非日常の中で引き出される、子どもの可能性。
──アーティストと子どもたちの出会いの場を提供。
しかし、新型コロナウイルスの影響で2020年春には学校が休校に。子どもたちはもちろん、保護者や教師など周囲の大人たちも戸惑う状況の中、どのようにプロジェクトの再スタートを切ったのか。2020年9月までの約半年間の状況について、芸術家と子どもたち事務局長の中西麻友さんに聞きました。
毎回新しい発見がある
――PKTは2008年に活動を開始して以来、約8600人の子どもたちにアーティストとの出会いの場を提供してきました。中西さんがプロジェクトに携わる中で、感じていることは?
毎回、新しい発見があって、飽きることがありません。人前で発表するのが苦手だと思われていた子が堂々と舞台に立ったり、友人関係で困っていた子が新しい友達に出会って、ホールに通うことを楽しみにしてくれるようになったり。
小さな物語のような出来事が、いろんな現場で何かしら起こっていて、やりがいを感じます。最終日の公演では、それまでの過程を見ていることもあり、毎回心が動かされて感動します。
――保護者からは「1人でバスや電車に乗って通うことが、良い経験になった」「子どもがイキイキと舞台の上で表現する姿に感動した」「涙が出た」などの声が。10日間で子どもは変化できるんですね。
変化というか、子どもには元々たくさんの可能性があって、それがいつも出会わない大人と出会うことで引き出されるのだと思います。
もちろん、日頃から保護者や先生も引き出そうとしていますが、それとはちょっと違うアプローチで関わることで、違う一面が見えるようになる。アーティストが、"魔法使い"のように子どもたちを変身させるという訳ではありません。
アーティストも、この体験で自分の表現を広げることができたり、相乗効果で面白いものが作れるのだと思います。
――そのような子どもたちにとって貴重な場に、新型コロナウイルスの影響が......。
2、3月頃は進行中のワークショップが突然中止になり、子どもたちにお別れの挨拶もできないまま会えなくなるなど、日常が中断され、ただただ悩ましい日々でした。
夏になり再開された学校に行くと、校内の掲示物などから、人とのふれあいや声を出すことなど、たくさんの制約の中で子どもたちが過ごしていることを目の当たりにして、身体の感覚にもいろんな影響が出てくるのではないかと心配になりました。
プールも中止、クラスを越えて集まったり、学年集会みたいなこともやっていない。そんな状況下でリアルに開催していいのか不安もありましたが、劇場等のガイドラインを参照し、アーティストやスタッフとどうすれば安心してワークショップを開催できるのか検討を重ね、8月の狛江エコルマホールから再開することになりました。
知り合いが誰もいない中に飛び込む体験
――具体的に、昨年度までと異なる点は?
大きいホールなので参加者は30人定員でしたが、今回は3密を避けるため15人に。ワークショップ中のマスク着用や消毒はもちろん、長時間の集団活動によるリスク軽減のため、昼食をはさむ時間帯を無くしました。
スケジュールも、夏休み自体が短かったので10日間から8日間に短縮し、学校の新学期が24日から始まるということで、本番を22日に前倒ししました。
今回の参加は小学2年生から中学1年生まで。子どもたちにとっても、誰かと"リアルに集まる"のは久しぶりのことだったと思います。子どもたちが自然と交代で消毒液係を始めるなど、そこまでやらなくても大丈夫だよ、と思うくらい非常に協力的でしたね。
演出面では舞台上で椅子を使うなど立ち位置を明確にして、間隔を保つ空間の使い方を工夫しました。本番は40分間。マスクは外しますが声は出さず、踊りのみです。
――人間関係ができている学校ではなくホールで初めて会う子たち同士ですが、一緒にお弁当を食べたり、お喋りしたりといったコミュニケーションが、なかなかとれなかったんですね。
しかも時間も短い。それでも仲良くなっているから不思議です。熱中症にならないよう小まめに休憩を取るんですが、雑談をする時間は少なくて、とにかく水分補給をしたらすぐ次、みたいな感じだったのに、いつの間にか「友達」という意識を持っている。面白いなと思いました。
「誰かと何かを一緒にする」ということを、もしかしたら無意識に求めていたのかもしれませんね。広い舞台で走り回るようなことも、子どもの身体が欲してたのかな、と。
――子どもたちや保護者からは、どのような声がありましたか?
