グリーン化で描く、世界をリードする「国際金融都市・東京」へのシナリオ
世界で拡大するグリーンファイナンス
少子高齢化などによる経済成長率の低下を食い止め、東京の成長を促進するためには、産業全体の成長の原動力となる金融の活性化が欠かせない──この視点のもと、東京都は世界・アジアの金融ハブに返り咲くことを目指して、「国際金融都市・東京」構想を打ち出している。
この「国際金融都市・東京」構想は2017年11月に発表されたのち、2021年7月には改訂案が出されている。この数年で欧州・アジアの情勢変化をはじめとして国際金融をめぐる世界環境が大きく変化したことを踏まえ、近日中の改訂を目指す(*注:11月1日、改訂版『「国際金融都市・東京」構想2.0』発表)。
改訂の大きな柱となるのが「グリーンファイナンスの発展」だ。グリーンファイナンスとは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境に良い効果を与える分野に特化した資金調達の手段を指す。
地球環境の持続可能性は全人類共通の課題だ。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)によれば、2021年以降の気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2050年までに世界全体でCO2排出量を実質ゼロにする必要があるといわれている。各国が脱炭素化に向けて動き出すなか、グリーンファイナンスやESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)など、環境に配慮した資金の動きは世界中で加速している。
だが、日本の動きは世界から大きく遅れをとっているのが実情だ。
環境保護や社会問題などへの取り組みを考慮した持続可能な投資を普及する国際組織、GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)のレポートによれば、 ESG投資残高の国・地域別構成を見ると、ヨーロッパの34%、アメリカの48%に対して、日本はわずか8%。また、グリーンボンド(債券)の国別発行額では世界で7番目にとどまっているという報告もある(CBI〈Climate Bonds Initiative〉)。
東京から「環境と経済の好循環」を生み出す
「グリーンファイナンスの発展」を柱に据えた国際金融都市として東京が復活するためには、産学官民、特に都民ひとりひとりの参加が不可欠だ。
日本はGDP世界3位の経済大国であり、その経済規模は国際金融都市を目指す上で大きな強みといえる。この強みを活かし、東京を力強く成長させていくためには、都民に資産活用を促す取り組みも必要だ。なぜなら、国内個人金融資産である約1,900兆円の過半は現預金で、潜在的な資金供給余力は大きいといえるからだ。これについて、国際金融都市構想を担当する黒澤宏明氏はこう話す。
「テクノロジーの発展で、金融の利便性は飛躍的に向上しました。銀行や証券会社の窓口に行かなければできなかったことが、スマートフォンのアプリで完結する時代になったのが、その一例です。金融市場がかつてないほど身近になったことを、広く発信していきたいと考えています」
都民が金融市場を身近に感じることができれば、日本におけるグリーンファイナンスやESG投資もますますの発展を遂げるだろう。
さらに、「国際金融都市・東京」構想でグリーン化するのは「金融システム」だけではない。脱炭素化をはじめとする「都市システム」のグリーン化も同時に進めることで、東京をサステナブルな都市へと成長させるのが、都の狙いだ。
構想改訂を担当する高木靖氏は、改訂後の東京の未来を次のように語る。「グリーンファイナンスの発展などを通じて国際金融都市としての東京の魅力が高まれば、国内外の投資家から潤沢な資金が東京に集まり、さらに東京の魅力が向上するという好循環が生まれます。これは、東京の持続的な経済成長、ひいては都民の豊かな生活の実現に貢献し、日本全体の明るい未来にもつながると考えています」
都が国際金融都市を目指す過程では、さまざまな取り組みによって都民の日常生活にも環境配慮の考え方が浸透し、その考えに基づいた消費・投資が自然と促されていくことだろう。街と人が一体となって、着実にサステナブルな社会に向けて歩んでいく東京の未来に期待が集まる。
「国際金融都市・東京」構想2.0 ~サステナブル・リカバリーを実現し、世界をリードする国際金融都市へ~(令和3年11月1日発表)
詳しくは→ https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/pgs/gfct/vision/