コロナ禍で消費者意識はどう変化したのか 2つの調査から読み解く

出典元: サステナブル・ブランド ジャパン 2021年2月3日記事
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 2020年は、近年、例を見ないような年だった。数えきれない消費者調査研究に新たな影響や情報をもたらした。そうした調査からわかったことは、コロナ危機において、人々がどんなことに最も関心を抱いたかということだ。人々のサステナビリティへの関心はどんなものだっただろうか。
コロナ禍で消費者意識はどう変化したのか 2つの調査から読み解く

 今回、2020年の27カ国2万7000人の意識調査「ヘルシー& サステナブル・リビング・スタディ(健康的でサステナブルな暮らしに関する調査)」を行った調査・コンサルタント会社グローブ・スキャンのクリス・クールターCEO、そして、社会文化的トレンドを追跡し、消費者のサステナブルな行動に対する意識を継続的に調査する米サステナブル・ブランドのBrands for Goodイニシアティブの責任者エチエヌ・ホワイト氏に話を聞いた。

――世界が今、置かれている状況、そして気候変動・生物多様性の喪失といった大きな課題に対する世界の進捗状況について、どのように評価されますか。

クールター:われわれがサステナビリティ部門の責任者を対象に行った簡単な調査によると、予算の制限や不確実性から、サステナビリティ機能へのリソースの投資が危ぶまれるかもしれないという印象をそれなりに持っています。しかし、投資家やESGムーブメントから市民社会にいたるまで、そのほかすべての活発な動きを見せる分野は、大きく動き出す準備ができています。SDGs達成に向けた「行動の10年」は「活動(積極的行動)10年」と重なり合っていくのではないでしょうか。コロナに決着がつけば、私たちが進むべき方向を市民社会が強烈に示していくでしょう。

 サステナビリティの課題は、過去数十年間でなかったほどのペースで加速しています。今までになかったレベルで変化を起こす人たちが、互いに阻害し合うのではなく、時計の歯車のように、むしろ補強し合う形で異なる力が重なり合い、協働しています。これまで歯車につまっていた砂は取り除かれたのです。

ホワイト:それについては、私も基本的に同意します。ですが、消費者たちがいま恐怖心を抱いているということについて触れる必要があると思います。米サステナブル・ブランドが8月に行なった調査では、米国の消費者の56%が「自分の死を恐れている」と回答し、73%が「必要な用事のために家を離れるのが怖い」と回答しました。さらに、59%が「職を失うことを恐れている」と答えています。

 回答者に「持続可能な生活をすることがより難しくなったか、簡単になったか」を尋ねたところ、59%が「コロナによって持続可能な選択がより難しくなった」と答え、55%が「経済情勢によってサステナブルな生活様式を維持するのがより困難になった」と答えています。

 ですから、私たちはこの瞬間も、本当に深刻な課題と無縁では決してないのです。

――職業や家族の扶養に不安があるときは、サステナビリティやライフスタイルの選択の優先順位が下がりうるかもしれないということですね。2008年の経済危機の時にも似たような状況に陥り、サステナビリティの取り組みは大きな打撃を受けました。あの時と今との一番の違いは何なのでしょうか。

ホワイト:新型コロナウイルスは、元からあった欠陥の多くを拡大、増幅させました。しかし、人々を教育する役割も果たしているでしょう。私たちの調査では、米国の75%の消費者が「新型コロナウイルスによって、世界が直面している問題への意識が高まった」と答えています。人種正義への関心も高まっています。57%の人が「人種間の平等を支持しない企業やブランドは支持しない」と答えたのです。

 約10年前、消費者たちはサステナビリティを地球環境に対する取り組みと定義していました。社会課題の解決に向けた取り組みは重要ではないと考えられていました。しかし、昨年の夏、調査の中で「社会的課題と環境課題、どちらに取り組むことがより重要ですか」という質問をしました。すると、71%の人が「どちらも同様に重要だ」と答え、76%の人が「2つの課題には相関関係がある」と答えました。一方の問題の解決をなくして、もう一つの問題は解決できないということです。消費者の大部分は、今起きていることが大きな変化の兆しであると十分に理解しています。これは、企業・ブランドにとっても信じられないほどのチャンスです。

クールター:個人がそれぞれ今の特異性を明確に表現するのは難しいでしょうが、直感的に理解しているのだと思います。人々の幅広い知恵に訴えかける、とても良い流れでしょう。

