アクセシブル東京:グリズデイル・バリージョシュア|TMCトーク Vol.16

 本記事は2021年8月30日に東京都メディアセンター(TMC)が実施したTMCトークでのグリズデイル・バリージョシュア氏の講演を書き起こしたものです。
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 今日お話したいのは「ユニバーサル・ツーリズム」についての話です。東京が2020年の大会開催都市に選ばれたとき(滝川クリステルさんのスピーチで)「おもてなし」という言葉がすごく有名になりましたが、私はアクセシブル・ツーリズム、あるいは「最強のおもてなし」を信じています。

 最初に少しだけ私の話をさせていただきます。私の名前はグリズデイル・バリージョシュアなので、ばれていると思いますけど、私は日本出身ではなくてカナダ出身です。いつも皆に「どこから来ましたか?」と聞かれるときには「トロントですよ」と言いますけど、実際、私の実家はトロントではなくて、その近くの誰も知らない町です。静かな風景で、何もなくて、雪と木と羊しかいなかったです。東京とちょっと違いますね。

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 私のもう一つの特徴は障がいを持っています。そして、ものすごくかわいい男の子でした。私は脳性麻痺という障がいを持っています。子どもの頃はずっとベビーカーみたいなもので移動していましたけど、4歳から電動車椅子を使うようになりました。その車椅子と、ヘルパーの方がいるので、私はいろいろなことができます。

 (生まれ育った町は)何もない町でしたけど、実は私の高校には日本語の授業がありました。私はIT関係の仕事をしたいと思っていたので、私の履歴書に「日本語も喋れる」と書けたらいいな、と授業を受けました。先生はものすごく日本に対する愛があって、日本の文化と歴史を教えていただいたので、私も高校を卒業したら日本に行ってみたいなと思っていました。もちろん、いろいろな不安がありました。情報がまったくありませんでしたから。

 でも、私の両親がいつも教えてくれたのは、夢を追いかけるのが一番大事ということ。なので、「大変だとしても1回トライした方がいい」と言って、お父さんと初めて日本に来ました。初めて日本に来たときにすごくびっくりしました。思っていたよりもバリアフリーが進んでいたからです。それで自信がついて、何回も何回も遊びに来ました。来る度にバリアフリーが進んでいて、行けなかった場所に行けるようになって、すごく良い場所だと感じて、日本に住みたいなと思いました。

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 それから何年も経ったんですけど、2015年頃に気づいたことがあって。バリアフリー情報は英語で発信されてないなと思いました。それは今の時点でもまだ変わっていません。そこで、私は『Accessible Japan』というホームページを作りました。『Accessible Japan』というホームページの目的は二つあって、一つは世界中の障がいを持っている方に「日本はバリアフリーで行けるよ」という旅の提案をするため。もう一つは生きるためのツールとして。どうやって旅行に行くかという情報と、バリアフリー情報を発信するためのサイトです。

 いろいろな情報が載っていますが、例えばバリアフリーに対応している観光スポットやホテル、ツアーなどの情報を載せています。あとは(日英の)辞書があって、意味がわかりづらい言葉、バリアフリーや障がいについての言葉も紹介しています。何よりも心配をなくすため、もっとスムーズに旅行を楽しめるために、いろいろな情報とツールを載せています。

 少しユニバーサル・ツーリズムの話をしたいと思います。ユニバーサル・ツーリズムとは、誰もが安心して旅行を楽しむことですね。でもユニバーサル・ツーリズムには一つ問題があります。それは、この世界は「多数派」のためにできているということです。

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 例えばカナダの学校では、全部の机が右側にあります。右利きの人にはすごく便利なんですけど、左利きの人にとってはすごく大変です。同じように旅行パッケージとかも一般の人には便利なんですけど、(障がい者向けというものでも、すべての障がい者が)全部を使えるわけではないんですね。その話をしたいと思います。

 バリアフリーツーリズムというと、皆さんが想像するのは「車いすに乗ってます」という人ですよね。でも実は、障がいを持つ方の中で車いすを使う人は20%だけです。視覚障がい者、聴覚障がい者ももちろんいます。でもそれだけじゃなくて、例えば怪我した人で一時的に車椅子使う人、妊婦の方、ベビーカーを押している方、そういう人たちにもバリアフリーが大事です。

 日本で特に大切なのは、そういう特別なニーズのある方ということでいえば、障がい者だけでなくて高齢者もすごく多いということです。同じニーズがあるので、高齢化社会にもそういったバリアフリーツーリズムはすごく大事だと思います。

 そう考えると、バリアフリーツーリズムをとりまく状況は、結構な経済的なインパクトがあります。例えば、(バリアフリーを必要としている方というのは)滞在時間が多くの人よりも長いですよね。もうちょっとゆっくりと旅行したい人も、いっぱいいます。
 そして一人では旅行しなくて、いつも誰かと一緒に行くんですね。約87%の人が一人以上の付き添いがいるといわれています。長い滞在時間と人数が掛け算になって、そして障がいを持っている方や高齢者の方がバリアフリーツーリズムの中で、一般の人よりもお金を使っています。そして障がいを持っている方は皆、お金がないというわけじゃなくて、ある調査ではかなりアメリカ人の年収の中央値(平均値)を超えている家族もいっぱいいます。

