縦空間を活用し、暮らしやすい機能を集約 緑あふれる新しいTOKYOへ

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 都市の課題を解決するために、環境に配慮しながら災害時の避難所としての機能を併せ持つ街づくりの計画が進められている。多様な都市機能を高度に融合させた「虎ノ門・麻布台プロジェクト」で、未来の東京はどう変わるのだろうか。
3棟の超高層タワーを中心に“ヒルズの未来形”として誕生する「虎ノ門・麻布台プロジェクト」全景イメージ

暮らしに必要な都市機能を縦に重ねて住みやすい街へ

 「虎ノ門・麻布台プロジェクト」とは、森ビルが中心となり、地元の権利者約270名と構成する虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合が2023年の完成を目指す巨大都市開発プロジェクトのこと。縦の空間を活用し、暮らしに必要な職、住、遊などの多彩な都市機能を重層的に組み込んだ。そうすることで都心の土地とそこで過ごす人の時間を有効的に活用でき、より文化的で充実した暮らしの実現が可能になる。

 港区、虎ノ門にはオフィス街のイメージがあるが、実は比較的緑が豊かなエリア。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」では、約8ヘクタールという広大な敷地の中央に緑豊かな広場が佇む。それを囲むようにオフィスタワーやレジデンスを配置。建物の中には商業施設、医療施設、インターナショナルスクール、宿泊施設、ミュージアム、ギャラリーも設置される。まさに「都市の中の都市(コンパクトシティ)」だ。

6000m2の広さを誇る緑豊かな中央広場のイメージ

 コンパクトシティには、様々な機能を集約し、国際的に活躍する企業や人々がビジネスや生活をしやすい環境を整え、世界から人・モノ・金・情報を惹きつけることで、東京から日本経済を活性化させるという目的もある。

環境性と防災性を考慮した「災害時に逃げ込める街」

 気候変動や資源循環といった環境問題に応える機能を備えるのも大きな特徴だ。「都市と自然の共生、都市の低炭素化、資源循環の3つを推進し、未来へとつながる持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています」と語るのは環境推進部の武田正浩氏。

 森ビルが掲げる都市モデルは、従来型の街と比較して、敷地面積に対する緑地面積の割合は30%、エネルギー性能も40%向上する見通しだ。

 さらに「虎ノ門・麻布台プロジェクト」では、開発エリアに電気や熱のエネルギーを供給するエネルギーセンターを設置。防災性・環境性にも優れたコージェネレーションシステムを採用し、供給する電気を100%再生可能エネルギーとすることで、カーボンニュートラルな都市の実現を目指す。加えて、国際的な環境認証も取得し、「人と環境にやさしい街」として客観的な評価も得ている。

 防災面では、高強度の鋼材やコンクリートを構造部材にバランスよく採用し、地震時の揺れを効率的に低減できる場所に制振装置を配置。高い耐震性を備える。

 「震災に強いビルや街をつくるだけでなく、そこで働く人や暮らす人のケア、帰宅困難者の受け入れ等のソフト面の管理・運営も重要です。ハードとソフトの両面で『逃げ込める街』としての役割を担うことで、エリア近辺に暮らす人々を守る砦になります」と開発事業部の村田佳之氏は言う。

地元への愛着と東京の発展への期待をこめて

 森ビルが目指すのは、地域と協力して行う街づくりだ。その根本には、森ビルの地元である港区への愛着が大きく関係している。

 森ビルは、関東大震災を経験した初代社長の「地震に強い・安全な街をつくりたい」という気持ちから立ち上がった会社。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」は1989年に産声を上げたが、バブル崩壊、アジア金融危機、ITバブル、リーマンショック、東日本大震災などの未曾有の事態を乗り越え、30年という年月を費やし進められてきた。

 「長い時間がかかりましたが、30年の中で一度もプロジェクトを白紙にするという話は出ませんでした。この間に様変わりした社会を見て、我々が目指す50100年先にも残る街づくりは、間違いではなかったという確信が強くなっています」と開発事業部の村田氏は話す。

 森ビルを突き動かすのは地元への想いのほかに、東京を再び世界から一目置かれる国際都市へと進化させ、他の国際都市との競争を勝ち抜きたいという想いがある。日本経済を盛り立てるため、その基盤となる都心部の街づくりを地域住民とともに進めている。

取材・文/安倍季実子