子どもたちからは......「また参加したい!」「友達が1人もいない環境に飛び込むことは初めてで、自信につながった」「いろいろな年齢、異なる学校から集まった参加者と知り合えたことは貴重な経験だった」などの他、多くの楽しみが奪われてしまったコロナ禍での開催に対する感謝の声を数多くいただきました。
また、中学生からは「決められたことをその通りやるのは簡単だけど、自分で考えて動くことが楽しかった」という声が。保護者からも「それぞれが考えながら身体で表現していく姿に感動した」という声が多くありました。
こういう時こそ、自分で考えることが必要
――決まった振付を、皆で踊るのではないのですね。
皆で踊る用意された振付もありつつ、今回は直接的な触れ合いができないなどの制約がある中でも、舞台をいかに楽しむか、安藤さんがさまざまな工夫をしてくださいました。
例えばあるシーンでは、皆と同じではなく自分のタイミングで動き始めていい。一応音楽もありますが、ゆっくり動き始めるなど自由に。あと、ルールやタイミングは決まってるけど、どう動くかは子どもにゆだねたり。
こういう時だからこそ「個」の力というか、自分の意志でそこに立ち、踊るということに挑戦できました。自分で考えることの面白さですね。
――皆と同じじゃなくていい、というのは学校生活とは異なる点です。
運動会など学校の表現活動は、決められた正解に向かって取り組み、練習も本番も同じことができることを求められがちだと思います。でも、ワークショップは毎回同じじゃなくていいので、思いもよらない子がソロで踊ったり、本番で「え!そんなこと今までやったことないじゃん!」というようなことが起きたりします(笑)。
そこは学校の価値観とはズレるようで、学校でワークショップを行うと、完成形がいつまでも見えないので不安になる先生方が多いように思います。子どもは意外と大丈夫。大人の価値観を揺さぶる方が大変なのかもしれません。
――答えや正解が分からないことを考えることも大切ですね。
全部正解が決まっていることしかできないように育つと、この先、どうやって生きていくんだろうと心配になります。世の中はイレギュラーなことが起きますから...。 でも先生もそうしたいのではなく、今の教育システム上そうせざるを得ない面があるのだと思います。
アーティストは先生とは立場が違うので、子どもの前で困ったり失敗するところを見せられます。 「じゃあ次はこっちをやってみよう」と、それが正解か分からないけど、その場で「いい」と思ったことを、子どもと一緒に考え、作っていけます。
―― "過程も学び"と。
今の子は失敗を避ける傾向にあります。「シーンを作ってみて」と言うと、まず周りの空気を読む。
そういう姿を見ていると、自分の想いを素直に出してみて大丈夫だよとか、正解は一つじゃないし、自分とは違う考え方をする人もいていいよねとか、もう少し緩やかにお互いを受け止められたら楽しいんじゃないかな、と思いますね。
――特別支援学級や児童養護施設でも開催されています。
特に障害のある子どもたちに対しては、大人が先回りして動きがちですが、私たちが外から入ることで見えることもあります。
「こんな振付、あの子たちには難しくてできないのでは」と、先生は心配されていたけれど、やってみたら意外とできたとか、動き回らないよういつも複数の先生が真後ろで待機していたけど、発表の時に大人がいない状態にしてもできたとか。
もちろん、その子ならではの"関わり方のコツ"もあるので、先生方のやり方を否定するつもりは全然なくて、意外とこっちでもいけるかも、みたいなことを意見交換できるのが理想だと思います。
――最後に、メッセージをお願いします。
コロナ禍で制限がある中でも、一つの作品をつくりあげる時間を共有することで、人と繋がることの大切さや表現することの楽しさを味わうことが可能です。 自分とは違う価値観の大人や子どもとの出会いは、かけがえのない何かを見つける時間になると思います。
9月以降の学校や施設でのワークショップは感染症対策を講じながら順次実施しています。私たちも子どもたちが表現する場を作れるのであれば、ご相談しながら柔軟に進めていますので、ぜひ申し込んでいただけたら嬉しく思います。
2020年度パフォーマンスキッズ・トーキョー「空」~ひかりマップ&おとマップ~
子どもたちがイキイキと表現する成果発表の様子(8月22日狛江エコルマホール/撮影・編集:金巻勲)