 人々の意識は、重要な部分においていい方向に変化しています。例えば、パリ協定の前年の2014年、米国では61%の人が気候変動を「非常に深刻」または「深刻」な問題であると考えていました。今その数字は81%まで上昇しています。6年間に20%も上がったのです。

 また2019年以降、未来の世代の地球環境を守るために、より少ない消費に抑える必要があると考える人も、2019年以降、8%も上昇しています。さらに「自分が環境に与える影響を大幅に減らしたい」という人も9%増えています。これはすごいことです。今までであれば、わずか12カ月でこの規模の変化は起こりません。

――企業・ブランドはこのことから何を学べるでしょうか。

クールター:興味深いことに、世界の46%の消費者は「自分にとって良いことがいつも環境のためにも良いとは限らない」と答えています。自分の欲しいもの、やりたいことが環境に悪影響を及ぼすと考える人々にとって、トレードオフの関係であるということは大きな問題です。ブランドにとってはそこを変える大きなチャンスであり、他社との違いを見せられる機会となります。

 自分の行動を変えるのは難しいと認識していると、それを実行することには全く興味を持てません。循環性のように、「かっこいいから」という理由で複雑なものを受け入れることも、しばしばあります。しかし消費者はそれを見て、「私には理解するのが難しすぎるから、しばらくは無視していよう」となってしまうのです。

ホワイト:その通りです。ブランドはそこを簡単にしていく必要があります。米小売ターゲットは他の小売同様に、オンラインで小規模のホリデーギフトショップを運営していました。そこには「彼へのギフト」「彼女へのギフト」「子どもへのギフト」といったカテゴリーのほかに、「黒人が経営するビジネスをサポートするギフト」という項目もあったのです。これはとてもシンプルで、購買行為によって実際に変化をもたらすことがわかります。消費者に説教するようなことはありません。

 成功しているブランド企業は、そこをとてもシンプルにしています。ほとんどの部分において、教育的な行動はもう済んでいることだと認識しています。消費者は、われわれが何をすべきかをよくわかっています。森林火災や市民が抗議するようなマーケティングに目を向ける必要はありません。問題を説明してもらう必要もありません。

 またクリエイターは、解決策に焦点を当てるのではなく、問題をドラマチックに見せる傾向があります。問題を誇張してしまうと、消費者に両面感情を抱かせたり、権利を放棄させたりして、消費者を遠ざけてしまうリスクがあります。課題の解決が果てしないものだと思わせてしまうと、誰も取り組もうとは思いません。

――パンデミックは企業に本当に深刻な影響を与えています。今後、あなた方の調査や考察を見て、「実はわれわれも消費者が変わってきていることはわかっている」と話す企業は増えることでしょう。しかし、世界が正常に戻った途端に、再びたくさんのものを売り始めなければならないというプレッシャーが生まれるとも考えられます。パンデミックの後、どんなことが起こりうると考えますか。

クールター:政治的に起きていることと、消費者の生活にポジティブな影響を与えはじめていることには興味深いつながりがあります。例えば、米国や欧州では緑地が回復していることや、バイデン新政権が始まろうとしていることなどが挙げられます。

 カギの一つは、フリーライダーという考え方です。われわれはよりサステナブルな生活を志向することはできます。しかし、頭のどこかでは「テスラに投資したとしても、まわりはハマーに乗っている人ばかりだし、私がどうしようと関係ない」と合理的に考えてしまいます。

 しかし、未来は間違いなくよりサステナブルになるということが消費者にも伝わっており、それは世界規模の現象となっています。とてもワクワクしています。

 私たちが6月に行った調査では、コロナ後の「より良い復興(ビルド・バック・ベター)」について質問をしました。マクロレベルでは、世界の55%の人が気候変動と格差の問題に取り組みつつ経済を再建することを望んでいるのに対し、経済を通常に戻したいと答えたのは45%でした。

 驚くのは、地域ごとの反応の違いです。南米や欧州では特に、大部分(6070)の人がより良い復興を期待しています。しかし東南アジアのほとんどの地域では、多くの人がコロナ前の状態に戻って欲しいと考えているのです。

