東京の現代建築:移りゆく街で思いがけない発見を

 何世紀にもわたる伝統と、20世紀の劇的な変化の両方から影響を受けた東京の建築は、個人宅、劇場、教会など、どこを見ても退屈とは無縁である。観察眼と好奇心を持ってこの街の迷宮に踏み込めば、個性的なデザインを楽しみながら、建築を通して公共空間と私的空間が融合する東京の魅力を味わえるだろう。
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国立代々木競技場第一体育館 写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター

表情豊かで楽しい街

 建築家でライターのナオミ・ポロック氏は、東京の建築物は「表情豊かで芸術性があふれ出している」という。

 東京の建物は、北米や欧州の多くの都市と比べて「統一感がない」と彼女は話す。「次に何が現れるか予想がつきません。たまに戸惑うこともありますが、たいてい楽しいものです」

 米国で生まれ育ったポロック氏は、ハーバード大学で建築学の修士号を取得し、ニューヨークで働いた後、夫と共に東京に移り住んだ。東京大学でも修士号を取得し、その傍らでライターとしてのキャリアも開始した。

 学生時代のポロック氏は、東京の建物が自分の目には「奇妙」に映る理由を知りたいと考えた。指導教官だった原広司氏から、日本の伝統建築の研究を通して現代建築を理解することを提案され、彼女は昔ながらの農家の建材を修士論文の主題に選んだ。研究の傍ら、日本でよく行われる新築の建物の見学会に積極的に足を運び、現代建築の知識も吸収した。

 それ以来ポロック氏は、日本の住宅建築、日本のデザイン、個々の建築家やその仕事の紹介などをテーマに10冊の書籍を出版した。そして11冊目となる『Vanishing Japan: Modern Architecture, Gone But Not Forgotten』の出版を2026年9月に控えており、2027年には日本語版も出版される予定である。同書では、すでに解体されてしまったものを中心に、記憶にとどめておくべき戦後の重要な建築作品を紹介している。

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ナオミ・ポロック氏の最新刊『Vanishing Japan: Modern Architecture, Gone But Not Forgotten』は、解体された建築物への賛歌である

東京の建築を理解するヒント

 東京の建築の成り立ちに影響を与えてきた規制、伝統、経済的要素を理解すると、その良さをさらに深く味わうことができる。

 例えば東京に傾斜屋根が多いのは、路面の一定の日当たりを保証する規制があるためで、ポロック氏は「本当に素晴らしい」と絶賛する。

 同様に、欧米のタウンハウスのような連棟とは違って建物の間に狭い隙間があるのは、火災の延焼を防ぎ、救助活動の通路を確保するために義務付けられているからだ。「視覚的な面で、これが街に不規則なリズムを生み出しています」と彼女は指摘する。

 ポロック氏によれば、「家の範囲が広い」ことも日本の都市住宅建築の重要な特徴だ。この現象は、住人が家の前の道路を掃くとか、近所の収集場所にごみを整然と捨てるといった、日常のささやかな行動に見て取れる。東京では空間が貴重なため、「公共の公園はいわば皆の裏庭です。どこかの段階で、都市と住宅建築とを完全に分けることはできなくなるのだと思います」と彼女は語る。

 引き戸や縁側といった造りがよく見られる昔ながらの民家にも、内と外の空間のつながりという要素が確認できるという。

 床の使い方にも伝統と現代のつながりがある。ポロック氏は、家に上がる時に靴を脱ぐ日本の習慣に触れながら、「欧米では、床は家具や箱などの物を置く場所、歩いて通る場所という感覚です。それに対し日本では、活動のための場という感じがあります」と話した。

 伝統を受け継ぎながらも、そこには常に変化と成長の余地がある。日本では建て替えがある程度一般的だが、ポロック氏は、古い建物の用途変更、改修、修復がもっと広がることを望んでいる。

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2023年刊行の『The Japanese House Since 1945』など、ポロック氏は現在までに10冊の書籍を出版している


 一般的な住宅は、さまざまな経済的・社会的要因から30年余りでの建て替えを想定していることが少なくなく、建築家が設計した住宅でさえ、中古物件としての価値は限定的になりやすい。「価値があるのは建物ではなく土地です。実際のところ、完成したその日から建物の価値は下がり始めます」と彼女は説明する。

 そして「別の見方をすれば、建物を取り壊して建て替えることで、ある種の活力が生まれます。東京では常に新しい物事が進行しており、それが人々を引きつけるのだと思います」と付け加えた。


「迷子」になる

 ポロック氏には、東京の建築巡りに興味を持つ人々に勧めたい、お気に入りの場所がいくつかあるという。

 現代建築で挙げたのは、狭小地に五つの部屋を積み重ねた東孝光氏の「塔の家」、伝統的な宝物殿を思わせるデザインで1960年代に建設され、現在は再整備中である国立劇場、代官山のヒルサイドテラス、そして丹下健三氏が手掛けた国立代々木競技場と東京カテドラル聖マリア大聖堂で、ポロック氏はこの大聖堂を「銀色の帆」のようだと表現する。

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代官山のヒルサイドテラス Photo: courtesy of 槇総合計画事務所

 より伝統的な建築で挙げたのは、旧朝倉家住宅、江戸東京たてもの園に復元された前川國男邸、東京からほど近い川崎市の日本民家園である。

 ポロック氏は、東京の建物、特に個人宅や住宅街を探訪する際には、配慮を忘れないようにと呼び掛ける。

 とはいえ、住宅街を避ける必要はまったくない。彼女が提案するのは、鉄道の駅をランダムに選び、そのエリアを歩き回って「迷子」になることだ。「皆さんに一番お勧めするのは、自分の足で街を探索することです。ゆっくり歩けば、すぐ手の届くところにあふれるほどの魅力が見つかります」とポロック氏は語る。

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前川國男邸は1942年に建築家が自ら手掛けた邸宅で、現在は江戸東京たてもの園で見学できる Photo: courtesy of 江戸東京たてもの園

ナオミ・ポロック

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米国出身の建築家で、米国建築家協会フェロー(FAIA)。日本のデザインに関する執筆活動を行う。彼女の執筆記事は、新建築社が発行する『Architecture and Urbanism (a+u)』や『住宅特集』、Dwell、Kinfolk、Wallpaper*、そして自身が寄稿編集者を務めるArchitectural Recordなど、日米両国の多数の媒体に掲載されている。また、『Modern Japanese House』、『Sou Fujimoto』、『Japanese Design Since 1945: A Complete Sourcebook』、『The Japanese House Since 1945』、『Vanishing Japan: Modern Architecture, Gone But Not Forgotten』(9月刊行予定)など多くの著書がある。
取材・文/アナリス・ガイズバート
写真提供/ナオミ・ポロック
翻訳/友納仁子