究極の地産地消を東京に──Infarmが考える、都市を支える次世代の農業

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 異常気象や農業従事者の減少が叫ばれるなか、限りある資源をもとに持続可能な方法で都市に食糧を供給するにはどうすればいいか? ドイツ発の農業テック企業Infarmは、「究極の地産地消」にカギがあると考えている。

 国連の「世界人口推計2019年版」によると、世界人口は2050年に97億人を突破するとされている。それに対して、食糧生産に使える土地や水資源には限りがあり、人口増加や人間の環境破壊、気候変動の影響でむしろ減る一方だ。つまり、増加の一途をたどる人類を、これまでと同じあるいは少ないリソースを使って、いかに人にとっても地球にとっても持続可能な方法で支えられるかが人類の急務となっているのである。

 こうしたなかドイツ発の農業テック企業Infarmは、都市のスーパーマーケットや飲食店で野菜を栽培できるようにすることで、問題の解決に一役買おうとしている。

 同社が開発したのは、LEDを使った水耕栽培用のファーミングユニット(水耕栽培装置)だ。各ユニットはインターネットに接続されており、ベルリンにある本社が24時間遠隔で管理している。また、機械学習技術も搭載され、各品種にとって最適な状態となるようユニット内の環境が常に自動的にアップデートされているという。

 こうしたテクノロジーのおかげで、同社のユニットは従来の農業方法に比べて水の使用を95%、肥料の使用を75%、そして土地利用を95%、生産地から消費地までの輸送距離を90%削減することに成功した。また畑はユニット内部で垂直方向に重ねられるので栽培に広大な土地を必要とせず、都市の狭い空間でも設置しやすいことも特徴だ。

 これまで世界10か国30以上の都市にユニットを展開し、2020年にはアジア発の進出先として東京でも栽培を開始したInfarm。日本法人であるInfarm Japan代表取締役社長の平石郁生さんに、東京という大都市における食糧供給の課題や、より持続可能な都市への食糧供給のカギを聞いた。

Infarmの水耕栽培ユニット。食品の安全や環境保全、労働安全などの面で持続可能な取り組みを実践している生産者であることを認証する「グローバルGAP認証」を、水耕栽培を手がける事業者として世界で初めて取得した。

「究極の地産地消」を目指す

-- 大都市の市街地区画内で農作物を生産する都市型農業が世界で注目されていますが、そもそもなぜ都市の居住区のそばで農作物を栽培することが重要なのでしょう?

 従来型の土耕栽培(露地物)であろうと、いわゆる「野菜工場」と呼ばれる屋内型の大規模な水耕栽培であろうと、都市郊外で野菜を生産し都会に輸送する必要があることに変わりはありません。また、野菜は生産から消費者の口に入るまでの過程で約30%が廃棄ロスになると言われています。

 こうした現状を考えると、より環境負荷が少なく持続可能な食のサプライチェーンを構築するには、都市郊外ではなく都市部で栽培・生産し、輸送と廃棄に使われるエネルギーを少しでも削減する必要があると考えています。

-- 東京にも大規模な水耕栽培をおこなっている屋内型の「野菜工場」はいくつかありますが、こうした工場とInfarmの違いはなんでしょう?

 最大の特徴は「究極の地産地消」、つまりファーミングユニットを都市郊外ではなく都市部の、特に消費者に最も身近なスーパーマーケットや飲食店等の店舗内に設置していることです。都市部の限られた敷地にファーミングユニットを分散して設置することで、都市型農場のプラットフォームを形成したいと考えています。

 国連の「世界都市人口予測2018年改定版」によると、2018年時点で地球人口の半分以上が都市で生活しており、2050年には68%にまで増加するといいます。投資家や消費者の皆さまからも、東京のような人口の多い都会で生産し、都会で消費する「究極の地産地消」が、増加する都市人口を支える新たな食料システムとして機能しうると期待や支持をいただいています。

Infarm Japan代表取締役社長の平石郁生さん。

若い世代にも農業への興味を

-- なぜ東京をアジア初の進出先に選んだのでしょうか? 食糧供給におけるこの都市特有の課題を教えてください。

 日本は農業人口の高齢化が進み、近年では大雨による水害をはじめとした自然災害にも多く見舞われています。都市部で屋内型農業を展開することにより、価格の安定した生鮮野菜を都市部の消費者にお届けしたいと思っています。

 また、Infarmを通じて若い世代の方々が就農に興味をもつきっかけも作りたいと考えています。日本の農業人口は高齢化の一途をたどっており、現状のままでは農業従事者は減少するばかりです。さらに、日本は食料自給率が低いことで知られていますが、増加の一途を辿る世界人口を鑑みると地球全体の食料需要は増加傾向にあります。

 こうしたなか、郊外ではなく都市部でInfarmのようなユニットを使って野菜の生産ができると知っていただくことで、従来型の農業への参加が難しい層、例えば農業に興味はあるものの住む場所や体力面などで制約のあった方にも農業に参加していただく機会を提供できるのではないかと考えています。

-- 東京でより持続可能な食糧供給システムを構築するために、どのような取り組みが必要だと思われますか?

 まずは、現在の食料生産・流通の仕組みが地球環境に与えている影響についてより多くの方々に知っていただくことです。このまま地球温暖化が進行すると農業や居住に適した地域が減り続けてしまうのだと、より多くの方々に危機感を持っていただくことが第一歩であると考えています。

取材・文/川鍋明日香