 すごく大きい経済のインパクトがありますよね。何が必要かというと、バリアフリーの環境が必要ですね。ランプ(昇降台)、スロープ、エレベーターとか、それらももちろん大事です。あとは、心と工夫とクリエイティビティ(想像力)が大事だと思います。

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 例えば、これは(ペルーの)マチュピチュです。この女性は特別な車椅子に乗っていますが、旅行会社が工夫して、ガイドさんが車椅子を引っ張ることができるハンドルを付けて、マチュピチュまで連れて行きました。

 日本のユニバーサル・ツーリズムの現状はどうでしょうか。世界中の人と話すと、いつも面白いと思うのは、海外の方は「日本はバリアフリーじゃない」と思っています。そして日本人も、「日本はバリアフリーじゃない」と思っています。けれど事実は、全然違うと私は思います。

 電車に乗る時にはスロープを出してくれて、迎えの駅員さんも待っていてくれて、すごく交通は便利です。日本では今のところ東京だと、96%以上の駅がバリアフリー対応になっています。ニューヨーク、ロンドンやパリと比べると、日本の方が(バリアフリー面での)リーダーになっています。あとは皆さんがよく目にすると思いますけど、点字ブロックですね。点字ブロックは、実は日本が発祥です。日本から世界中に広がって、多くの人が助けられていると思います。外国人は、ウォシュレットなどにすごく興味があるんですけど、私にとってそれよりもいいのは、日本にはバリアフリートイレがすごく多いということです。

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 そして(バリアをなくす)クリエイターの方もいます。例えば、お店に段差がある場合、スロープを使って誰でも入れるように工夫してくれています。でもまだまだチャレンジがあると思います。イメージの問題ですね。フェイスブックやツイッターには、こういう写真がすごく人気ありますね。

 海外に住んでいて、こういう写真を見て「おそらく日本に行けない、日本に鉄道に乗れない」と思ってしまう障がい者も、残念ながらいます。プロモーション、インスタグラムとかで、こういう綺麗な写真がよくアップされておりますが、すごく日本らしいなと思うんですけど、やっぱり、段差が多いなと思わせてしまうんです。

 次は情報の問題です。情報は、障がいを持っている方にとってはすごく大切です。94%と52%という面白い数字を紹介します。イギリスのあるアンケートによれば、障がいを持っている方に「どこかに行く前にバリアフリー情報を調べますか?」と聞いたところ、94%が「必ず調べます」と回答しました。そして、「調べて情報がなかったらどうしますか?行きますか?やめますか?」と聞いたら、52%の人が「情報がなかったら私はいけない、やめます、安全な場所を選びます」と答えました。情報がすごく大事ですよね。

 そしてインフラの問題です。住むには日本はすごく便利なんですけど、しばらく滞在して旅行するというときには、まだまだ問題があるかなと思います。例えば、ベッドの起床リフトや借りた車椅子とかは、基本的に保険で借りることができますけど、1週間だけ借りたい人とかは、なかなか借りられないことがあります。保険会社は、そういう旅行者には対応していません。

 いろいろな問題はありますけど、問題があるところには必ずチャンスもあると私は信じています。コロナの前は滞在外国人や訪日外国人が多く来ていましたが、今はちょっと違いますね。今は、ある意味「休憩」の時間です。そういう休憩の時間にいっしょに考えて、より良い環境を作りましょう。すぐにできることがあると思います。さっきお話した「情報提供」がすごく大事だと思います。

 例えば、この『だれでも東京』という東京都が出しているホームページもすごくたくさんの良い情報が載ってます。あとは観光庁も推進しているバリアフリー認定制度など、レストランやホテルでのバリアフリーを進めるための制度ができています。実際の店でも、インスタグラムやツイッターで自分の店のバリアフリー情報を発信できますし、すごく小さな試みでもたくさんの人が助かると思います。

 イメージブランディングの考え方も変えたほうがいいかなと思います。例えばさっきの(マチュピチュの)女性が写った写真がありましたが、こういう感じで載せたほうがいいかなと思います。それを見ると「私みたいな車いすでも行けますね」と自信がつくと思います。そして、改善しましょう。例えば、ハードの面では最近新しくできた新幹線の車両などもありますね。

 今はパラリンピックも盛り上がっていますので、一番すぐに変わるかなと思っているのは、社会です。世界人口の15%が障がいを持って暮らしているという「We The 15」のキャンペーンでも言われているとおり、目の前にいっぱい、たくさん障がい者がおります。ですから、より良い社会を作るために、ハード面もソフト面も今のコロナの時期だからこそ、考えて改善をする時だと思います。そして東京が日本のリーダーになるべきだと考えています。東京のダイバーシティー&インクルージョンが、日本へ広がって、そのあとまた世界にも広がっていくと思います。点字ブロックのように。

グリズデイル・バリージョシュア

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カナダ生まれ。四肢まひ性・脳性小児まひにより、車いす生活。高校卒業時に父親と一緒に日本に約1か月滞在。平成19年に来日し、平成28年に日本国籍を取得。都内で生活しながら、高齢者施設で勤務しアゼリーグループのホームページのWebマスターとして活躍しつつ、海外の障害者に向けた日本観光の英語情報サイト(ACCESSIBLE JAPAN)を運営するほか、これまでの知識・経験を生かし、国や自治体、企業が行うシンポジウムや講演会に参加する等、活躍中である。
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