節句人形の伝統技術をインテリアアートへ
胴体をパッチワークのように彩る、色とりどりの美しい織物。渋い金色の角がいかめしさを放ついっぽう、どこか愛嬌のある瞳が微笑ましい。存在感たっぷりのこの犀は、動物を象った「anima」シリーズのひとつ。節句人形を手掛ける老舗・松崎人形が2018年に発表し、通年飾れるインテリアアートとして好評を得ている。
誕生のきっかけは、海外販路の開拓を模索する中で得た、外国人バイヤーからのアドバイス。松崎光正社長の友人である彫刻家がつくった陶器の犀が事務所に飾ってあり、こういうものをつくってみてはどうかと提案されたのだという。
「友人の作品は、デューラーの有名な木版画の犀へのオマージュでした。現実の犀とは異なる鎧のような皮膚が特徴なのですが、これを私たちの節句人形で使う"木目込み"の技術でつくったら、メリハリが利いて面白いものができると思ったのです」
木目込みとは、型抜きした木地に溝を彫り、そこに裂地と呼ばれる織物を入れ込んで糊付けする伝統的な人形づくりの手法。松崎社長は素材にも徹底的にこだわった。裂地には金襴など今では手に入らない貴重なものも使い、背や腰の白い部分には典具帖という極薄の和紙を貼り、目は銀箔を変色させた黒箔で仕上げ、角は能面づくりと同じ技法で金泥を塗って磨き込んだ。木地を丈夫で滑らかにするために、胡粉という貝殻からつくる顔料を何度も重ね塗りするなど、目に見えない部分にも手間暇かけるのは人形づくりと同じだ。
「昔ながらの技術を駆使しつつ、今までにないものができました。大胆な配色にしたことで、伝統的な裂地も新鮮に感じていただけると思います」
今年6月には、シリーズの最新作として、昆虫をモチーフにした「insectum」も発売。外部のデザイナーからのアイデアを受け、3Dプリンターを活用した造形に木目込みの技を施した。昆虫標本をイメージした桐箱入りなのもユニークで、また新たなファンを獲得しそうだ。
「こうした新しい出会いを大切にして、今後も可能性を広げていきたい。ものづくりの楽しさが手にとってくださる方にも伝わるような作品を、生み出し続けていけたら本望です」