――あなた方の実施した調査は低所得者層の家庭も含め、できる限り広範囲の人を調査対象としていると言えますか。

ホワイト:われわれが行った米国での調査は、綿密に計画を立てて実施しました。必要な情報と基準を手に入れるため、1000人の消費者を対象にするという方法で簡単に調査を実施することも可能でした。しかし、そうではなく、より大きな投資をし、米国で3700人以上の消費者に調査を行いました。なぜなら、本当に広範囲で深い理解ができるようにしたかったからです。

 これにより、きめ細かいやり方で情報を細かく分類することができ、それらの情報を信用するに足る母数も確保することができました。特に、人種ごとのデータに着目し、黒人、ラテン系、アジア人、白人の違いを見ることができました。また、政党やジェンダー、地域、年齢についても慎重に考慮しています。

クールター:拾い上げるのが難しい声に耳を傾けるべく、包括的なアプローチを採用しました。さらに広く見れば、サステナビリティを実践するコミュニティは、異なる意見や視点、背景を持つ人がどうサステナビリティを取り入れていくのかを理解するために、やるべきことが多くあります。今のところまさに白人中心の産業界となっていますからね。

――行動の変化に関しては、ミレニアル世代やZ世代が消費者の希望の光であるというのは言い過ぎではないでしょうか。

ホワイト:実は、米国の最年少の成人世代と年上の世代との間で、サステナビリティへの捉え方や行動にそこまで大きな差があるわけではありません。

 「いつも地球や人、資源を守る方法を選択して行動していますか」という質問に対して、1824歳の34%、2534歳の39%が「している」と答えました。しかし、最も多かったのは、3544歳でなんと45%の人が「している」と答えたのです。

 このように、調査によってサステナビリティに関する神話には取り除くべきものもあることが明らかになりました。若い世代だけが本当にサステナブルな行動をとっているという考えには、まったくその通りだと言い切れないのです。

クールター:われわれが2020年の終わりに発表した、若者の意識調査では、世界中の若い世代が社会や環境の問題に対し、より変革をもたらすブランドを求めていることがわかりました。若い人たちは、マーケットにより刺激的でダイナミックなものを求めています。

――コミュニケーションにおいて、企業・ブランドは悲観的なものとポジティブなもののバランスをどう取っていけば良いでしょうか。

ホワイト
:私は世界的な広告代理店でキャリアをスタートさせたので、こうした変化を目の当たりにできることは本当に素晴らしいことだと思っています。 誰もが、われわれが直面している問題をよく認識しています。私たちの調査で判明した通り、人々は社会的な問題を解決していく必要があり、それが地球環境の課題と相互依存していることにも気づいています。ですから、クリエイターがいますべきことは、自分でもできると思えるような方法、身近に感じられる方法で、行動を喚起し、情報を伝えることです。企業ブランドがこれを実行できるようにサポートすることが、われわれが「Brands for Good」で取り組んでいる重要な分野の一つです。

――最後に、2021年に行われる新たな調査について伺いたいです。次の12カ月間でどんな予測を立てることができ、次の消費者調査になにを期待しますか。

クールター:われわれは、異なる企業やブランドと連携して、消費者調査を引き続き行っていきます。今年も、6月に「健康的でサステナブルな暮らしに関する調査」を世界規模で行います。30カ国の人々に調査に協力してもらう予定です。また、トレンドの追跡や、よりサステナブルな行動変容を可能にする方法を試行し、理解するためのモデル化も行っていきます。

ホワイト:サステナブル・ブランドは大規模な調査を毎年行っており、2021年も行う予定です。そして、四半期ごとに「Brands for Good」の動向をまとめます。そこでは、調査で得られた洞察の背景をより深く掘り下げます。さらに、企業やブランドが、消費者の意思と実際の行動とのギャップを狭めるための取り組みの進捗を、特に「Brands for Good」のパートナーの状況を追跡しています。われわれは、企業・ブランドと消費者が共同して行える、9つの最も影響力のあるサステナブルな行動のリストを作成しました。これは来るべき気候危機を緩和し、包括的かつ回復力ある社会をつくっていくのに役立ちます。また企業が多くの消費者の行動をサステナブルな生活様式への変化に向かわせるようなツール、調査、ワークショップも揃えています。ますます多くの企業・ブランドが、サステナビリティは単なるビジネスの必須条件ではなく、競争上の優位性でもあると認識を深めたことで、「Brands for Good」の規模は昨年から倍増しました。2021年もまだまだ、ひょっとするともっと速いペースでより多くのブランドが参画するだろうと考えています。

文/TOM IDLE
翻訳/梅原洋陽