eスポーツと東京の未来:筧誠一郎|TMCトーク Vol.11
筧誠一郎と申します。まず自己紹介を少ししたいと思います。現在、東京都eスポーツ連合会長の他に、eスポーツコミュニケーションズ株式会社取締役会長、日本eスポーツ学会代表理事などの役職に就いておりまして、中央大学と尚美学園大学では、「eスポーツ概論」「eスポーツ文化論」の講義を行っています。
私は1960年に東京都に生まれました。ですので、4歳の時に東京オリンピックがありまして、国立競技場で陸上競技を見ました。今回2回目の観戦をしたかったのですが、残念ながら無観客になってしまったので、見ることは叶いませんでした。当時は4歳だったので、記憶にはほとんど残ってないのですが。
成城大学法学部を卒業した後、広告代理店の株式会社電通に入社しまして、主に音楽・ゲームを中心としたエンターテイメント系の仕事を中心に行ってきました。2006年にeスポーツの存在を知りまして、その可能性を多くの方々に周知してもらうために日本全国で講演や啓発のためのメディア出演など、数多く行ってきています。2010年に電通を退社しまして、現在は様々なeスポーツイベントやeスポーツ施設、書籍、eスポーツテレビ番組のプロデュース、eスポーツの事業化を考えている企業のコンサルティングなどを行っています。
また、著書に『eスポーツ地方創生』などがあります。これは私の著作や共著、監修、原案をした書籍になります。まもなくもう2冊出版されますが、締め切りに追われている真っ最中でして、ここでこうやって喋っていると、出版社の編集者が「その時間があったら早く書いてくれ」と思っているかもしれません。
それでは、日本のeスポーツ市場規模をご説明します。2018年、前年比13倍の48.3億円となりまして、eスポーツ元年と呼ばれました。2020年の国内eスポーツ市場規模は新型コロナウイルスの影響にも関わらず、前年比109%の66.8億円と進捗しました。日本のeスポーツと伸びを支えているメインは、スポンサーの売り上げによるものです。2020年に日本国内で行われたeスポーツの大会のスポンサーやプロチームのスポンサーなどにトヨタ、コカ・コーラ、日本の大手通信会社などがついています。
これは日本のeスポーツのファン数の推移なんですけれども、統計が始まったのが2018年からなので、ここ3年の実績と2024年までの予測値になります。2020年にeスポーツの試合観戦や動画視聴する日本のeスポーツファン数は、前年比142%の686万人となりました。新型コロナウイルスによる在宅を中心とした生活の変化により、視聴時間が増加したこともファン数が増えた要因だと思われています。
この表は、2011年から2020年までの日本でのプロスポーツのファン人口推移を表しています。青色がフットボールの日本代表。赤色が日本のシーズンスポーツでナンバーワンの人気を誇るプロ野球、緑色がフットボールの日本リーグである、Jリーグとなります。ここ10年でフットボールの日本代表は2100万人もファンを減らし、プロ野球ファンは1000万人以上を減らして2462万人となっています。Jリーグも400万人ほど減らしています。
先ほどのeスポーツファンの表と同じ調査方法ではないので、単純に比べてはいけないんですけれども、このまま既存の人気フィジカルスポーツがファンを減らし続けて、eスポーツが予測通りファン数を増やし続けると、数年でeスポーツは日本のナンバーワンのファン数を持つスポーツとなる可能性があります。
eスポーツの隆盛を支えているのは若い世代です。ここに書かれているのは日本の小学生低学年、小学6年生、中学生、高校生の将来なりたい職業ランキングです。2018年以降、こうしたランキングでeスポーツ選手が上位に上がってきています。その人気を支えているのは、プロプレイヤーの活躍や、その活躍の場をYouTubeやTwitchといった動画サイトで熱心に投稿するようになったことが影響していると思われます。プロチームの多くは選手やチームの人気を上げるためにSNSの活用と、動画投稿を積極的に進めており、その成果が表れてきていると言えます。
それでは東京で行われたeスポーツイベントの事例をご紹介します。主に新型コロナウイルス流行前の2020年3月以前のものを中心にお話させていただきます。
