Z世代を「消費者」として見ない。気候危機時代に求められるマーケティング思考の転換

出典元: ハフポスト日本版 2021年5月10日記事
 世界が環境問題に直面し、SDGsを目指している今。企業はZ世代とどう向き合うべきか。
学生団体「Fridays For Future」主催のデモに参加する人々(2019年9月20日撮影)/NurPhoto via Getty Images

 「Z世代」と呼ばれる若者が注目を集めている。

 定義は様々だが、1990年代後半(あるいは2000年代)以降に生まれた世代を指すことが多く、今の10代と20代の若者だ。

 物心がついたときからインターネットがあり、スマホを使って買い物をして、友人と交流する。環境問題にも関心が高い。

 こうした新しい世代が出てくると、企業によるマーケティングの対象になる。自分たちの商品やサービスが、どうしたらZ世代に売れるのか。その前の「ゆとり世代」と何が違うのか。「インスタ映え」「間接消費」「TikTok」。Z世代に関わる様々なキーワードがメディアを賑わし、多くの分析が始まる。

 ところで、Z世代を従来型の「消費者」としてだけ捉えてしまうと見失うものがあるのではないか。一種の「Thought Leader(ソートリーダー、思想的リーダー)」として接した方が、より今の時代の空気をつかめるのではないか。なぜなら彼らは消費をしているのではなく、考えているからだ。

ソートリーダーとは?

 Thought Leader(ソートリーダー)は、単純に日本語に訳せば、ビジネス界などの「思想的リーダー」のことだ。専門知識だけではなく、企業や産業の進むべき方向を長期的なビジョンとともに指し示す企業経営者らのことを指す場合が多い。

 たとえばこんな使われ方をする。

 「ヒロは持続可能な責任にある投資におけるグローバルなソートリーダーだ」。

 これは、アメリカの電気自動車メーカーのテスラが20204月に出したコメントだ。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者(CIO)だった水野弘道氏(ニックネーム:ヒロ)を社外取締役に迎えたときのことだ。

 水野氏は、環境や社会のことを考える投資をおこなう「ESG投資」の専門家だ。空売りを行う投資家への外国株の貸し出しを止めるなど、賛否両論はあるものの、金融業界でよく知られている。「ソートリーダー」という言葉を使うことで、水野氏のことを、単なる企業幹部ではなく、「ビジョン」を持つキーパーソンとして位置づけているのだ。

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テスラ社のイーロン・マスク氏(2020年9月3日撮影)/picture alliance via Getty Images

 
 これまで、優れたビジネスリーダーや企業は、経済の力だけでなく、「思想」で消費を牽引してきた。やや広く言葉をとらえれば、ソートリーダーは「人」だけでなく、「企業」そのものである場合もある。

 たとえばウーバーは、時間が空いている人が時間と車をシェアすることで、誰もが自由に移動ができるという世界観をつくった。単なる「新しいタクシー会社」をつくったのではなく、多くの人の頭の中の固定観念をリセットさせた。

 スターバックスも同じだ。コーヒーを提供するだけでなく、ノートパソコン1台で仕事をしたり、アイデアを練ったりできる心地良い空間(「サードプレイス」)としてコーヒーショップを定義し直した。家でも職場でもない「第3の場所」の発見だ。

 「一生使い続ける」というイメージがあった家具を、ライフステージとともに何回も気軽に買い直すものだというイメージに転換したのはイケアだ。

 iPhoneの細かい機能よりも、ネット社会が持つ「自由」の素晴らしさを熱く訴え続けた故スティーブ・ジョブズもそれにあたる。商品の機能の先進性だけでなく、消費者の心に響く「思想」を提供してきた点に強みがある。

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故スティーブ・ジョブズ氏の肖像の前でスピーチをするアップル社のティム・クックCEO/Justin Sullivan via Getty Images

 
 ただ、思想も、商品と一緒で古びる。スターバックスは「第3の場所」としてではなく、環境問題のことを考えてストローを廃止した企業として現在は注目されている。

 ウーバーは労働問題が深刻になり、イケアやユニクロのように、服や家具を買い換え続ける消費には、環境問題の観点から、NOが突きつけられていくようになるはずだ。SDGsの観点からみてみると、多くの消費者の考えを引っ繰り返してきた企業でさえも、「旧世代」とすら思えてしまうのが現代社会だ。


