働き方を再定義。女性がつくる「暮らす」と「働く」がつながる仕組み

Read in English
 結婚や出産を経た女性が活躍できる仕組みや働き方が社会で拡大している。多様性あふれる街・東京だからこそ描ける未来の多様な働き方とは?
メンバーが仕事について話し合うポラリスのミーティング風景

女性の働き方の選択肢が広がる

 女性が活躍しやすい就業環境をつくるため、産前産後休業、育児休業制度などの整備が企業に求められるようになって久しい。その一方で、育児休業時に母親同士や地域の人との交流が生まれたことから身近な地域に注目するようになり、電車で何時間もかけて企業勤めをするのではなく、暮らす地域で仕事を持ち働きたいと願う女性も増えているという。

 そこで注目されているのが、暮らすエリアに愛着を持ち、地域情報を知る女性たちによる視点を生かした組織や仕組みづくりだ。例えば防災対策は、その土地で暮らす女性の視点を生かすことで衛生用品の配布やプライバシーの確保、防犯・安全対策につながりやすいなどのメリットがある。

 東京都では、地域で働く女性の活躍推進に取り組む企業等に「東京都女性活躍推進大賞」を贈呈し、その活動を後押ししている。令和元年度に同賞地域部門を受賞した非営利型株式会社Polaris(ポラリス)は、女性が持つ地域・生活情報を不動産会社に提供するサービスなどを創出し、地域を軸とした事業を複数展開している。

 創業者・市川望美氏も、出産・育児を機に地域で働くことに目を向けたひとり。当時のことをこう振り返る。「最初は地域でボランティア活動をしていましたが、仕事として報酬を得ることの重要性を再確認。小さな事業でも市場取引の枠組みの中で、働き方の選択肢を増やしたい、今までとは違う選択肢をつくりたいと思い、会社組織を立ち上げました」

 起業にあたっては、時間限定で働ける子育て中の母親を数百人募り、ワークシェアチームをつくって企業からの委託案件を引き受けた。しかし、ひとくちに「子育て中の母親」と言っても、当然さまざまなバックボーンがあり、仕事の仕方や納期の考え方も人それぞれ。当初はチームが上手く機能せずに悩んだという。

重要なのは多様性を生かす仕組みづくり

 行き着いた課題は「仕組みづくり」。各人の感覚的な違いを洗い出しながら、多様性のある女性たちがチームとして仕事を可能にする仕組みを考えた。「察してほしい、ではなく、個々の違いを前提としてコミュニケーションをするという"文化"をつくっているような感じがしますね」と市川氏は言う。

 ポラリスでは現在、子育て中の母親だけでなく、パラレルワーカー、退職後のシニア、地方在住者など、さまざまな人々との組織づくりや事業にもこのノウハウを生かしている。

 新型コロナウイルスの影響により、都心への通勤を控え、自宅などでテレワークをする人が多くなった。暮らすエリアにいる時間が増えたことが、これまできちんと見ようとしなかった身近な地域の楽しさを発見したり、愛着を持つようになったり、暮らす場を働く場にしたいという考え方につながっている。

 東京のあらゆる地域で「暮らす」と「働く」をつなぐ人がますます活躍するようになれば、人々の多様性が活かされるだけでなく、地域経済が活性化し、元気な地域を多数抱える東京の新たな魅力となるだろう。

令和元年度「東京都女性活躍推進大賞」贈呈式で。右から2番目が創業者の市川望美氏
取材・文/小野寺ふく実