トリノ市長、都市間対話で共通課題に挑む

 イタリア・トリノ市のステファノ・ロ・ルッソ市長は、東京都が主催するSusHi Tech Tokyo 2026 G-NETS首長級会議に参加するため、今年4月に来日した。ロ・ルッソ市長はインタビューに応じ、都市間の国境を超えたネットワーク構築と、対面での対話を通じて共通課題に取り組む重要性を強調した。
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SusHi Tech Tokyo 2026 G-NETS首長級会議に参加するトリノ市のステファノ・ロ・ルッソ市長

共通する都市課題

 トリノ市はイタリア北西部ピエモンテ州の州都。イタリア統一後、最初の首都となった歴史を持つ。自動車工業を中心に発展し、現在ではイタリアを代表する商工業都市だ。また、フランス国境に近く、交通の要衝としても知られる。

  2021年に就任して以降、ロ・ルッソ市長はトリノ市の活性化に向けて精力的に取り組んでいる。2022年には欧州最大級の音楽祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」を誘致・開催し、新型コロナウイルス感染症流行後の観光回復を後押しした。また、テクノロジーと社会福祉を融合させたスマートシティへの取組が評価され、トリノ市は「2024-25年 欧州イノベーション首都」に選出されている。 

 ロ・ルッソ市長は現在、OECDチャンピオン・メイヤーズ包括的成長イニシアティブの副議長を務めている。同イニシアティブ議長の小池百合子東京都知事と共に、不平等の是正や包摂的な経済成長を促進する政策・施策について都市間での議論をリードする。

 ロ・ルッソ市長が指摘する都市の主要課題の一つが、人口動態の変化だ。若い世代にとって魅力的な都市をつくるためには、雇用機会だけでなく、交流や学びの場を提供することが重要である一方、高齢者を排除しない包摂的な社会の構築も不可欠だと強調する。「この両立こそが非常に重要な価値」だと述べた。

 小池都知事との緊密な連携のもと、ロ・ルッソ市長はOECDの枠組みで人口問題に取り組む意欲を示す。「彼女の非常に強いリーダーシップに大きな期待を寄せています。東京では多くの分野で社会サービスを変革してきました」と語り、その実績を評価した。

 課題への対応はOECDの地域ごとに異なるとしつつも、「私たちが共有している基本的な枠組みには共通点があります」と強調した。

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SusHi Tech Tokyo 2026 G-NETS首長級会議に参加するロ・ルッソ市長(右)Photo: courtesy of 東京都

地球温暖化対策

 ロ・ルッソ市長が挙げるもう一つの主要課題が地球温暖化だ。地質学の教授としての経歴を持つ同市長は、欧州連合(EU)が主導して2030年までの都市脱炭素化を目指す「気候中立・スマートシティ100」プロジェクトに参画している。トリノ市では、地熱エネルギーの活用や、公営住宅を含む建築物のエネルギー効率向上に取り組んでいる。

 気候変動や自然災害は地球規模の課題である一方、解決への第一歩は都市レベルの取組にあると市長は指摘する。「都市は機会の場であるだけでなく、気候変動に立ち向かうために国際的にも強い政治的役割を果たすことができます」と主張した。

 トリノ市にとっても気候対策は最優先事項の一つ。市長によれば、交通や建設分野などにおけるCO2排出削減を目的とした、10年規模のマスタープランを策定しているという。

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トリノ市の街並み Photo: Adobe Stock

市民と国家をつなぐ架け橋

 ロ・ルッソ市長は、都市が市民に「最も近い存在」だと位置付け、社会課題への対応における都市の役割の重要性を強調する。「州や国レベルよりも、迅速かつ効果的な解決策を提供できる」とし、「市民のニーズと解決策の間には大きなギャップがあり、市民が最初に問題解決を求める政治的存在が市長なのです」と語った。

 多くの解決策は国家レベルにある一方で、市民が中央政府と直接対話するのは容易ではない。そのため、市民は市長に答えを求めることが多く、地方自治体は対話を通じて市民と国家政治をつなぐ役割を果たしているという。

国際都市ネットワークの役割

 その上で、東京都が立ち上げたG-NETS(Global City Network for Sustainability)のような国際都市ネットワークを通じて、共通の課題を議論し解決に導く重要性に言及した。

 「G-NETSは、本当に多くの理由で重要です。同じ課題が世界各地でどのように解決されているのかを知る必要があります」と述べた。

 オンライン交流に加え、SusHi Tech Tokyo 2026 G-NETS首長級会議のような場での対面での議論は、より具体的な解決策の共有を可能にすると語る。

 「成功事例だけでなく、うまくいかなかった経験も共有したい。他都市のベストプラクティスや失敗から学ぶことが、次に進むための鍵です」

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G-NETS首長級会議に参加するロ・ルッソ市長(右)Photo: courtesy of 東京都

トリノ市と東京都の関係強化に向けて

 インタビューの中で、ロ・ルッソ市長はトリノ市と東京都の協力関係をさらに深めたいとの意向を示した。「文化やイノベーション、環境持続性、社会的課題など、トリノと東京の間には多くの連携の可能性があります」と語った。

 同時に、東京から学びたい点も多いと述べる。「公共サービスの運営において、東京は私たちにとって一つのモデルです」

 今回の訪日は私的旅行を含めて3度目となる。東京への個人的な親近感も語り、「正直に言って、東京は世界で最も好きな都市の一つです。人々はとても礼儀正しく、都市には歴史と現代性が共存している。多くの都市を訪れてきましたが、東京に匹敵する場所はありません」と述べた。

東京2020大会のレガシーから学ぶ

 トリノ市は現在、北イタリアのミラノ、ジェノバと連携し、夏季オリンピック招致を目指している。小池都知事との会談では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会について直接話を聞き、招致活動にとって有益な知見を得たという。

 特に印象的だったのは、パラリンピックの開催が、スポーツやインクルージョンに対する都民の意識を変えた点である。「東京2020大会のレガシーについて、さらに学びたい。できるだけ早く、また東京に戻ってきたい」と語った。

ステファノ・ロ・ルッソ市長

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2006年に政界入りし、副市長を経て2021年に市長に就任。OECDチャンピオン・メイヤーズ包括的成長イニシアティブの副議長、イタリア全国市町村協会(ANCI)副会長、OECD 地域開発グローバルフォーラム諮問委員を務める。トリノ工科大学の工学教授でもあり、テアトロ・レージョ財団など主要文化機関の運営にも携わる。1975年、トリノ生まれ。

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2022年、東京都は世界の共通課題の解決に向けて、世界の主要都市の首長、実務責任者、実務担当者がそれぞれ異なるレベルの視点で多角的に議論をする場として国際都市ネットワーク、Global City Network for Sustainability(G-NETS)を立ち上げました。このネットワークを通じて、都市間の積極的な知見・技術の交流を深め、多彩なアプローチにより世界共通の課題を解決していくことでサステナブルな未来を切り拓いていきます。G-NETSでは「都市の気候・災害レジリエンス」と「住民のウェルビーイング」の2点を主要テーマとしています。
https://www.g-nets.metro.tokyo.lg.jp/ja/

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文・翻訳/伊藤真悟
写真/穐吉洋子