スタジアムと「街」の最新事情|世界スポーツ見聞録

出典元: Tarzan Web 2020年5月22日記事
 錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。2019年末までアジアトップを務めた田丸尚稔氏が語る、スタジアム最新事情。
プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCの拠点。フィールドや座席が可動し、サッカーやアメリカンフットボールを開催する。

スポーツ目線での「街づくり」

 ここ数年、スポーツ界隈では、スタジアムあるいはアリーナの新設やリノベーションに関する議論が活発である。

 たとえばJリーグやBリーグなどプロチームの拠点として構想されている建物だけでも全国各地で枚挙にいとまがない。インターネットで「スタジアム構想」とでも検索をかければ、ずらずらと結果が出てくるので試してみてほしい。

 スポーツを産業として拡大していくには、必要不可欠なものとして、オリンピック・パラリンピック以降はさらに議論が広がっていくのは間違いないだろう。

 一方で、地域の活性化あるいは再生を目指すためのキーコンセプトとして「スポーツ」を掲げる都市も多く、その象徴的な存在としてのスタジアムやアリーナが構想されているという側面も多分にある。スポーツが主体となって場を求めるのに対し、場が主体となりコンテンツとしてスポーツを求めている、というものだ。

 いずれにしても、それらを語るうえで出てくるのは「街づくり」という視点だ。

 単純に建物を造るだけではなく、スポーツ以外の目的も含めて恒常的に人を集められるのかがとても大事...というわけで、マンションなどの住居エリアやショッピングモールなどの商業施設も併設することで総合的な街づくりをしようというアイデアが出てくる。

 なるほど...とは思うかもしれない。しかし、想像してみてほしい。そんな街が全国で1つ、2つできるのであればまだしも10も20もできたとして、規模の大小こそあれど画一的になってしまえば、それぞれの地で同じように愛され続けるのだろうか?

 そこで、少し海外のスタジアムやアリーナに目を向けてみることにする。

目指すは、自宅以上にくつろげる施設。

 2019年末にフォーブス誌がまとめた記事で、複合施設の最も成功した事例の一つとして挙げたのは、NBAのミルウォーキー・バックスが拠点とするファイサーヴ・フォーラムだ。

 500億円以上の費用をかけて2018年8月に完成、約1万8,000人を収容し、バックス以外にも、NCAAのディビジョン1に属するバスケ強豪校であるマーケット大学のゴールデン・イーグルスも拠点にしている。

 「ディア地区」と呼ばれるエリアにはアリーナのほかにエンターテインメント・ブロックとしてのショップやレストランに加えて、住居棟も並ぶ。ここまでなら一般的なスタジアム、アリーナ構想の街づくりの範疇になるけれど、さらには大学や医療機関、そしてトレーニングセンターも充実しているというのが特徴だ。

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NBAのミルウォーキー・バックスの拠点、ファイサーヴ・フォーラム。商業施設やオフィス、
住居など複合エリアの中にある。/USA TODAY Sports ロイター アフロ

 「自分のリビングルーム以上にくつろげるように、訪れるあなたが自分で一日をデザインしたり、長く滞在したくなる街にすることが私たちの戦略です」

 そうフォーブス誌で語ったのはバックスの球団社長、ピーター・フェイギンだ。「この地区が人々にとって本当に健康的であること。それを目指して施設を造っています」

 実際に、大学や医療機関と連携し、特に地域住民には健康トレーニングプログラムを提供しているのは注目したいところだ。

 "点"で存在する施設を健康というテーマを設定することで"線"で結び、その地区を"面"で展開する。そのような考え方は、日本の施設開発や街づくりにもとても大切になってくるだろう。

 テーマは健康でも、何でもいい。答えは、きっとそれぞれの地元にある"それぞれの強み"になるはずだ。

 スポーツ施設+商業施設+住居棟。ここまでなら画一的に留まるけれど、長く愛されるには地元の人々とアイデアが有機的につながる仕組みも重要で、"コミュニティ"作りもキーになるが、その話はまた別の回でまとめてみたい。

テクノロジーは、いかに寄与するか。

 スポーツ施設の発展で、もう一つ注目したいのはテクノロジーだ。

 2019年に改修が完了した英国ロンドンのトッテナム・ホットスパースタジアムは、可動式の屋根というレベルではなく、フィールドが変形する仕様で、人工芝と天然芝で使い分けたりもできる。

 もちろんプレミアリーグの試合は観られるし、NFLなど別競技の試合開催も見込んでいる。フィールドの高低も変えられるようで、観客の目線が異なることで観戦経験に変化をつける面白い仕掛けだ(テクノロジーではないが、スタジアム内にビールの醸造所があり、地元のベーカリーが入っているので"ならでは"の体験もできる)。

 テクノロジーは会場のオペレーションにも生かされている。米国ロサンゼルスにあるドジャースタジアムでは食事を効率的に出すためにAI技術ロボット工学を導入していたり、同じく米国のタンパベイにあるトロピカーナ・フィールドでは駐車場も含めてすべてキャッシュレス化を徹底することで入退場などをスピードアップさせ、観客のスタジアム体験の満足度を上げていたりする。

 今後さらに発展するテクノロジーと、地元ならではの、ある種の"アナログ"なアイデアはどう結びつくだろうか? 画一的な「ハコ」に留まらない、個性的なスタジアムやアリーナが日本全国に広がることを想像すると、とても楽しい。

田丸尚稔(たまる・なおとし)

 1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学にてスポーツマネジメント修士課程を修了し、IMGアカデミーのアジア地区代表を務めた。筑波大学スポーツウエルネス学位プログラム(博士課程)在籍。
文/田丸尚稔
初出『Tarzan』No.785・2020年4月9日発売