こだいらオープンガーデンが育む、緑と人の豊かな関係

 東京都の多摩地域に位置する小平市は、玉川上水など水と緑が豊かな地に住宅街が広がる。この街で20年続く、こだいらオープンガーデンは、個人が所有する庭などを公開する活動だ。庭主が設定した開放日には、来訪者が四季折々の草花が咲く庭を自由に散策できる。活動を推進するこだいら観光まちづくり協会で広報を担当する、学芸員の大久保裕美氏と3人の庭主に話を聞いた。
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柴山ガーデンの庭主、柴山たづ子氏

庭の緑を地域資源として有効活用

 「小平市では、玉川上水や狭山・境緑道などをつないで市内をぐるりと一周できる、約21キロメートルの起伏の少ない水と緑の散歩道を小平グリーンロードと名付け、地域資源の魅力を広く発信してきました。こだいらオープンガーデンもこうした取組の一つです。庭を介して住民たちの交流が生まれ、最近は遠方からの問い合わせや来訪者も増えています」

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大久保裕美氏はこだいらオープンガーデン20周年のパネル展を企画

 オープンガーデンとして公開されているのは、丹精込めて手入れした庭を持つ個人住宅や教会、店舗などで2026年9月現在は23軒が登録。協会が公開するマップをもとに誰もが訪れることができる。

 「23のガーデンは、それぞれがとても個性的で、庭の大きさも育てている草花も異なります。庭主は1年を通じて花の世話をし、ガーデンは4~5月に花の季節を迎え、多くの人が庭を訪れます。庭主と来訪者、あるいは来訪者同士の間に草花を通じて自然と会話が生まれることもあるようです」

庭づくりから始まった地域の交流

 柴山ガーデンは、府中街道から専用の通路を歩いた先に広がる庭で、よく育った樹木に囲まれた芝生と花、随所に灯籠や石仏が配されている。

 「南アフリカのヨハネスブルクなど海外に20年近く滞在し2006年に帰国しました。そこで庭を一から手入れし直しました」

 ヨハネスブルクでも自宅の庭をオープンガーデンとして公開していたことから、小平市でもすぐに始めたという柴山たづ子氏は、オープンガーデンが自身のコミュニティづくりにも役立ったと話す。

 「長く日本を離れていたので、庭を通じて、近所に少しずつ知り合いができたことがうれしかったです。私が音楽の仕事をしていた関係で、年に1回ほどコンサートを開催しています。室内で音楽を聴いた後、庭でお茶とお菓子をお出しします」

元小児科医が丹精込めて育てるバラ園

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バラをメインにした庭を公開する中山康子氏

 小児科医として長く自宅で診療を続けてきた中山康子氏は、医院を5年前に閉院し、今は庭づくりを通じて近隣の人々との交流を重ねながら、すっかりガーデナーとしての暮らしを楽しんでいる。

 「もとは患者さんの安らぎになればと庭の手入れをしていて、ブルーベリーなども植えていました。ところがそのうちバラの魅力に引き込まれ、気づけば夢中に。水やりや剪定、薬剤の散布など仕事がたくさんあって、一日があっという間に過ぎていきます。散歩中の方から話しかけられることも増えました。ずっと忙しく働いていたので、庭に立つようになって、ようやく小平市の住民になったような気がしています」

 家屋の壁はバラの花が映えるようにと黄色に塗り替えた。レンガ敷きのアプローチでは、満開の時期にウェディングフォトを撮るカップルもいたという。

 「診察中にふと窓から外を見たら、ウェディングドレスを着たカップルが写真を撮っていました。とてもすてきなカップルでした。一生の記念になる場所として選んでもらって光栄です」

異国の記憶と重なるナチュラルガーデン

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森田オープンガーデンの森田光江氏

 玉川上水の緑道沿いにある森田オープンガーデンは、約1,000坪の広さを誇る庭だ。

 「子どもや孫たちの手を借りながら種まきをして育てています。コスモスなどこぼれ種から育つ花も多いです。先日テレビの撮影で訪れたイギリス人の男性は、イギリスの田舎を思い出します、と喜んでいました。来訪者の方には、手入れの方法などたくさんのことを教わりました。近隣の方の経験談は、気候や土壌が似た状況で栽培していますから、参考になることがたくさんあります」

 数年前、体調を崩した際には、来訪者が森田氏の様子がおかしいことに気づき、救急車を呼んでくれたこともあった。

 「ここでいつも人に囲まれているから、緊急事態にも素早く対処することができました。今も来訪者の方との会話から元気をもらっています」

 こだいらオープンガーデンを通じた地域のゆるやかなコミュニティは、花や緑への関心を深めるだけではなく、地域に安心と信頼のネットワークを広げている。高層ビルが立ち並ぶ東京駅から電車で1時間あまり。大都市の一角で、市民が自らの手で育て、地域に分かち合う緑がある。個人の庭が街に開かれることで、点在していた緑は孤立せず、庭主と訪れる人々が支え合いながら街全体の緑として受け継がれていく。

 庭の緑が人のつながりによって支えられ、育まれるこの光景は、市民参加による新たな緑のインフラが、東京の暮らしに根付きつつあることを教えてくれる。

大久保裕美

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一般社団法人こだいら観光まちづくり協会・学芸員。出版社勤務、文筆業を経て2022年4月より現職。オープンガーデン事業のほか「小平フォト五七五コンテスト」企画運営、冊子『小平のうどん文化ガイド』制作などを担当。小平市の地域資源の発信に取り組んでいる。

こだいらオープンガーデン

https://kodaira-tourism.com/greenroad/opengarden/

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取材・文/今泉愛子
写真/藤島亮