吸水ショーツを通して、自分の身体と向き合うきっかけをつくりたい──Period.代表 寺尾彩加

 友人同士でもなかなか話しにくい体の悩み。特に生理に関する体験は「わざわざ言うほどのことじゃない」と自分ひとりで抱え込みがちだ。吸水ショーツブランドを手がける寺尾彩加は、そんな状況に一石を投じたいと考えている。
吸水ショーツを通して、自分の身体と向き合うきっかけをつくりたい──Period.代表 寺尾彩加

 生理が近づいてくると心も体も重くなるという人は多い。今回インタビューした寺尾彩加もその1人だったが、ある出来事を機に考え方が変わったという。

 それは、米国で話題になった吸収ショーツとの出合いだった。それまでストレスに感じていたことがたった一枚のショーツで解消され、生理や自分の身体について知るきっかけにもなったという。

 このような吸水ショーツが日本にないことを知った寺尾は、吸水ショーツブランドのPeriod.を設立した。フェムテックが日本で話題になり始める前のこと。そんな寺尾の創業ストーリーについて話を聞いた。

寺尾彩加(Period.代表取締役)

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新卒で動画コンサルティングを行うベンチャー企業LOCUSに入社。クリエイティブコンサルタントとして女性商材の動画プランニングに従事した後に広報を経験。在職中、吸水ショーツブランドのTHINXと出会い感銘を受け、日本に広めたい思いから個人輸入と販売を行う。日本には同種のブランドがないことから、日本発ブランドとしてPeriod.を創業。Twitterアカウントは@Period_Ayaka

--フェムテックについて教えてください。

 女性の身体についての悩みをテクノロジーで解決する分野がフェムテックです。生理から妊娠、出産、更年期の悩みに至るまで、さまざまな問題を解決するサービスやプロダクトが誕生しています。そのなかでもPeriod.は吸水ショーツの企画開発と販売を手がけています。

 とはいえ、私たちは単に物を売っているのではありません。何十年も変わっていなかった生理用品に変化を起こすことで、もっと多くの人に自分の体と向き合うきっかけをつくれればと思っています。

--自分の体と向き合うきっかけとは、具体的にどういうことでしょう?

 生理は個人差が大きいものですが、その体験を人と共有する機会はめったにありませんし、先生や親からきちんと生理について教わることもありません。そのため、自分の状態が当たり前、普通だと思っている人がほとんどだと思います。しかし、本当は生理中の出血にも適正量が存在しますし、生理痛も我慢せずに病院で治療すべきものです。

 生理用品についても「なんとなく」で選んでいる人が多いと思うのですが、自分の身体に合ったアイテムを選択することによって、もっと自分の身体について知る機会につながると思っています。例えば弊社の商品なら、ショーツから大幅に漏れてしまう方は過多月経の疑いがあることが多く、それに自分で気づくきっかけにもなるんです。このような気づきを提供することが、Period.のミッションの一つです。

--寺尾さんが起業するに至った経緯を教えてもらえますか。

 私自身はそれほど大きな生理の悩みなどはなくこれまで生活してきました。でもある日、米国に機能面でもデザイン面でも優れた吸水ショーツがあることを知ったんです。届いた時は感動しましたね。その日から生理の日々が待ち遠しくなり、「早くあのショーツを履きたい!」「早く生理こないかな?」と思えるようになったんです。たった1枚のショーツをきっかけに自分の身体ともっと向き合えるようになり、プロダクトが感動をもたらすことも教えてもらいました。このとき日本にも同じような商品がないかと調べたのですが当時は見当たらなかったので、ならば自分でやろうと決心してPeriod.を起業したんです。

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ユーザーからはどんな反響がありましたか?

 医療従事者など勤務中にこまめにお手洗いに行けない方々からは、ナプキンを変えられないことによる不快感や肌トラブルが軽減したという声を多くいただいています。特にこの新型コロナウイルスの感染拡大のさなか、防護服を着ての勤務は過酷なものです。少しでも生理の際の負担を軽減できたらと思い、医療従事者へのショーツの寄付活動にも参加しました。 

 また、20212月に伊勢丹新宿店で、3月に銀座三越で、そして6月には西武渋谷店でポップアップショップを開設したのですが、これがユーザーの声を聞く機会になりました。新宿伊勢丹には若者が、銀座三越にはご高齢のお客様が、そして西武渋谷店には若い学生さんたちがたくさん来てくれて、三者三様の反響があったんです。

 伊勢丹新宿店に来てくださった方は、働き盛りの若いビジネスパーソンが中心でした。忙しい毎日を支えるパートナーとして私たちの商品を熱心に見てくれました。

 銀座三越には80代の方がいらして、「私、生理終わっちゃったのよね」と声をかけてくれたんです。続けて、「高齢者向けのショーツはいかにも下着という地味なデザインのものしかないけれど、このショーツはおしゃれだし、かわいいし、軽失禁も防げる。自分の分と、孫用に頂いていきます」と買ってくださいました。失礼ながら、お年を召した方が下着に求めるのは使い心地だと思っていたのですが、おしゃれにとても敏感で大変勉強になりました。

 西武渋谷店には、普段なら私たちの商品と出会わないような若い人たちが興味を示してくれました。印象的だったのは、若い男性が「このアイテムは何だろう」とちょっと気にしていたことです。生理が来るのは女性だけですが、社会で一緒に暮らす男性からも理解を得ていかないといけないと感じていただけに、興味を持ってくれたのが嬉しかったですね。


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女性の課題解決で東京都に期待したいことは。

 「女性の活躍推進」の機運が年々高まっている中で、女性の起業家も少しずつ増えていると思います。東京都も創業支援のような施策を用意していて、サポートを受けやすくなっていますよね。フェムテックのような分野が盛り上がっていることも合わせて、日本在住かつ女性での起業という点では、むしろチャレンジしやすい環境が整い始めていると思います。

 その一方で、女性の投資家がまだまだ少ないことは問題に感じています。さらに、いかに投資家たちにフェムテックについての理解や自分たちの思いを共感してもらうことは難しいことではありますが、少しずつ世の中は動いている気がします。

 生理について行政が支援を始めたことは、とても嬉しいニュースでした。ここ最近よく耳にするようになった「生理の貧困」ですが、金銭面の問題だけではなく親のネグレストによって生理用品にアクセスができない人が日本にも多くいます。 

「生理の貧困」

 若者のグループ「#みんなの生理」が2021年3月2日までの2週間、インターネットで「日本国内の高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校などに在籍している方で、過去1年間で生理を経験した方」を対象に生理について調査したところ(回答数671)、過去1年に金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある若者の割合が20.1%にのぼった。

 2021年の3月には東京都・豊島区などが防災備蓄用の生理用品の配布を始めました。また、6月には東京都が都立学校の女子トイレに生理用品を置くことを発表していますよね。もちろん、すべて無料です。この決定の早さはすごいと思いました。

 私の周りには、ソーシャル・グッド(公共の善)なことをやりたくて起業したり、社会課題の解決のためにビジネスをやったりしている人が多いのですが、行政は公共政策の専門家集団ですよね。「生理の貧困」に対応したのと同じように、その他の問題の解決にも積極的に取り組んでもらいたいと思っています。

取材・文/川鍋明日香