非常時に正確な情報を迅速に──行政と都民をつなぐDXに投じた一石
公開までわずか数日......東京都の「新型コロナ情報サイト」
東京都が新型コロナウイルス感染症の情報発信プロジェクトを立ち上げたのは、2020年2月26日のこと。「新型コロナウイルス感染症対策サイト」が公開されたのは、それから約1週間後の3月3日。"爆速"のサイト構築が注目を集めた。
サイトの開発を請け負ったのは東京の非営利団体、一般社団法人コード・フォー・ジャパン。都から受託して短期間でサイトを構築することができたのはなぜか。
「実はコロナ禍という事態に、自分たちにも何かできることがあるのではないかと、普段から話をしていたんです」
そう語るのは、副代表理事の陣内一樹氏だ。IT技術を活用して地域課題の解決を目指す「シビックテック」を推進する一般社団法人コード・フォー・ジャパンは、これまでにも災害支援情報を届けるプロジェクトなどを手がけていたため、今回のサイト開発にも速やかに着手できたという。
正確で、誰にでも分かりやすい情報を届ける
サイト構築に当たっては、開発プラットフォーム「GitHub」にソースコードを公開し、多くの有志と意見交換を行いながら改善を進めていった。デザインを手がけたスタッフの林敬子氏も、当初は有志のうちの一人だった。
「こうしたほうが見やすいのではとか、グラフをSNSでも共有できるようにしてはといった提案を実装していきました。正確さを大事にしつつ、複雑に見えないよう、シンプルに表現することを心がけています」(林氏)
多言語、やさしい日本語を使用することで、多様性のある社会の実現にも貢献する。日々、最新情報を更新しながら情報を整理し、今も試行錯誤を続けているという。
夏の第5波から一転、日本の感染状況は落ち着きを見せている。しかし、一般社団法人コード・フォー・ジャパンは再び感染者が増加する事態に備えて、刻々と変わる状況に対応していくつもりだ。
「ともにつくる」シビックテックへの理解が深まった
東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトが注目を集めたもう一つの理由が、サイトのデータ形式とソースコードをオープンにしたことだ。誰でも利用できるようにしたことで、東京都以外の自治体での活用も広がっていった。
「東京都でつくったものを、他の自治体でも使うことなどこれまでは想定されていませんでした。その認識が大きく変わったことで、今回のサイトにとどまらず、今後の行政にも変化を与えるのではないでしょうか」と陣内氏は期待を込める。
一連の連携は、東京都のシステム開発の考え方にも大きな影響を及ぼした。都はこれまでもさまざまな行政情報をオープンデータ化することに取り組んできたが、OSS(オープンソースソフトウエア)を念頭においたシステム開発を加速させるため、ガイドラインを策定し、都全体でOSS化に取り組み始めた。
さまざまな波及効果を生んだウェブサイトだが、一次的には東京都のコロナウイルスに関連する情報を一つにまとめられたことの意義が大きかったという。
話題になったことで多くのエンジニアが興味を持ち、都民や行政のシビックテックに関する理解も深まった。陣内氏は言う。
「もちろん、アナログに慣れている人もいるので、すべてをデジタル化すればいいわけではありません。しかし、コロナ禍を契機に、世の中の人たちの意識も変わりました。自治体や都民、企業の間で適切に情報を共有しながら、今後も連携を深めていくことが重要だと思っています」
官民による新しい公共のあり方が、大きく広がろうとしている。