えることです。

先代から魂を受け継いだ、ものに真摯に向き合う姿勢

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

─リメイクジュエリーの他にも、2025デフリンピック選手団に贈呈するアクセサリーを制作したり、東宝や宝塚など舞台や映画で使われる宝飾品、ANNA SUIの広告のための蝶のモチーフなど、幅広く活動されていますね。

 はい。デフリンピック選手団に贈呈するアクセサリーとして、「SV925ペンダント音珠(おんたま)ロジウムメッキ/K18メッキ」を制作しました。映画『リトル・マーメイド』でアリエルが声を失うシーンを見て、「声は魂でもある」と思ったことからインスピレーションを得て、「心からの声援を届けよう」というメッセージが込められています。

 舞台装飾は、ご褒美のような時間でしたね。普段は一人作業が多いので、舞台関係の多くの人々と夜中まで作業して、各分野のプロフェッショナルと本気の学芸会のようで楽しかったです。舞台宝飾は、公演期間中に何度も繰り返し身に着けるので、破損がないように耐久性を高めます。映画の宝飾は、大画面でも見栄えするよう高級感も大切です。

 ANNA SUIでは、アジア初の工房として、広告写真で使用する蝶のモチーフを宝石で作りました。担当の方がとにかく一生懸命な方で、この人の想いに応えたいと思ったんですよね。

─さまざまな分野で活躍されていますが、お仕事で大切にしていることはなんでしょうか?

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Photo: courtesy of Artisan - fashion tech news

 きちんと向き合うことです。それはどんな仕事でも変わらない。リメイクジュエリーは、目の前のお客様の話を聞いて、その人の想いを真剣に受け取ります。

 そのうえで、無垢な気持ちでものに向かう。他人のものに対して、思い入れは受け入れられますが、心は込められない。結婚指輪を納めるときに「職人が心を込めて作りました」の"心"は、いらないと思うんですよね。僕も若いときは愛着を持ちすぎていたけど、あるとき真剣に作っていたら、仕上げに近づくにつれて、ものが自分を離れてお客様へと向かっていく感覚を覚えました。そのときに、良いジュエリーを作ることができたと感じたんです。

 真摯な姿勢は、先代たちの背中から学んだものでもあります。伝統工芸は、技術だけを継承するのではない。魂みたいなものを含めて継承するのだと僕は思っています。職人として、お客様に向き合いながら、ものづくりを丁寧に続けていきたいと思います。

佐生 真一(さしょう しんいち)

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1978年生まれ。職人歴28年。ANNA SUI、映画、舞台で用いる王冠、宝飾も手がける。『江東ブランド』認定。『東京手仕事』認定。東京彫金所属。

Artisan - fashion tech news

Artisanは、「伝統こそ、革新。」をテーマに、日本の工芸や職人技の魅力を未来へとつなぐプロジェクト。受け継がれてきた美意識や技術の背景にある物語を丁寧に取材し、現代の感性で再解釈して発信している。テクノロジーやデザインとの融合を通じて、ものづくりの新たな可能性を国内外へ届けることを目指している。
文・撮影/荒田 詩乃