ZEBで東京の街が変わる? 省エネと働きやすさを両立した、新しいビルの形

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 カーボンニュートラルの実現に向けて、東京都が推進している「ZEB」がひとつのキーになるかもしれない。大規模建築物が多い東京だからこそできる、ZEB化のメリットとは。
「省エネ大賞」経済産業大臣賞を受賞した「赤坂インターシティAIR」

建物からのCO2排出量は全体の7割を占める

 現在のペースで温室効果ガスを排出し続けると、世界の平均気温は2030年頃に1.5℃上昇するといわれる。地球温暖化を食い止める鍵として期待されているのが、東京都が推し進めている「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」だ。

 ZEBとは、太陽光発電などによるエネルギーの自給自足と高度な省エネルギー技術により、エネルギーの生成と消費の収支をプラスマイナスゼロにする建物のこと。快適な室内環境を保ちながら、エネルギー消費量を大幅に削減する。

 なぜZEBが重要なのかと言えば、実は、オフィスビルや住宅が集積する東京では、CO2排出量全体の70%以上が建物から排出されているからだ。当然これは世界の大都市共通の課題で、欧米では先行してZEB化に取り組んでいる。東京でも建築物のZEBに向けた取り組みが進む中環境に配慮したビルが増えている

 赤坂・虎ノ門エリアのランドマーク「赤坂インターシティAIRは、建築物だけでなく地区全体の省エネと事業継続性の両立を目指した複合ビル日射遮断と自然換気の機能を持たせた外装は、結果的に新型コロナウイルス対策にも活用されたという。省エネやCO2削減に加え、そこで働く人の健康や快適性、知的生産性を考えた"スマートウェルネスオフィス"を実現している。

 このほか、外壁の二重化による断熱化、太陽光発電など最新設備を導入して2020年に国分寺市に移転オープンした「東京都公文書館」は、都内におけるZEB化の実証建築として注目が集まっている。

ZEB化で不動産価値・企業価値が向上

 大手建設会社でも、ZEB化に向けた技術は進化している。業界に先駆けてZEBに取り組んできた清水建設では、建物の省エネや感染症対策に有効で、騒音が入ってこない吸気スリットを開発。大規模オフィスの設計提案に採用されている。

 大規模建築物のZEB化によって得られた知見や技術は、今後、中規模ビルをはじめ様々な建物のZEB化にも応用が利くとされており、期待が集まる。

 一方で、大規模建築物のZEB化は従来の建設よりもコストが上昇し、技術やテナントの合意形成などのハードルが高いという課題もある。しかし、企業や不動産オーナーにとって、ZEB化することで得られるメリットは大きいはずだ。

 例えば、エネルギーの効率的な使用により、従業員の快適性や生産性が向上する。また、エネルギーを自給自足する建物は災害時にも強さを発揮するだろう。ZEBに真剣に取り組むことは、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも国内外の投資家の注目を集め、企業価値の向上につながるのだ。

 ZEBが普及した未来の東京は、「人が集まる場所」として、その魅力をますます高めていくことだろう。

文/小野寺ふく実