東京が掲げるべき「サステナビリティ戦略」への提案

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 「Be better, together /より良い未来へ、ともに進もう。」を持続可能性コンセプトとして開催された東京2020大会。国際社会に向けて発信されたそのメッセージをレガシーとして引き継ぎ、今後、東京がさらにSDGsに貢献する都市になるためには、複数社会課題を掛け算した"大義"を起点とした成長戦略が重要である。

 今年天国へと旅立った祖父は江戸っ子で"傘職人"だった。細心の注意を払い、良質な欧米系のブランドの洋傘を生地から東京の下町の実家兼仕事場でつくりあげる技術は群を抜いていたらしく、生前には祖母と共に東京都内の某有名デパートに卸しては文句ひとつ言われなかったことを自慢された。また、「アキラもすぐゴミになってしまうビニール傘なんか使うんじゃないぞ」とよく言われ、小学生の頃から祖父母がつくった折り畳み傘と、余った生地でつくった水筒袋を使っていた。

 おこがましいかもしれないが、祖父母の生業は、世界経済社会の中でも東京が今後のポテンシャルを最大化するための方向性を示唆してくれたかもしれない。「カイゼン」を武器に、「異文化とも当たり前に共存」しながら、サステナビリティを日常化することだ。東京もSDGsの達成を掲げ、先日行われた東京2020大会でも 「Be better, together /より良い未来へ、ともに進もう。」を持続可能性コンセプトとして、都市鉱山から回収した金属で作るメダルや水素の利活用といった取組により、サステナビリティを国際社会にアピールした。しかし、まさにそれをレガシーとして活かし、持続可能な形でSDGsの達成に寄与するためには東京全体としての "成長戦略"が必要である。

 サステナビリティ文脈では、私は"日本/東京パッシング"のリスクがあるのではないかと考えている。例えば、脱炭素と不可分な関係にある「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」の文脈でグローバルの会議に参加すると、日本の事例や取り組みが発信されきれていないことに気づいた。先進的なヨーロッパの企業や政府も、日本の取り組みに関心があるものの、情報が発信されきれていないことを理由に他国のパートナーと先に手を組みはじめている実態を目の当たりにしたのだ。多くの大企業が集積し、消費者マーケットが大きいという強みを有する東京で、「カイゼン」や「異文化との共存」も起きやすいにもかかわらず、このような実態が存在した。

 それではどうすれば良いか。まずはすべての好循環の出発点は"大義"の発信にある。カーボンシティ、サーキュラーシティはオランダのアムステルダム等が先行してしまっている印象があるため、東京は"複数社会の課題の掛け算"を軸にした大義で勝負する余地があるのではないか。特にこの考えは、SDGsの本質でもある複数の課題を解決する必然性に訴求しながら、"課題先進国"たる地の利も活きる一石二鳥の考え方である。

 実は日本企業の中でも掛け算を活かした"大義"を掲げ、サステナビリティ市場で活躍するプレーヤーが出てきている。その最たる例は小田急電鉄である。世界で最も乗降客数が多い新宿駅を一拠点とする同企業は、沿線をサーキュラーエコノミー化していくことを掲げ、ゴミをゼロにするという大義を掲げるアメリカのユニコーン・Rubicon Globalと提携している。神奈川県の座間市とのサーキュラーエコノミーと(少子高齢化に対応する形での)ウェルビーイングを掛け算し、まちづくりを推進していることはフィンランドの半官半民ファンドSitraからも表彰された。筆者もこの事業の立ち上げに関与していたが、アメリカのスタートアップという「異文化」と共存し、ひたむきに廃棄物収集運搬の現場で「カイゼン」を積み重ねている様子を目の当たりにしてきた。

 今後、東京の魅力を最大限に活用し、SDGsに貢献する都市になるためには、官民で掛け算した"大義"を掲げることで、そこから数珠繋ぎ的に東京の強みを活かすことではないだろうか。日本のプレーヤーは、あえてストレッチした「大義」を恥ずかしがらずに掲げ、発信することが第一歩かもしれない。日本以外のプレーヤーは「大義」と共にドアノックすることも一案だ。

加藤彰

 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 モニターデロイト シニアマネージャー。東京大学法学部及び公共政策大学院卒。モニター デロイトでは、国内外の企業をクライアントとした全社改革、中期経営計画立案、Go-to-Market Strategy 等の経営戦略案件に加え、サーキュラーエコノミー、ジェンダー、人権等の社会課題を起点とした長期戦略、グローバルの新規事業戦略立案・実行支援を多数経験。モニター デロイトジャパンでは官民連携、ルール戦略、サーキュラーエコノミーのリーダーを務める。SDGs研究/教育にも従事。

文/加藤彰