上の写真の1枚目は2016年、代々木第二体育館にて、約1700人を動員した日本で初めての大規模eスポーツイベント、「League of Legends Japan League 2016 Spring split」の模様です。私は2006年からeスポーツの普及に奔走していたので、このイベントが行われたときに、本当に感動したのを覚えています。
2枚目は毎年ラスベガスで行われている格闘ゲームイベント「EVO」の日本版「EVO JAPAN 2018」の模様です。予選の2日間は池袋、決勝は秋葉原で行われました。日本は、格闘ゲームが主に30代以上の方に人気でして、国内約4,400人、海外約2,700人を超えるプレーヤーが集結して、来場者合計は約1万4,000人に上りました。
3枚目は2019年にベルサール高田馬場で行われた日本最大のLANパーティー「C4LAN2019」です。3日間で延べ1,500人を動員しました。2泊3日で寝ないで、ぶっ続けにゲームをやり続ける人もいるし、休憩室で仮眠してから、仲間と時間を決めてプレーするも良しと、自由な空間でゲーム好きには天国のようなイベントといえます。
4枚目は2019年にアリーナ立川立飛に約3,000人を動員して行われた「League of Legends Japan League 2019 Summer Split Finals」の模様です。新型コロナウイルスの流行前はこういった大型イベントが当たり前のように行われるようになっていました。
5枚目は毎日新聞社とゲーミングPCブランド「ガレリア」を展開する株式会社サードウェーブが主催する高校生大会の模様です。第2回大会の予選には全国から222チームが参加し、決勝は恵比寿にて開催されました。
6枚目は2020年1月に東京ビッグサイトにて開催された「東京eスポーツフェスタ2020」の模様です。主催は東京都やゲーム業界団体などで構成される「東京eスポーツフェスタ実行委員会」です。オープニングには小池百合子東京都知事も参加して大々的に行われました。小池知事は、eスポーツ体験もしました。お笑い芸人さんと対戦したのですが、芸人さんは「都知事に勝ったら東京に住めなくなりますかね」と言いながら都知事と対戦して、都知事に勝利しました。...まだ彼は東京に住んでるようですので、まあ良かったと思いますね。
それでは、サブカルチャーの聖地である秋葉原のeスポーツ関連施設の状況を見てみましょう。
1枚目は2011年にインターネットカフェ内のeスポーツ専用スペースとして、国内最大規模の「iGS ARENA」がアイ・カフェAKIBA PLACE店にオープンしたものです。日本ではかなり早い時期にできたeスポーツ施設です。
2枚目は2011年に千葉県市川市にオープンした後、2014年に秋葉原に移転してきた日本初のeスポーツ専用施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」です。様々なイベントが毎日のように行われて、にぎわいを見せています。
3枚目は日本の大手通信会社であるNTTの子会社、NTTe-Sportsが手がける施設「eXeField Akiba」です。最先端のICTと、最新の機材を備えていて、日本全国から見学者が訪れています。
4枚目は秋葉原ワシントンホテルに1室限定でオープンした「eスポーツコンセプトルーム」。稼働率も通常の宿泊部屋より高いとのことで、多くの人が利用しています。中にはプレーに夢中になりすぎて、ベッドを使わずに帰った人もいるとのことで、ベッドメイキングを担当する人は「何が起きたんだ?」って思ったでしょうね。
5枚目はソフマップAKIBAパソコン・デジタル館の7階。eスポーツグッズを販売している場所があります。日本の人気プロチームのレプリカユニフォームやグッズなどを多数揃えていて、リモートワークの普及により、大人気となっているゲーミングチェアなども販売しています。 別のフロアにはゲーミングPCやゲーミングデバイスなども販売しているので、eスポーツファンにとっては、ここに来ると全てが揃うというふうに言っても過言ではないと思います。
日本の代表的な街の1つでもあります渋谷にも、eスポーツの施設ができ始めています。
