テクノロジーの力で世界に大きな勇気とエールを与えてほしい〜東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて〜 CNET Japan編集長 藤井涼

 時代を読み、読者に新たな知見を届ける編集者に「東京2020オリンピック・パラリンピック」が未来に残すレガシーを聞く。今回はテクノロジー&ビジネス情報メディア『CNET Japan』の藤井涼 編集長。
CNET Japan編集長 藤井涼
藤井 涼(ふじい・りょう)
 CNET Japan編集長。2010年に朝日インタラクティブに入社し、CNET Japan編集部でGAFAを始めとするテック企業の動向を取材。2017年にCNET Japan副編集長、2019年5月から編集長。2021年4月から経済産業省「U30関西起業家コミュニティ」のメディアメンター。

人もテクノロジーも大きな進化を遂げた

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──今回の東京2020オリンピック・パラリンピックはコロナ禍の中で開催されることになります。その点について、現在どのような思いを抱いていますか。

 さまざまな立場、さまざまな思いがあるでしょうから簡単に語ることはできませんが、日本人アスリートの方々は、自分が現役のタイミングで訪れた最初で最後の母国開催、という強い思いを抱いている方も多いはずです。そして結果を残すために、今日も血の滲むような努力を重ねているでしょう。

 そのすべてが無駄になってしまうことはあまりに酷なので、どうか安全・安心な大会であってほしいと願うばかりですが、開幕できたとしても感染予防のための様々な制限が待っています。そうした状況の中でも全力を尽くして競い合う姿は、多くの人々の心を打ち、コロナで沈む世界に勇気を届けてくれるのではないでしょうか。

──1920年に開催されたベルギー・アントワープ大会は、スペイン風邪の影響を大きく受けました。同じパンデミック下にある2021年と101年前とで、テクノロジーの観点から最も大きく変わった点は何だと思いますか。

 人もテクノロジーも100年という歳月の中で、大きな進化を遂げたことが最大の違いではないでしょうか。

 アントワープ大会の時には存在しなかったインターネットが、今では当たり前のように利用できます。だから当時できなかったことが、今ならできる。例えば会場のモニターと自宅をオンラインでつなげば、選手にリアルタイムでエールを送ることもできます。オンライン上で応援団を結成して、みんなで一緒に観戦することだってできます。感染拡大防止策を講じながら、テクノロジーを活用してさまざまな形で応援できるのは現代ならではだと思います。

 私自身、テクノロジーがもっと進展して人とスポーツの距離がさらに近くなればいいのに、という思いがあります。航空会社ANAホールディングスからスピンアウトし、遠隔操作できるコミュニケーションロボット「newme(ニューミー)」を開発しているavatarin代表取締役CEOの深堀昂氏がCNET Japanのオンラインセミナーで語ったところによると、全世界で飛行機に乗れる人は全体の1割以下しかいないそうです。つまり残り9割の人にとっての異国は宇宙のように遠い存在であり、海外開催の大会を身近に感じづらいのです。

 この距離感は、テクノロジーならきっと縮められます。例えば、VR(仮想現実)テクノロジーを活用すれば、360度のマルチアングルで、まるでアリーナ席にいるような臨場感とともにスポーツ観戦を楽しむことができるでしょう。先ほど紹介した遠隔操作ロボのnewmeを使って、数千キロ離れた場所にいながらスタジアム内を自由に動き回ることも技術的にはすでに可能です。もちろん、リアルならではの迫力や、会場でしか味わえない緊迫感もありますから、ライブパフォーマンスの体験すべてを感じることはできません。しかし、世界の9割の人たちをテクノロジーによってサポートできたら、それは素晴らしい取り組みだと思うのです。

世界に大きな勇気とエールを与える大会に

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──未来に東京2020オリンピック・パラリンピックを振り返る人々がどう評価したら、本大会は成功したと言えるでしょうか。

 「未来」と聞いて思い浮かんだのは、2020年に誕生した我が子の成長した姿です。昨今は新型コロナの影響で"コンタクトレス(非接触)"がITのトレンドワードになっており、無人店舗やキャッシュレス決済の普及が加速しています。そうした仕組みは今後も社会に浸透していくでしょうから、東京2020オリンピック・パラリンピックが開催される現代は、日本人の価値観が変化した節目であり、テクノロジーの節目とも呼べるはずです。

 大きくなった子どもが私に、自分が生まれた頃について聞く。そして私は「君が生まれたのはパンデミックの最中で、まだワクチンもなかった。世界は混乱していて、東京開催のオリンピックは翌年に延期された」と話す。

 「そのなかで、お父さんは家族の大切さに気づいたし、今では当たり前になったテクノロジーの普及が進んだ節目の大会にもなった。そして1年越しに開催されたオリンピックは会期中の感染拡大を防ぎ、パンデミックと戦う世界中の人々に大きな勇気とエールを与えた歴史に残る大会になった。以後、何度もオリンピックは開催されているけれど、一生忘れることができない」

 こう語ることができたら、それはきっと成功と呼べるのではないでしょうか。

──東京2020オリンピック・パラリンピック以後に、東京はどのような都市になっていてほしいと考えますか。

 コロナが流行して以後、様々な企業を取材している中でよく聞いたのが、「コロナによってデジタルシフトが5年から10年は一気に進んだ」という声です。ビジネスを取り巻く環境は、それほど激変したのです。私たち日本人は「仕事はオフィスでするもの」という感覚が強かったので、在宅勤務の普及によって、その"常識"が覆る日が来たことに驚いた人も多かったのではないでしょうか。実際、私が勤務する朝日インタラクティブも仕事はリモートワーク、打ち合わせもオンラインが原則です。「withコロナ」を意識し、オフィスを固定席とフリーアドレスに分けるようなリニューアルも実施しました。

 もちろん、コロナによって多くの悲しい出来事が起きました。それでも、人はビジネスや暮らしをより良い方向に変えていこうと努力しているのです。東京都には、古い制度や慣習の弊害を正し、苦難の中で生まれたポジティブな変化を後押しするような都市であってほしいと思います。

文/赤坂匡介 写真/鷲崎浩太朗