東京で過ごすひとり時間
一人でいることが自然に感じられる都市
多くの外国人観光客は、初めて目にする東京の過密さに圧倒されるかもしれない。しかし、そのスケールの大きさゆえに、思いがけない利点もある。匿名性だ。1,400万人を超える人々が暮らす都市では、一人で食事をしていても、一人で歩いていても、あるいは一人でホテルにチェックインしても、ほとんど注目されることはない。「これだけ大きな都市では、なぜあの人は一人でいるのだろうと疑問に思う人なんていません」と、まろ氏は話す。「だから、自分のための時間を過ごすことがとても簡単なのです」
メディアプラットフォーム「おひとりさま。」(文字通り「一人」を意味する語だが、あえて一人で過ごすことを選ぶというニュアンスがある)を創設し編集を担うまろ氏は、長年ホテルや都市空間でのひとり時間の過ごし方を探究してきた。彼女は、宿泊施設を単に観光名所を巡る途中で滞在するための場所と捉えるのではなく、それ自体が体験の一部だと考えている。「誰かと一緒に泊まると、その相手に意識が向くことが多くなります。一方で、一人で泊まる際には、ホテルと向き合うことになります」と彼女は語る。
こうした視点は、徐々に育まれてきたものである。学生時代、修学旅行の最中にほんのわずかな間だけ仲間から離れたとき、たとえ短い時間であっても、一人で過ごすことがいかに大切かを実感したという。その後、成人して働くようになると、喫茶店でこのようなリセットの時間を過ごすようになった。「良質な喫茶店とは、単にコーヒーが美味しいだけではありません」と彼女は言う。「リラックスできる快適な空間が整っていることが重要です」
やがて彼女は、ホテルをこの考え方の延長線上にあるものとして捉えるようになった。「喫茶店だと、長居してもせいぜい1、2時間です。でもホテルなら15時間とか20時間を過ごすことができます。その時間を自分の好きなように使えるのです」
多様性に富んだデザインやサービスがあふれ、地域ごとの個性が豊かな東京では、そうした時間のあり方もさまざまだ。
二つのホテル体験が映し出す、二つの東京
東京の多様な魅力を伝えるため、まろ氏は、一人で過ごす夜について、対照的な二つの例を紹介してくれた。それぞれが、この都市の異なる側面を映し出している。一つ目は、東京の外交や文化の歴史と長く関わってきた、帝国ホテル 東京で過ごす夜である。ここでは、彼女は帝国ホテルに関する本を持ち込み、ホテルの建築物に囲まれながら読んだ。「一人だと、とても集中できます。ホテルがどのように建てられたのか、どのような人々が宿泊したのかに思いを巡らせ、自分なりの解釈をすることができます」
二つ目は全くトーンが異なる。東急歌舞伎町タワーの中にある Hotel Groove Shinjuku, A Park Royal Hotelの夜は、活気と光に満ちている。ビル内の映画館でレイトショーを見た後、ネオンが輝く通りを見下ろすホテルのバーで一杯。「カップルでロマンチックな夜のお出かけも素敵です。でも、それを一人で楽しむと解放感があります」
この体験の魅力は、派手さよりもむしろ自由さにあった。次にやることをその場の気分で決め、誰かと相談することなく気ままに過ごし、東京のナイトライフを一人で楽しむのだ。
一方は内省的で、もう一方は活気に満ちた、この2種類の宿泊体験は、東京という都市全体を映し出している。東京には、歴史ある施設や現代的な高層ビル、川沿いの街並み、繁華街、緑地が互いに近い距離の中に点在している。「何が心地よいかは、その時の気分によって変わります」と彼女は言う。「静けさを求めるときもあれば、一人でいながら、周りにざわめきがほしいときもあります」
地域の個性と宿泊の価値
ある場所に宿泊すると、その街の体験の仕方が変わる。日本橋浜町では、昔ながらの街並みが、新しくできた個人経営のカフェや小さな商店と共存している。近くを流れる隅田川沿いの小道は近隣の商業地区とは趣が異なり、早朝や夕方の散歩に最適だ。「浜町のような場所では、東京の今と昔を同時に感じることができます」と彼女は話す。「ぶらぶらと歩いてパン屋さんを見つけたり、小さなお店に立ち寄ったりしてからホテルに戻るのもいいですね」
浅草は、浅草寺を中心に日中の観光スポットとして訪れる人が多いが、宿泊してみると見方が一変する。ツアー客が去った後の早朝や夜遅くは、落ち着いた雰囲気だ。リッチモンドホテルプレミア浅草は、アクセスの良さと東京スカイツリーが見える眺望を兼ね備え、多くの人でにぎわう時間帯とは異なる街の魅力を体験できる。「宿泊すると、その場所の朝と夜を楽しむことができます」とまろ氏は話す。「すると、その地域の見え方が変わります。観光地としてではなく、人々が実際に暮らしている場所として理解できるようになるのです。しかも一人旅なら、その場所に溶け込み、そこの一員になったような気分を味わうのも、ずっと簡単です」
料金とアクセス、変化するおひとりさまの常識
2025年、日本には過去最高の4,270万人の外国人観光客が訪れ、ホテルの稼働率の高止まりや客室料金の変動につながった。東京のホテル市場の動向は、こうした需要の高まりを反映しているが、柔軟に動くことで状況が変わることも多い。「多くの人は旅行直前に予約をしようとして、東京は高すぎると思うのです」と彼女は話す。「けれども、1日か2日予定を変えるだけで、料金は全く違ってきます」。平日の宿泊、とりわけ日曜や月曜の夜は、利用客の多い週末やお花見シーズンにくらべて割安であることが多い。
おひとりさまに優しい選択肢も増えたという。従来、小規模な宿泊施設の中には、二人以上での予約を好む施設があった。宿泊代金が1室単位で設定されているためだ。しかし近年、とりわけコロナ禍以降は、おひとりさまという新しいトレンドを受け入れる施設が増加している。「今では、一人用のプランが増えています」とまろ氏は指摘する。特に都市部の大型ホテルでその傾向が顕著だという。
ハードルを下げる
まろ氏は、一人で予約することを躊躇する旅行者に対しては、初めから思い切ったことをするのではなく、徐々に踏み出すようアドバイスしている。「ハードルが高いと感じるなら、いきなり宿泊しようとしないことです」と彼女は言う。ホテルのカフェを利用したり、日帰りプランを試したり、馴染みのあるホテルを一人で訪れたりすることで、ためらいがなくなってくる。
とりわけ、彼女は焦点を絞ることを勧めている。「テーマを一つ選びましょう。眠ることでも、読書でもいいのです。何でもかんでもやる必要はありません」
スケールの大きさとスピードが特徴の大都市にあって、一つの目的に沿って時間を過ごしてみると、東京のもう一つの側面が浮き彫りになる。そこでは、一人でいることに何の説明もいらない。そして、ホテルの一室は単に泊まる場所ではなく、街や自分の時間に向き合うために意識的に選んだ拠点となる。
「おひとりさま。」をはじめとするクリエイティブな活動を通じ、まろ氏はひとり時間の豊かさを紹介している Movie: 東京都
まろ
写真/穐吉洋子
翻訳/喜多 知子