速すぎる消費に「NO

 ところで、露木志奈さんという20歳のZ世代がいる。慶應大に入学したものの、休学届を出し、環境活動家として全国の学校で講演を始めている。シャンプーやお菓子に使われるパーム油を採取することで熱帯雨林を破壊していることや現在の気候危機について、数千人の生徒や児童に伝えている。彼女も「ソートリーダー」だ。

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講演中の露木さん/露木志奈さん提供

 
 露木さんと会うと、同じパーカーをよく着ていることに気づく。いつもマイボトルを持ち歩き、ペットボトルを買わない。スターバックスに行けば、マグカップを選ぶ。

 同じパーカーを何度も着るのは、服をたくさん買い換える今のファストファッション文化が、大量のゴミの発生に繋がっていると感じるからだ。素材は、再利用したペットボトルを原料としている。自宅の電気は再生エネルギーの電力会社に変えた。

 環境問題に関心がある世界中の若者が集まるインドネシアのグリーンスクールに通った。そこでは、天然素材をつかった口紅づくりに挑み、将来の商品化も考えている。牛のげっぷによって二酸化炭素濃度が増えるなど、畜産業が地球温暖化に影響している、ということを知ってから、肉を食べることもやめた。

 なぜこんなことをしているのか。それは地球が危機を迎えているからだ。

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住む場所が脅かされるホッキョクグマ/Arterra via Getty Images


地球では「何年かに1回の気象リスク」が毎年起きている

 「100年に1度の強い熱帯低気圧による降水の頻度が、2040年には日本などのの沿岸部で増える」 

 「インドは、2030年に猛暑によってGDP2.54.5%減少する」

 これは、世界的なコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのシンクタンク部門が出した報告書だ。気候が激しく変動し、人間生活に影響を与える未来が様々な研究者や科学者から予測されている。このまま人間が従来通りの経済活動をしていると、地球の環境がどんどん悪化する。

 その影響は、経済にも既に現れている。日本で台風21号や西日本豪雨があった2018年度、主な気象災害による損害保険会社の保険金支払額は15千億円を超え、過去最大になった。2019年度も1兆円を超え、「何年かに1回の気象リスク」が毎年起こるかのような時代に突入している。

 露木さんは買う人ではなく、考える人だ。服をあまり買い換えない本人に対して、「どうやったら服を売るか」と戦略を練るより、あるいは、「最近のZ世代は〜」と分析するより、まず「何を考えているのか」と聞く方が良い。いったんビジネスのことを脇に置いて、耳を傾けてみる。

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環境マーチに参加する露木さん/露木志奈さん提供


消費者は「買う」だけでなく「声をあげる」存在

 SNSが出てきて消費が変わったとよく言われるが、変化したのは、消費者が「買う」だけでなく、「声を上げる」ことが同時にできることだ。

 「このコスメは色合いが良い」

 「このコンビニスイーツはレストランのデザートより美味しい」

 「この服は広告で見るよりずっとかわいい」。

 様々な声がツイッターやインスタにあふれる。「レビュー欄」を見れば、星の数で、商品の品質がすぐ分かる。

 「声を上げる」ようになった消費者は、商品そのものの品質以外のことも口にするようになった。

 この企業は環境問題にコミットしているのか、していないのか。この企業はジェンダー平等について考えているか、考えていないのか。この企業の経営者は、noteを読む限り、こうやって会社を経営しているのではないか。

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スマホでSNSを見る10代(イメージ写真)/urbazon via Getty Images

 
 声を上げる、とは考えることだ。露木さんのようなZ世代に「モノを売る」ことを考えるよりも、彼女ら彼らが見えている「思想」、その「世界観」に触れる。やや言葉遊び的なことを言うと、モノを売るのではなく、「モノ言う」消費者としてみる。「ソートリーダー型の消費者」として接する。

 当然、日本は海外と事情が異なる点も注意が必要だ。

 たとえば、アメリカでもZ世代は「Gen Z」と呼ばれて注目を集めている。しかし、Z世代の人口が6100万人いて、消費のパイの大きな部分を占めているアメリカと違い、日本のZ世代は、およそ1800万人とされている(原田曜平「Z世代」光文社新書)。単純に「消費者としてのZ世代」論を日本で展開するのも注意が必要だろう。

 もちろん世代で区切ること自体が意味を持たないという意見もある。

 しかしながら、企業は消費者と「お金と商品」でつながっているのではなく、「思想」でつながっているとしたら。あるいは思想でつながれる、のだとしたら。まったく異なる関係を次世代と結べるのではないだろうか。

文/竹下隆一郎