安全・安心な東京2020大会の実現に向けて ──行動規範「プレイブック」に込めた想い――

Read in English
 コロナ禍で開催される東京オリンピック・パラリンピック。安全で安心な大会を実現するため、感染予防対策の行動規範をまとめた「プレイブック」が作成された。その経緯や大会にかける想いについて、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 ゲームズ・デリバリー室 MOC計画部長 澤崎道男さんに話を訊いた。
安全・安心な東京2020大会の実現に向けて ──行動規範「プレイブック」に込めた想い――

 「ルールは、守られなければ意味がない」。新型コロナウイルス感染症対策の指針をまとめた「プレイブック」(ルールブック)の構想段階から関わる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 ゲームズ・デリバリー室 MOC計画部長 澤崎道男さんは語る。

20210719114515-d536a4b70b8b62cae05a7630ce70398b43d89265.png
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 ゲームズ・デリバリー室 MOC計画部長 澤崎道男さん。1992年東京都に就職。2006年東京オリンピック招致本部に配属。以後、2016大会、2020大会の招致活動及び準備に従事。2016年組織委員会へ派遣。飲食サービス、アンチドーピング、競技計画などを担当。2019年から現職。

 
 プレイブックは、東京2020組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)、そして東京都と国による議論を経て作成された、東京2020大会において参加者が遵守すべきコロナ対策上のルールを取りまとめたガイドラインだ。アスリートを含む全ての大会参加者と日本国民、そして都民を守っていくというメッセージが込められているという。

20210719114654-c8ea9d4fdd02e2168034c07cae87d86113a58509.png
公式プレイブック(第3版)

プレイブック〜大会の安全と成功のためのガイド〜

 国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会などが、専門家の科学的知見を踏まえながら、新型コロナウイルス感染防止のために選手や大会関係者が守るべきルールをまとめたもの。2021年2月の初版、4月の第2版を経て、6月に第3版が公表された。

 最新の第3版では、選手は日本に滞在中、原則として宿泊先と練習会場、競技会場に行動範囲を限定され、入国前に組織委員会へ提出する活動計画書に沿って行動することが求められている。また、食事については、選手村に滞在している人は選手村か大会会場でとること、それ以外の人は大会会場か宿泊先内のレストラン、またはルームサービスを利用することとされている。

 「目指したのは、わかりやすく、かつ選手にとって納得感がある内容。作成にあたり、選手への配慮は特に議論された部分です。なぜならオリンピック・パラリンピックはあくまで競技の場。その中心には、やはり選手がいなくてはならないからです。」

 だが、その内容は決して選手にとって負荷が低いものではない。マスク着用やフィジカル・ディスタンスはもちろん、家族や友人も呼べず、東京の街に出ることも出来ない。新型コロナウイルスの検査は毎日実施され、陽性が確定した時点で即隔離。もしルールに違反すれば、大会出場停止処分などの制裁を受ける可能性も示唆されている。

 「従来のオリンピック・パラリンピックは祭典のイメージでしたが、今回は少し意味合いが違います。安全第一を掲げながら、スポーツの感動を担保することは決して容易ではありません。それでも開催する以上は、選手が安心して参加できる舞台を用意したい。そして、選手を含めたすべての参加者、東京と日本の人々を守りたい。そんな思いで準備を進めてきました」

 ルール策定にあたり、最大の課題となったのが「感染状況の変化」だと澤崎さんは話す。

 「当初は海外からのお客様にも来ていただく前提でした。一時、感染状況が落ち着いたように見えた時期もありましたが、イギリス型、南アフリカ型と変異株が出てきた。議論を重ね、ひとつルールを決めても、刻一刻と感染状況が変化していくなかで、プレイブックの内容も何度も変更を余儀なくされました。615日に第3版を公表しましたが、改訂を重ねているのは、それだけ状況が変化しているからです」

 今後も、新型コロナ対策の最新の状況に合わせたルールの最適化と調整を開催直前まで行っていく方針だと言う。

 澤崎さんは、東京が2016年大会の招致に取り組んだ2006年から今日に至るまで、オリンピック・パラリンピックの実現に関わり続けている。今回はまさに、16年越しの思いを成就させる大会になる。ほとんどの会場は無観客で競技が行われることになったが、だからこそ、選手たちに心からのエールを送ってほしいと、澤崎さんは言葉に力を込める。

 「観客席からの声援がないのは大変残念ですが、それでもすべての選手がベストパフォーマンスを発揮できる環境を準備したい。そして、こういう状況でもスポーツはできる。スポーツに真剣に取り組んでいる姿は素晴らしい――。多くの人にそう感じていただけるような大会にできればと思っています。」

取材・文/赤坂 匡介