優しい日本とレガシー:マリ・クリスティーヌ|TMCトーク Vol.17

 本記事は2021年9月4日に東京都メディアセンター(TMC)が実施したTMC トークでのマリ・クリスティーヌ氏の講演を書き起こしたものです。
英語で読む/Read in English
動画はこちら
「優しい日本とレガシー」|TMCトーク Vol.21

 マリ・クリスティーヌと申します。異文化コミュニケーションを専門として仕事をしております。今日は、素晴らしい通訳さんがいらっしゃいますけれども、あえて私の言葉で、日本語、そして英語両方でお話させていただきたいと思います。

 今日の講演は、おもてなし、ホスピタリティ、そしてレガシーという非常に幅の広いテーマではあるのですが、今回私も、オリンピック、そしてパラリンピックがこのように日本で開催されたことが、本当に嬉しいです。

 もちろん賛否両論ありまして、オリンピックを開催すべきか、しない方がいいのではないかということで。ただ、そのポイントが少しずれてしまっているところがあるのではないかと思います。

 それは、(今回来日された)外国の方からお話を伺ったときに「日本人は外国人のこと好きじゃないのですか」と質問を受けました。決してそうではなくて、日本は外国人もそして海外のことも大好きです。ただ今回は、これまでの歴史で今までになかった、このコロナウイルスという非常に皆が大変怖がっている、そして恐ろしいウイルスがまん延しているということ。この中で、このような大規模型イベントを東京都、そして日本という国が開催することは、ある意味では大きな実証実験でもあるわけです。

 このような世界中がパンデミックのなかで開催される大規模型イベントに、皆さんがどのように安心・安全な気持ちで参加できるかということを問われている、とても大事なイベントでもあるのではないかと思います。

 私が大変嬉しかったことの一つには、パラリンピックの選手の方々のご家族といろいろお話をさせていただく機会があった際に、彼らは「私たちは今回、日本がこのようにパラリンピックを開催してくれたこと自体がとても嬉しかった」と言われました。

  「え?」って。だって危険なところに、皆様方はやっぱり注意しながら(自国から)来なくてはならない。「自分たちの動きも制限されることになるのに、何で嬉しかったのですか?」と聞きましたら、「私たちはもう家族とともに選手を4年間ずっと支えてきました」と。「彼らの成果をここで発表することができない、また4年後に出られるか、出られないかがわからない」と。本当に今回も断念されている方々もいらっしゃったわけです。その方々は大変お気の毒だったのではないかと思いますが、でもこのように開催することができました。

 そして今回、いろいろな方々とお話するときに「ぜひ日本のこういう素晴らしいところも(本当は)見ていただきたかったです」と申し上げたら、彼らは「でも私たちは、また来ますから」と言ってくださいました。「また来ますから」と言ってくださったことが、大変嬉しかったです。

 なぜかと言いますと、今回これだけ規制されている中で、非常に狭い範囲でしか動けていない方々も、日本に来ておもてなし、日本人のホスピタリティというものに大変感動してくださいました。だから、これが収まったならば、また日本に来たいと(言ってくださった)。日本にとって、リピーターやインバウンドの方々がたくさん来てくださることが、日本にとって何よりのご褒美ではないかと思います。

 400年前、江戸開府のときに江戸城に向かって行進する大きなお祭りごとがあったのです。そのときの行進の中には外国人がいたり、象が歩いていたりとか、いろんな方々がそこにいて。日本人はもともと昔からダイバーシティ、そして多文化、多様性が大好きなんですよね。

 他の国々に私たちが行きますと、「多様性、ダイバーシティが大変重要です」と言われています。そのダイバーシティという言葉が海外から日本に入ってきていますけれども、このダイバーシティという言葉の中には、ある意味では「お互い我慢をし合いましょう」ということがあると思います。我慢し合わなければ、本当に共生することができない。文化がぶつかったりしないために、お互い受け入れましょうと。「お互い尊重し合いましょう」というなかにも、やっぱり対立があるからこそ、「もっと我慢しましょう、ダイバーシティをちゃんと認め合いましょう」ということを言うわけなんですね。そして、異文化理解をしましょう、そのために勉強しましょうと。

 日本人はもともと多様性が好きなんです。珍しいものが大好きなんです。皆が今までに体験したことのないこと、まだ見たことがないもの......。人に何か差し上げたときに「珍しいね」って言われるような、他の国から何か持ってきたら、「これは珍しいね」って喜んでくださる日本人。私は大好きなんですけれども、でもそのようにダイバーシティという言葉の意味が、(日本と海外とで)ちょっと違うんではないかなと思うんです。

 そのダイバーシティが好きな日本人がしてきたおもてなしや多様性といいますか、人々をホスピタリティをもって迎え入れていることを、今回海外から来られた外国の選手の方々が皆感じたんではないかと思うんです。ですから(このような状況下であっても)、無理してでも、もう何とかこの人を楽しませてあげなければいけないと思う日本人のおもてなしが、素晴らしかったと思います。

 最後に、海外から来られた外国の選手の方々に言われましたのは、「私たち障がいのあるパラリンピアンに対して、おもてなしが少し過剰すぎるところがある」と。「私たちは自立していることを(理想的なこととして)ずっと学んできて育ってきているから、自分たちで自分のことをきちっとできる社会人の一員として頑張ってきているのに、日本の場合は求めなくても手が出てくると。それはすごく嬉しいけれども、でももしかしたら我儘にさせられすぎて、自分の国に帰ったときに、自分たちの自立というものを非常に考えなければいけないということになってしまうかも」と冗談で言われたんです。

 確かにそうだと思うんです。ですので、そういう点でも私たちは今回、たくさんの異文化と触れることができました。やっぱり「障がいのある方々」の文化もちゃんとあるわけですし、「健常者」の文化というものもあるわけです。でも、この文化と文化がお互い興味を持ち合って、理解し、そして一緒になっていろんな形での活動ができるということが、本当の意味での異文化理解ではないかと思います。

 今回は、本当に大きな実証実験として、いろんな面で私たちは出来たと思いますので、今後このようなパンデミックがあっても、私は皆さんで頑張って、海外からいろんなイベントを日本に誘致していけたらいいなと思っております。

マリ・クリスティーヌ

Yusra Mardini

 4歳まで日本で暮らし、その後父親の仕事に伴いドイツ、アメリカ、イラン、タイ等諸外国で生活。1970年単身帰国。上智大学国際学部比較文化学科卒。大学在学中に芸能活動を開始。数か国語に精通し国際会議、オーケストラコンサ-トなどの司会、多数のテレビ・ラジオ番組出演、講演活動を行い、異文化のパイプ役を務める。

記事中の文言は、実際の発言内容と必ずしも一致するものではございません。