東京が植物工場の一大拠点に? テクノロジーが導く「食と農業」の未来

Read in English
 「食と農業」が抱える問題を解決するために注目されている「植物工場」。なかでも、世界初のテクノロジーを採用した東京のベンチャー企業が生み出す野菜は、安全性やコスト面だけでない付加価値が期待されている。都市だから実現できる新たな農業とは?
植物工場兼研究施設「PLANTORY tokyo」で栽培中のレタス

世界初の密閉型栽培で高品質な野菜を

 農業従事者の後継者不足や異常気象による食物の安定性低下など、「食と農業」にまつわる問題には様々な側面がある。そこでいま注目されているのが、植物工場だ。

 植物工場は、屋内で植物の生育環境をコントロールしながら栽培することで、気候や季節に左右されずに、どこでも野菜が栽培できる。農業従事者の減少に対応する策のひとつとしても期待され、日本における植物工場の運営市場規模は、2025年に6700億円(設備・プラント含む)規模になるという予想もある。

 なかでも、最先端テクノロジーを採用して従来の植物工場の一歩先を行くのが、東京・京橋にある植物工場兼研究施設「PLANTORY tokyo」だ。この施設を設立した株式会社プランテックスは、モノづくりが得意なエンジニア集団が立ち上げたベンチャー企業。代表の山田耕資氏は「植物工場は次世代の農業を支えるキーテクノロジーになる可能性を秘めていると考え、『Culture Machine』の開発に至った」と話す。

 「Culture Machine」とは、同社が開発した世界初の密閉型の植物栽培装置。光・空気・肥料・水などの環境条件を緻密にコントロールするシステムを独自開発し、従来の植物工場よりも高品質で安定性の高い野菜の生産を可能にした。

省面積で野菜を栽培できるため、都心の狭い土地も有効活用できる

 京橋という街を選んだのは、江戸時代から昭和初期まで青物市場が存在し、東京の食文化を支えてきたという象徴的なエリアでもあったためだという。また、東京駅の近くという好立地は海外からも足を運びやすく、多くの人の目に触れてもらうことができる。

 さらに、東京のような都市に植物工場を建てることで、フードマイレージを抑えながら、鮮度の高い野菜を届けられる。輸送中のフードロス削減や環境負荷の軽減にもつながるのだ。同社ではすでに2020年から、植物工場で作ったレタスを都内のスーパーマーケットに卸しているが、評判もよく、売れ行きも好調だという。

美容・健康分野への応用にも期待

 プランテックスの「Culture Machine」には、高品質な植物を高効率で育てられるようになる以外の可能性も秘められているという。より高い付加価値のついた作物の生産も期待されているのだ。

 実は、「Culture Machine」によって環境条件を緻密にコントロールすることで、植物の成長の可能性を一段と引き出し、私たち人間に有用な成分を多く含んだ野菜などの生産が可能となる。わかりやすく言えば、サプリメントのような野菜が生まれるかもしれない、ということ。美容や健康といった分野への応用も夢ではないだろう。

 「植物工場は発展途上の分野であり、まだまだ未知の領域が多く残されています。だからこそ、大きなビジネスチャンスになるし、持続可能な食料生産の実現や、食を通じた健康促進などの点で社会貢献にもつながると考えています」(山田氏)

 消費地に近い場所で高付加価値な野菜を栽培できる植物工場。これがスタンダードになれば、これまでにない新鮮で栄養価の高い野菜なども続々と誕生し、私たちの食と健康はより豊かになるだろう。都市だからこその新しい農業の形──東京が植物工場の一大拠点になる日も近いのかもしれない。

テクノロジーで次世代の農業を切り開くプランテックスのメンバー。後列中央が代表の山田耕資氏

取材・文/安倍季実子