日本のコロナ感染者急減、ワクチン集中接種で「集団免疫」効果も?

出典元:ニューズウィーク日本版
 夏の第5波から一転、秋になって急激に減少した日本の新型コロナウイルス感染者数。何が功を奏したのか議論が分かれているものの、ワクチン接種が迅速に進められたことが一因ではないかと指摘する声もある。
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 日本ではこの夏、新型コロナウイルス感染の第5波がピークに達し、8月半ばには、東京の1日あたりの新規感染者が6000人近くにのぼった。だがその後、感染者数は急速に減少。10月上旬から、東京の1日あたりの新規感染者数は11カ月ぶりに100人を下回る日が続いている。

 感染者の急減については、当惑する声がある一方で、ワクチン接種が迅速に進められたことが一因ではないかと指摘する声もある。ほかにも、飲食店や娯楽施設の夜間営業停止要請や、マスク着用の徹底などが功を奏したと見る向きがある。

 東邦大学の舘田一博教授(微生物・感染症学)は、「日本では64歳未満の人口を対象としたワクチン接種が、迅速かつ集中的に進められた。これによって一時的に、集団免疫に似た状態がつくられている」との見方を示した。

 新型コロナワクチンの接種を済ませた人は、人口の70%近くにのぼっている。日本ではこれまでロックダウンを一度も行っておらず、代わりに複数回にわたって緊急事態宣言を発令してきた。

 だが専門家は、感染者が急減した具体的な理由が分かっていないまま冬を迎えることに、懸念を抱いている。

 以下にAP通信の報道を引用する。

検査陽性率も急激に下落

 感染者数はなぜ減少したのか。

 国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長は、「それは難しい質問だ。ワクチン接種が進んだことの効果はきわめて大きいが、検証が必要だ」と述べた。「混雑した場所や換気の悪い場所など、感染リスクが高い場所に集まる人々は、既に感染して自然免疫を獲得している可能性がある」

 感染者が減ったのは検査実施数が減ったからではないかという憶測もあるが、東京都のデータを見ると、8月後半から10月半ばにかけて、検査実施数の減少が約30%なのに対して、検査陽性率は25%から1%に下がっている。東京都医師会の猪口正孝副会長は、検査陽性率の下落は、感染拡大ペースの減速を示していると指摘する。

 日本の緊急事態宣言は、ロックダウンとは異なるものの、バーや飲食店を主な対象として、営業時間の短縮やアルコール類の提供停止を要請する措置が取られた。その一方で、大勢の人が混雑した電車での通勤を継続。スタジアムなどで開催される各種イベントも、ソーシャルディスタンスの確保など感染対策を取った上で開催された。

 今は緊急事態宣言も解除されており、政府は社会活動や経済活動の再開範囲を徐々に拡大。ワクチンの接種証明や検査実施数の拡大を活用して、スポーツ大会やパック旅行の実証実験が可能になっている。

 10月上旬に退任した菅義偉前総理大臣は、ワクチン接種を加速させるために、注射を打てる職種(これまでは医師と看護師に限られていた)を歯科医などにも拡大。大規模接種センターを開設し、6月後半からは職場でのワクチン接種を促進した。

 京都大学の西浦博教授は、10月13日に開かれた厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」の会合で、ワクチン接種に関する試算を提出。3月から9月にかけて、ワクチン接種により約65万人の感染が回避され、7200人以上の命が救われたと推定した。

 多くの専門家が当初、感染拡大の原因について、バーが閉まっているなか若者たちが路上や公園で酒を飲んでいるからだと指摘していたが、データでは、数多くの40代や50代の中高年も、頻繁に歓楽街を訪れていることが示された。重症化した人や死亡した人の大半は、50代やもっと若い世代で、ワクチン接種を受けていない人々だった。

 国立感染症研究所の脇田隆字所長は先日、記者団に対して、緊急事態宣言の解除後、既に歓楽街でどんちゃん騒ぎを再開している人々がいることを懸念していると述べ、感染者数の減少については、既に下げ止まりの状態になっている可能性があると指摘。「今後の感染再拡大を防ぐには、もう一段感染者を落とすことが必要だ」と語った。

 公衆衛生の専門家らは、感染者数が急減した理由について、包括的な検証が必要だと述べている。

文/アナ・カールソン
※本記事は「ニューズウィーク日本版」(2021年10月19日)の提供記事です。