1枚目は、2018年よりLeague of Legends Japan Leagueのレギュラーシーズンが開催されている「ヨシモト∞ホール」です。ここはもともとお笑いの劇場なんですが、eスポーツの定期イベントができるように改装されました。
2枚目は、日本初の大型eスポーツパブリックビューイングカフェ「価格.com GG Shibuya Mobile esports cafe&bar」。2019年にこちらがオープンしました。スポーツバーのeスポーツバージョンと考えていただければわかりやすいと思います。私はこの施設のオーナーなんですけれども、オープン当初、満員だったお客さんが、新型コロナウイルスの影響により、全くいなくなってしまったので、夢なら覚めてほしいと思いました。
3枚目は、2021年にオープンした「Fスタジオ渋谷」。こちらNTTドコモの、5G初の公開常設スタジオとして、通信機能を完備したスタジオです。5G通信を通して新しいeスポーツイベントが可能になり、今後eスポーツイベントも予定されています。
秋葉原、渋谷以外の街のeスポーツ施設についても、いくつかご紹介します。
1枚目が新大久保にある24時間年中無休営業のeスポーツ専用ネットカフェ、「eスポーツカフェ」です。80席ほどありますが、学生が多い街なので、若い人でいつも賑わっています。ここは日本人向け施設なのですけれども、同じ会社の経営する中国人向け施設が2フロア、韓国人向け施設が1フロアあって、そこも留学生などの若い人が押し寄せて賑わっています。
2枚目は東京で秋葉原に次ぐサブカルチャーの聖地ともいわれている、中野にオープンしたアジアで最初のレッドブルが手がけるゲーミングスペース「RED BULL GAMING SPHERE TOKYO」です。eスポーツコミュニティが使用する場合、使用料などで優遇のある施設で、様々なコミュニティイベントが開催されています。
3枚目は2020年春に銀座にオープンしたゲームメーカーコナミのeスポーツ施設「コナミクリエィティブセンター銀座」です。「esports 銀座studio」、「esports 銀座school」、「esports 銀座store」の3つで構成されている複合施設となります。
4枚目、2021年6月に東京の地下鉄事業を展開する、東京地下鉄株式会社と、東京eスポーツ教育事業を展開するゲシピ株式会社が、地下鉄南北線の赤羽岩淵駅3番出入口横に、日本初のeスポーツ専用ジムをオープンしました。月額会員制度のジム、店舗の利用に加えて、オプションで店舗またはオンライン上でeスポーツプロプレイヤーなどからレッスンが受けられるサービスを提供しています。
5枚目、eスポーツのオンライン大会プラットフォームを提供する株式会社JCGはそれまでに保有していた高輪台のスタジオに加えて、事業規模の拡大および受注案件の増加に伴って、新たに「JCG豊洲スタジオ」をオープンさせました。
日本でも若者の間でeスポーツのイベント配信やeスポーツ番組の人気が広がってきていますので、こういう施設の需要は高まるばかりです。今日ご紹介してきたように日本では東京を中心に急激にeスポーツの整備が進み始めています。アメリカのどの街に行ってもバスケットボールのゴールリングがあるように、ブラジルのどの街に行ってもサッカー場があるように、その国の代表的なスポーツを支えるためには、誰もが気楽に触れる場所が必要です。
韓国がeスポーツ強国となった原因の1つに、国内に1万2,000店舗あるといわれるeスポーツ特化型ネットカフェ、「PC房(バン)」の存在があることは疑いようがありません。韓国の若者はそういう場所でのプレーで、腕を磨いて、仲間を見つけていったのです。それに比べて日本ではこういう事業・業態の店は全国でまだ30店舗程度です。またコロナ禍により新規出店も鈍化していますがコロナウイルスの猛威が収まれば、施設やイベントは急激に増加すると思っています。
日本でも東京を中心として、今以上にeスポーツコミュニティの人々や一般の人々が楽しく触れられる場所が増えてイベントが定期的に開催されることで、シーンが活性化していくと思います。そしてその流れは東京から始まり、日本全国に広まり、いずれeスポーツが日本での国民的スポーツになっていくと私は考えています。