28か国の仲間と国境をこえてサステナブルな世界を目指す、自然電力グループ
自然エネルギー100%な世界の実現を目指して
自然電力は2011年の福島第一原子力発電所事故をきっかけに、「自分たちができる最大の復興支援・社会貢献は、自然エネルギーを広げていくことである」という3人の起業家の想いから始まった。
再生可能エネルギーの普及に取り組み、企画・開発・資金調達、設計、機器調達、建設と「発電所をつくる」ために必要なすべての事業を手がける。そして完成後の発電所の運営・保守・アセットマネジメントから、発電した電力の販売や販売サポートまでも行い、一般送配電事業者が担う送配電を除けば、再生可能エネルギーから電力をつくり、届けるすべての工程が事業領域ということになる。
今年でちょうど10年を迎えたスタートアップだが、すでに目覚ましい実績を残してきた。創業翌年に早くもグループ初の太陽光発電所を熊本県合志市に完成させると、13年には自然エネルギー分野で世界最大級のドイツ企業との合弁を通じて、juwi自然電力株式会社、juwi自然電力オペレーション株式会社を設立。グループとしてこの10年で確保した日本国内の再エネ発電量は、およそ1ギガワットにのぼる。同グループのブランディング&コミュニケーションチームリーダー、出張光高さんによれば、これは原子力発電所1基分、一般家庭30万世帯の電力に相当するという。
現在、日本の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は平均して23%。自然状況に左右されるなどの理由から安定して大量のエネルギーを作ることが難しいのが現状で、主力電源化にはまだまだ課題を残すが、太陽光や風力などの再エネ発電所の数を増やし、この数字を限りなく100%に近づけようと挑戦し続けている。
地球規模の問題だからこそ、国籍、職歴、年齢の垣根を超えていく
さらに自然電力の活動は日本国内に限らず、海外でも再生可能エネルギー発電所の開発を進めている。「青い地球を未来につなぐ」ことを目的として掲げ、気候危機は地球規模の問題であることから、彼らも地球規模。現在、ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンなどで太陽光、風力発電所の開発を進め、ブラジル、インドネシア、タイでは再エネ発電所をいくつか稼働させている。
こうして海外での普及を可能にしている理由の一つに、チームの多国籍さという点がある。自然電力グループの東京オフィスには、累計28か国からメンバーが集まっている。さらに海外インターン制度「グローバルタレントプログラム」には、5人の募集枠に対して世界中から1,000件以上の応募があったという人気っぷりだ。
「再生可能エネルギーの普及に関して日本はグローバルリーダーの一つ。僕らの掲げるミッションに共感してくれているのはもちろんですが、ここで得た知見や技術を自国に持ち帰り、再生可能エネルギーを広めていきたい思いのある人が多く集まってくれています」(出張さん)
また、「日本の価値観だけで再生可能エネルギーの普及することは難しく、海外の幅広い知見が求められています。彼らが提供する多様な視点が、活動を推進する大きな力になっている」と出張さんは続ける。
さらにメンバーの多様性は、国籍だけでなく、職歴もさまざまで、年齢も20代から70代までと幅広い。「年齢を重ねた方々を我々はマスターズと呼んでいて、彼らはものすごく多くのことを知っている。たとえば山奥に発電所を作るときなど、山間での工事経験が豊富な年配の方は『そういう施工だと雨水がこの辺りに溜まる』『ここの森には希少生物がいるはず』など、僕らにない多くの経験から培った感覚でアドバイスをくれるので、とても助けられています」
再エネ発電所の建設に向いている場所は、往々にして自然環境に恵まれた場所が多いが、古くからその地域に住む住民からは開発を歓迎されないことも多いという。そうしたなかでも粘り強く意義を説き、賛同してくれる人を増し、相手の意見や不安に耳を傾け、国内外さまざまなステークホルダーと合意形成して事業を進めていけるのは、ダイバーシティ溢れるメンバーの多様な視点があってこそのようだ。国籍、職歴、年齢は違えど、「サステナブルな世界を実現したい」という同じ思いを持つもの同志、日々最適なソリューションを模索し続けている。
再生可能エネルギー普及の啓蒙を第一歩に
ところで、電力の大消費地である東京は、こうした再生可能エネルギーの普及にどう貢献できるだろうか。
政府の「カーボンニュートラル宣言」以降、事業者による脱炭素を模索する動きが目立ち始めており、それに伴い自然電力への問い合わせも増えているという。そのなかにはたとえば、事務所や工場敷地内に太陽光パネルを設置するなどして、長期的な視点に立って脱炭素社会実現に向け並走するケースも出てきている。単純に事業者数の多い東京でこうした流れが加速すれば、大きなインパクトになり得る。
自然電力は事業者以外にも、長野県小布施町や熊本県合志市などの自治体と協定を結び、地域のインフラをより持続可能なものへと変えていく取り組みも行ってきている。膨大な電力消費地である東京ですべての電力を不安定な再生可能エネルギーで賄うのは今の段階では非現実的だが、市町村単位、あるいは広域連携を組んで再エネ電源を設置する、というアイデアは考えられる。日常的に利用する電力はそちらで賄いつつ、何かあった時には既存の電源を効率運用するという方法にも、十分可能性があると出張さんは言う。
「再エネの普及には社会全体の理解の醸成が不可欠です。東京は大量消費地だからこそ、省エネとあわせて再エネの普及にも率先して取り組むことで、社会の合意形成を推し進める使命があるのではないかとも思います」
地球温暖化による海面水位の上昇が想定されていたより加速しているとする研究もあり、脱炭素社会の実現は緊急性を増している。このまま気候変動が進んでいけば、日射量が減る、あるいは海流の変化に伴い風の吹き方が変わるなどして、予定していた発電量が賄えなくなり、再エネ普及の成長カーブが鈍ってもおかしくないと、出張さんは危機感を募らせる。
「難しい状況を乗り越えるには何より多様なアイデアが必要。その点、東京はアイデアのるつぼであり、多様性あふれる社会という強みを持っています。スタートアップにも大企業にもいま、サステナブルな社会に向けた取り組みは増えていますし、みんなで協力して知恵を出し合う状況ができれば、いままで以上のスピードで再エネを普及させることができると思います。エネルギーが大量消費される東京だからこそ、エネルギー全体との向き合い方が東京から変わっていくことで、日本全体が変わっていけるんじゃないかな、と期待しています」